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【漫画】二月の勝者(第21集)

20集が出たタイミングでレビューしましたが、21集で完結。
21巻完結というと最近の連載マンガとしてはコンパクトな部類に入るかもしれませんが、なにしろうちの長男が中学受験中に読み始めて、その長男も高校2年、次男も受験を終えて中学2年、という歳月がありましたから、なかなか手応えのある期間でした。

最新刊の表紙は、柔和に微笑む黒木のアップ。
これが示すように、黒木の真の動機(仕事や活動のきっかけだけではなく、何によろこびを感じる人なのか、という意味を含めての動機)が明らかになります。
物語としては、黒木が本当はどういう人なのかを長い時間をかけて描いた作品で、シリーズ初期の印象的なエピソードもそれに深く関わっていることがわかります。
「息子をサッカー選手にするから中学受験させない」という父親を説得する場面ですね。
プロサッカー選手になれる確率だけでなく、高校受験の時期にサッカーをさせないことの不合理も指摘していて、あのあたりで中学受験のメリットの多くが感じさせられる重要なエピソードでした。
読者もまた、あの父親と同じように黒木の術中にはまるんですよね。
あのとき、黒木がサッカーが上手であることが示されていて、今にして思えば…… と思えるしかけになっています。

そしてもちろん重要な、無料塾に関する話。
黒木の重要な動機の話です。
ここはまだまだ掘り下げようがあるところなので、もっと描いてほしくはありました。
本作がヒットする過程で、受験ノウハウや受験あるある、またお仕事ものといった側面が注目されてきたので無理もないのですが、真のテーマのひとつであったはず。
フェニックスの灰谷が、黒木を理解しないままに終わっている様子なのも少々残念にも思いました。

ただ、全体ににじみでるリアリズムは、実はこの作品の非常に重要なファクターであったようにも思いました。
あれだけがんばった子供たちが、その後それほどめざましい学歴を得るわけでもないことに、皮肉のようなものを感じる人もいたようです。
今回の21集全体を通じて、荒唐無稽とすらいえる合格を得た二人のキャラクターがおり、それに対して黒木が「漫画やドラマでしかあり得ない」とコメントしましたが、それ以外は順当な合格を得ていました。
そもそも桜花ゼミナールは中堅進学塾で、メインの子供たちもその中で特に優秀というわけでもなかったのが、しっかりした指導と本人と親の努力で合格を得る、という話ですので、超一流大学に入れるかというとそれは全然別の話。

あえていうなら、小学生の時に振り分けられたレイヤーからそう大きく逸脱することはない、という学歴社会の良い面も悪い面も描いているわけですね。

また灰谷がフェニックスの人らしい結論を得たままで終わるのも、リアリティというよりリアリズム(黒木と灰谷の対立で続編が描かれる…… なんていう可能性も考えてしまいましたが)。
いかにも青年漫画っぽい主人公としての佐倉も、適切な自信を得て現実的なキャリアを選ぶし、彼女の動機の原点となった子供のその後を聞いてズッコケるところのありそうな感じもいいですね。

しかしながらこうしたリアリズムゆえに、主人公たちが感じる感情がもたらす感動に実感と共感を得られることが素晴らしいです。
そして、黒木は自分の動機に忠実に、世界を変えるチャレンジを行うことが示されて完結。
物語の最初に示される「この現実の中でどう生きるか」というテーマで着地したのだと思います。

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