ご案内のとおり~#気になる敬語24
先週、集金に「ご」を付けるべきかどうかを記事にした。
その記事に優まさるさんがコメントをくださった。
そのコメントがこちら。
案内された側を立てる「ご案内」
「先ほどのご案内に間違いがありました。申し訳ございません」などと使う場合、案内した行為者ではなく、案内された側を立てる。(この使い方を<受け手尊敬>という)
直前に何かしらの話があり、それを指して「皆さまに当方から案内したとおり」という文脈で「ご案内のとおり」使われるならよいが、それがないまま唐突にこの言葉が出てくると、「え、今何か案内されてたっけ???」という感覚に放り込まれるような気がする。
ただ、「ご」には他にも立てる方向性がある。
案内する側を立てる「ご案内」
「社長直々のご案内なんて、よほど大切な顧客なんだな」などと使う場合、案内する行為者本人を立てる。この例文でいえば、社長を立てている。(この使い方を<主体尊敬>という)
まさか国会で政治家が自分自身を立てるわけはあるまいから、この使い方とは解釈しづらい。
そうすると、案内された側を立てる使い方でも案内する側を立てる使い方でもなく袋小路にはまってしまったような気がするが、ここは視点を変える必要がある。
それは「案内」の意味だ。
「案内」の2つの意味
「不案内で申し訳ございません」という言い方を聞いたことがあるだろうか。最近あまり耳にすることがなくなったが、「よく知らなくて申し訳ございません」という意味だ。
上記で触れてきたのは「知らせる、導く」などの意味だが、案内には「よく知っている」という意味もある。
つまり今回取り上げた「ご案内のとおり」とは、知っている本人を立てる<主体尊敬>の使い方であり、「もうすでに皆さまがよくご存じのとおり」という意味だ。
では、そう言ってくれたらいいのに、と思った人はいないだろうか。
そのほうが、よほど言葉の意味が分かりやすい。
しかし、実際にそう言われたら、こんな反応が返って来はしまいか。
「いや、そんなことよく知らないぞ!」
その敬語は誰のために使われているのか
敬語は本来敬意を表すために使う。
「ご案内のとおり」という言葉自体に文法上の誤りはない。
しかし、あえて使うべきでないところに使うなら、表す意味も嫌味や冗談などに変化する。
①敬意を表す使い方
その話を聞いている主要な人々にとってよく知っている事柄について言う場合、その人々への敬意を表す。
②敬意と反するあえてずらした使い方
その話を聞いている主要な人々にとって、決してよく知っている事柄とはいえないことを分かっていながら使うなら、そこは既に共有されているものとしてしまうことによって議論の対象にしたくないという意図が隠されているかもしれない。
敬語を知り、敬意のない人たちから身を守る
敬意を込めた敬語の使い方が分かっていれば、敬語を使っていなくても敬意と反する言葉遣いに気付きやすくなる。
例えば「なぜ〇〇は▽▽するのか」というような題名がついた本が流行ったが、この題名を付けた人は、見た人に「え!?〇〇は▽▽するんだ!知らなかった。なぜだろう」と思わせようとしてはいまいか。「なぜだろう」と注意を先へ飛ばすことで「〇〇は▽▽する」という事実を無批判に受け入れさせている。
(本の中身について云々言うものではないので悪しからず)
他にも、「一度、詳しくお話を聞いていただけませんか?」と質問されれば「嫌です」と答えやすいが、「平日と休日だとどちらがご都合よいでしょう?」という質問を先にされてから「ではその日に伺いたいのですが、よろしいでしょうか」と畳みかけられれば断りづらくなる。
ちょっと、話を広げすぎてしまっただろうか。
表面上の敬語の知識しかないと、敬語を沢山使っていれば自分に敬意を払ってくれているものと勘違いしてしまう。しかし、それでは相手の思うつぼ、ということもあるかもしれない。
相手の敬意を読み取ろう。
それでは、また。
toiroでもオンライン講座始めました。
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。