【読書】ハンチバック

https://books.apple.com/jp/book/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF/id6450197687

芥川賞作品などはあまり読まないのですが(読みたくないわけではなく優先順位が低いだけ)、ラジオでの紹介を聞いて大いに興味を抱き、Apple Booksで購入して読んでみました。

重度障碍者の生活のディテール、下品な風俗記事の描写が交わって、「障碍者の性」「性における障碍者」という難しい題材の極北のようなすごい小説でした。
淀みのない、悪意とユーモアが満ちた文体が時折見せる切実さ。
面白くて、この人たちこれからどうなるんだろうとワクワクしながら読んでいたら、いきなり終わってしまい驚きました。
芥川賞なんであまり長いのは受賞しないかーと気づきましたが、紙の本と違って長さの感覚が掴みづらい電子版だと、こういうことがあります。

そんな紙の本とその読者を強く憎んでいるとの主人公の述懐に、たくさんの本好きがヤラレタと衝撃を受けたのも、本書の強い意義のひとつでした。
健常者たる私はこのさい、便利な電子書籍なんかではなく紙の本を買って読んで、自らのマチズモを実感し作者の悪意に苛まれるべきかも、と思ったりもしました。
そんな屈折に満ちているのが本書の面白さです。

世界・人間・心身を見る新たな視点(といっても障碍者の方達はずーっと知ってたもののはず)を得る、重要な読書体験となると思いました。
どぎつい記述も多いですが大人は一度は読んでみたほうが良いでしょう。

さてこうした社会的観点から注目される本書ですが、エロチカの文脈においても重要なんではないかと思いました。
それはもう、マルキ・ド・サドにまでさかのぼる、フリークとエロスの深い結びつきの歴史に関わるのではないかと。

また、本書を読んで思い出したのが山野一の漫画です。
山野一は、80年代から90年代にかけてガロに悪趣味な漫画を発表していた人。
鬼畜系とされる作家ですが、どうもインド哲学とか仏教への理解が深いようで、どうしようもなく猥雑な世界を描きながら、その底にある透明な何か(善でも悪でもない、ピュアなのは確かだけどきれいさのかけらもない感じ)が垣間見える作品がいくつもあります。
「ハンチバック」にみられる、視点や時間が交錯する叙述なども含め、どことなく山野一に通じるテーマ性、またいくつかのモチーフも似たものが感じられました。

などと、いろんなことを思わされました。
やっぱり、芥川賞作品ともなるとさすがという感じがありますね。

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