【映画】シン・仮面ライダー

すでに意見や評論は出尽くしているのですが、あらためて自分の感想と意見を。
(アップ後に追記……観たのは公開3日後で、IMAXでの鑑賞でした)

全体には、石ノ森章太郎氏の漫画版(原作とは言えない)「仮面ライダー」をベースにしたストーリーと、ライダーのカッコよさには概ね満足できました。

「シン」シリーズはどういう作品群なのかというと、「もともとどんな作品なのかを蘇らせようとする企画」なんだろうと考えていました。

「シン・ゴジラ」は、1954年、誰も見たことも想像したこともない巨大な何かが都市を襲い、それによって思い起こされる、9年前(!)の太平洋戦争の恐怖。
その感覚を2016年、5年前の東日本大震災を思わせるビジュアルで描き、「誰も見たことも想像したこともない巨大な何かが都市を襲う恐怖」を見事に蘇らせました。
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、TVシリーズ初期の展開から誰もが期待した結末に近いものを見せて「そういやエヴァってこういう作品だったよなあ」と思い起こさせながら美しく完結。
「シン・ウルトラマン」は、怪獣が大人気のところに銀色の巨大宇宙人が来て戦ってくれる楽しさ、東京オリンピック時代の明るい世相を作中で再現しようとしましたが、旧作のユルさまで再現したところが良くも悪くも「シン」でした。

そうすると、「シン・仮面ライダー」は、旧作それも初期の、暗くドロドロして貧乏くさい作風、さらにいえば人気がなかったところまで再現するのでは……と懸念していました。
だから期待値は低めで見積もっていのですが、ある程度は予想に近いものでした。
予想外だったのはかなり漫画に準拠したこと、2号までしっかり描いて旧作の全体像を描こうとチャレンジしたように思えることでした(旧作TVシリーズは、大人になってからは第1話ぐらいしかきちんと見ていないのであまりきちんと語れないのですが)。

特に2号こと一文字隼人が素晴らしいキャラクターと演技で、柄本佑氏の株が一気上昇しましたね。
とても良かったと思います。

俳優陣はとても良かったのですが、演技面では疑問もあり、序盤で塚本晋也が出てきて説明しまくるところで「ん? 不自然な場面とはいえ、何か上手くないな……」と疑問に思いました。
続く浜辺美波による「説明」も、何か上手くない。
説明台詞の問題点を「官僚はひたすら説明する」などのリアリティで一気に解決した「シン・ゴジラ」から、後退していると思いました。
中盤以降はノリが良くなってくるのであまり気にならなかったのですが、ここは減点要素でした。

一方、不自然な演技を徹底することでそれらしさを出したサソリオーグ役の長澤まさみは大変良かったと思います。
長澤まさみというのは、キャラ付けの強い単純な役をやっていても、どこか生々しさを残すことができる役者なんだなと思いました。
見ていて「この女優誰だろ…… この吹っ切れ方は、ただのセクシー担当の安い女優じゃないだろ…… 長澤まさみだ!」と気づく流れが非常に素晴らしかったですね。
出演者が公開されてない時点で見た楽しさでした。

で、冒頭で述べたように仮面ライダーのカッコ良さがしっかり出ていて、ヘルメットとスーツの造形が素晴らしいです。
これだけで新作を作った価値はあったというぐらい。
バイク走行が気持ち良さそうだったりと、このあたりは大変魅力的でした。

ダム、工業地帯、山林などライダーらしいロケ地に「戦後日本の原風景」を感じられたりするのも良い点です。

ただダムのあたりとか、公道が映っているのに通過する一般車輌などもまったく映らない。
そこまで人けのない場所でもないんじゃないかなあと違和感を抱いていると、結局一般人が全然映らない映画であることに気づきます。
一般人といえば、怪人に操られて商店街を練り歩くところぐらい。
「シン・ゴジラ」を期待するべきではないと思いつつも、あの映画は多くの日本人が「自分たちの物語」だと感じたすごい作品であったことを思うと、SHOCKERがいたら我々一般人はどう感じるのだろうか、というあたりは見たいですよね。
残念なところです。

そして私が非常に気に入らないのは、安手のVFXですね。
特にコウモリオーグとか、「いやたしかに、成人男性の体重で飛翔するといえばケツァルコアトルス(翼長10メートル以上の白亜紀の翼竜)みたいな巨大な表面積が必要になるから無理なのはわかるけどさあ……」と思いつつも、何かもう少しそれらしい動きにしてほしいと思いました。
コミカルに演出しているのも、何か手塚とおるの存在に逃げてないか!?とも……
このような安っぽさは全編にあり、それは旧作のオマージュであるとして受け入れようとする意見も多いです。
しかしそういうセンスはオリジナルビデオ作品でやるようなものであって、劇場公開作品でそれは、単なる低品質だと思うのです。
あと「シン・ウルトラマン」にもあったiPhoneなどで撮った低画質の映像、暗くてわかりづらいトンネル内のアクションなども劇場用映画として適切なクオリティといえないのも問題です。

このあたり、80年代前半「スターログ」を読んでいた私のような層は「日本特撮の技術とセンスを世界レベルに引き上げてほしい」と願い続けていると思うのです。
「日本特撮の職人技がイイネ」という「宇宙船」志向だと今作を評価するのかもしれないですが、世界と戦ってほしいんですよね。
先日観た「レジェンド&バタフライ」はVFXの使い方(と、おそらく予算の使い方)が上手で、国外に出しても違和感がないレベルだと思ったので残念でした。
ちなみに「スターログ」「宇宙船」はどちらもSFビジュアル誌で、簡単にいうと前者は洋画指向で「SFX」重視、後者は邦画とTV指向で「特撮」重視という特徴があります。
80年代に休刊して2000年代に復刊、また休刊した「スターログ」と、いまでも季刊で発行が続いている「宇宙船」、という対比からすると、後者の方が厚くて息の長いファン層を確保しているのだと思いますが、私は「スターログ」派。

話は戻りまして「シン・仮面ライダー」ですがクライマックスのラスボス戦は「良くも悪くもライダー夏映画」だなあと思いましたね。
あまり金のかかっていないセットにラスボスがいて、戦う。
ついでに旧石ノ森キャラみたいなのも出てくる。
ライダー夏(とか冬とか春もありましたが)映画はいくつか観たのですが、それなりに頑張っていて面白い作品が多かったです。
そう考えると、平成ライダーというのは全体に水準が高くて、毎年のように「原点回帰&新基軸」を相応に成功させている中で旧作をリブートするというのは難しかったことがわかります。

しかしいずれにしても、「シン」シリーズといえばドル箱となるべき有名監督の一大ブランドといえるわけで、制作予算はドンと弾んでほしいわけです。
子供の頃はウルトラマンにしても仮面ライダーにしても、それが事実を撮影したものだと思っていた時期があったりするわけで、「子供騙し」の着ぐるみが本物の怪獣怪人に見えていた。
これを、その子供が大人になっていても本物じゃないかと思えるぐらいのクオリティにすることに、新作の意義があると思うんですよね。
監督は「これは旧作オマージュだからいいんです」って言うんだろうけど、製作側はそういうことに甘えるべきではなく、「超大作! みんな観にこい!」ってスタンスで宣伝できるようにしてほしいなあ。


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