全部本屋に預けてある

 今日も本の話。

 本との出会いは一期一会である。本屋に行けば、いつでも新しい本との出会いがある。そうすると、前後不覚になった僕は、あれも欲しい、これも欲しいと気になった本を片っ端から手にとって、また読めない量の本を買い込んでしまう。そう、買っても到底読みきれないのに買ってしまうのだ。なぜなら、今ここでこの本を買わなければ、もう一生その本と出会うことはないと思ってしまうからに他ならない。

 日々新刊であふれる書店の棚は、流れる川のようだ。今この瞬間に、これは!と思った本を見つけても、次回本屋を訪れるまで買わないでいると、あっという間にその本はどこかへ行ってしまう。平積みから棚へ移動されたのか、それとも売れ行きが芳しくなくて返本されてしまったのか。そもそも、僕自身がその本の存在を覚えていられない。
 そう思うと、今買わずにはいられないのだ。買って、狭い我が家に置いておけば、今すぐ読まなくとも、いつか順番が回ってくるはずだ。積ん読も読書のうち、買った本の1/3(そんなに読めていないが)が読めれば上等。そう考え、常に本を買うことと、買った本を読み終えなければならないことのプレッシャーに苛まれながら日々生きているのである。

 しかし、最近、そんな愚かしい僕の生活を救うものが現れた。各書店が用意してくれたスマートフォン用の『在庫検索アプリ』である。スマホを使って、書店の在庫を検索し、好きな時に注文、取り置きができたり、どこの店舗にお目当ての本があるのが探したりできる、最新技術が生み出した、実に有能な秘書である。なんと言っても一番助かるのは、欲しい本をリストに入れて、いつか買うために控えておけることだ。これなら忘れることもないし、書店に行くたびにそのリストを眺めて、「今日はこれを買おう」と、その日の気分で買い物ができる。川の流れのように通り過ぎる危機感がないから、余裕を持って本選びができる。必然的に買い過ぎを抑えることができるというわけだ。

 しかし、そうやって、喜んで欲しい本をリストに放り込んで安心していたら、その数が先日ついに500冊を超えてしまった。
 ……果たしてこれはいつか買いきることができるのだろうか。いや、買ったとして読むことができるのだろうか。そもそも、少しずつ買ってはいても、その倍以上のスピードで日々リストに欲しい本が放り込まれているではないか。
 冷静に考えると、リストがあるがために、読みたい本が無限に積み重ねられている気がするのである。いや、気がするんじゃなくて、明らかに増える一方だ。僕の欲しい本リストは、賽の河原で積み上げられた石の塔ではないか。これは僕が成仏するまで崩されることはないんじゃないか。

 ……いや、やめよう。そうじゃない。欲しい本は積み石の刑なんかじゃない。僕が将来買う本を、今は本屋に預かってもらっているリストなんだ。そのうち取りに行くからそれまで預かっていてください、本屋さん。

 そう思い、今日も心の平安を保つことにしているのである。

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