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夏目漱石『こころ』が読みたい話

 高校生のとき、現国の教科書に夏目漱石の『こころ』が載っていた。もちろん全文ではなく一部だ。

 しかし、なぜかその一部分だけを読んで僕は『こころ』の全容が気になり、自分で文庫を買って読んだ。登場人物の愛憎が男女関わらず入り乱れるスリリングな話だった。もっともそういう多角的な見方をするようになったのは大人になってからだったが。

 ともかく、表面的なストーリーを追うだけでも、なんとも言えない感情のもやもやが残る忘れられない話だった。エンターテインメント性もなく、心が浮き立つような楽しさもなく、ひたすら人生の苦悩と悔恨を語るような作品のどこにひかれたのか。自分でもよくわからない。

 いずれにしても、これをきっかけに高校生のいっとき純文学をあれこれ読んでいた時期があったというわけだ。細かく言えば年代も小説の形態もバラバラに読んでいて、高校で教わった文学史などどこ吹く風で手当たりしだいに読んでいった。

 しかし、今になって振り返るとびっくりするぐらい読んだ小説の内容を忘れている。人間の記憶力なんてそんなものかもしれない。それで最近、少し純文学の古典に戻ってみようかと思っているのだ。

 とりあえずは、きっかけとなった夏目漱石の『こころ』から読んでみようか。気が向けば、当時読むことのなかった他の作品にも興味の幅を広げてみたい。そういう本の読み方もいいものだろう。


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