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ザリガニの鳴くところ | ディーリア・オーエンズ, 友廣純

 ノースカロライナ州の湿地を舞台に、一人の若者が死亡した事件と、両親に見捨てられ、湿地に一人住む少女の生涯を描いた、独特の視点のミステリ。

 湿地に住む少女カイヤの薄幸な生涯だけでも重みのある物語として読んでいける。カイヤがたったひとりでどうやって生き抜いていったのか、カイヤの周囲にいる人達との関わり。何も持たない少女にとっては、ひたすら残酷にしか思えない社会。そういったものをすべてひっくるめて、物語の重要な要素として感じ取れる。そんなストーリーが展開している。

 一方で、社会から切り離された少女が、(本にが望むまいとも)再び社会に接触を持とうとしたときに起きる、様々な障害と悲劇。それすらもたくましく乗り越えようとするカイヤ。そのすべてが物語を読み勧めたくなる原動力として作用している。

 時代設定は今から50年ほど前。50年という時は短くも長くも感じられるが、当時のアメリカの片田舎では、こんな事件が起きると思わせられる説得力がある描写も魅力的だ。

 作者は動物学と動物行動学の博士号を取得していて、カラハリ砂漠の自然と生態について書かれた本も上梓している。動物について研究した者ならではの記述にも注目して読みたい一冊だ。


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