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その「お」、本当に要りますか?~気になる敬語#3

今回は、とあるホテルの前を通りがかったときに見つけた看板がテーマです。

フロントに行くのに階段を使わなければならないホテルが、お客様への配慮を伝えるための素晴らしい掲示なのですが、少し接頭辞「お」の使い方が気になります。

それが 、

「お手伝いを必要とされるお客さま」の

「お手伝い」です。

接頭辞とは

接頭辞とは、言葉の頭に付けて、元々の言葉にニュアンスを加える言葉のことです。「”か”細い」「”真”新しい」など。接頭語とも言います。

今回取り上げる「お手伝い」の「お」も接頭辞の一つです。主に敬意を表しますが、同じ「お」が文脈によって意味を変えるので、なかなかに使うのが難しい言葉です。

そこで、今回の文脈を見てみましょう。

その「手伝い」は、誰に属するのか

「お手伝いを必要とされるお客さま」なので、「お客さまのお手伝い」と解釈したくなるかもしれませんが、これは「もし必要なら」という仮定の話をしているだけで、まだ「お客さまのお手伝い」とは言えません。この時点での「手伝い」はまだ誰にも所属してない、抽象的な可能性の話に留まっています。

もしこれが、「お客さまの荷物が大きすぎて運べないなら」という仮定であれば、荷物は既にお客さまの物のことを指しているのは明らかなので「お荷物」と「お」を付けるのが正解です。仮定とされているのは「大きすぎて運べない」という部分だからです。

その「手伝い」の行為者は誰か

一方、手伝う行為者はホテルマンで確定しています。

ホテル側の行為に敬意のニュアンスを加えてしまうということは、
「俺様の手伝いが必要なら手伝ってやるぞ」
ということになってしまいます。

「手伝い」に「お」を付けてよいのは

実際に客からの依頼を受けた後であれば、お客さまを立てることになるので「お手伝い」と言えます。例えば「お手伝いができて光栄です」は正しい使い方になります。

美化語の「お」?

いやいや、これは美化語の「お」だ、という意見もあるかもしれません。

母親が子どもに「お手伝いしてくれるの?ありがとう!」と言うとき、これは子どもが手伝う対象である母親を立てているとみると、自分で自分を立てる自敬敬語ということになります。それよりは、特定の誰かを立てるのではなく、言葉を飾る「お手伝い」という美化語と解釈されるのが普通です。

この例のように、不要で過剰な美化語は、特に子ども相手のときによく使われます。ひるがえって考えると、相手を子ども扱いしているように解釈されます。

これも控えたほうが無難でしょう。

つまり、「手伝いを必要とされるお客さま」が正解です。

でも、やっぱり「お」がないと心配?

・頭では分かっても、やっぱり「お」が付けられる言葉なら「お」を付けたい。
・「手伝い」ではぞんざいな感じがしてしまう。
・接客業としては、敬語が間違っていると思われることよりも、万が一にも敬意が不足していると思われることのほうをこそ避けたい。

そのような向きもあろうかと思います。

そんなときは正しい敬語から適切な文章を考えてみましょう。

「お~する」の公式を使う

「お」単独ではおかしくても「お~する」の公式なら使えます。

「お~する」の公式は、行為者がその行為によって誰かを立てるときに使います。

今回のケースでいえば、客のための手伝いと確定はできませんが、手伝うのはホテル側で確定していました。(自分が「やる」と宣言するのは自由です)

ということは「(ホテルスタッフが)お手伝いします」とは言えます。

つまり、別の言い方として
お手伝いしますので、インターホンにてお気軽にお申し付けください
などが言えます。いかがでしょうか。
これなら、手伝いが不要な人は依頼しなければよいだけなので、押しつけがましさもありません。

一つの言い方にとらわれず、敬語を自由自在に使いこなしてください。

もし、ちょっと敬語を勉強してみようかなと思われたら、ストリートアカデミーで敬語講座を開催しておりますので、ご検討ください。

「御(お・ご)」から主体尊敬と受け手尊敬を理解する講座

文脈によって意味の変わる「御(お・ご)」の仕組みを理解することで、敬語の基本が分かります。

それでは、また。

不適切な敬語は、文法を知らないで使っていることが原因です。知らないことには正しい敬語を使いようがありません。そして、誰かに聞こうにも教えてくれる人が周りにいないのが、多くの人が置かれている現状です。私も周りに聞ける人がいなくて敬語を身につけるのに苦労しました。
そこで、こんな記事を書いております。ご自身の敬語が気になる方は、どうぞ参考になさってください。

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。