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尊敬語として使われる受身形はなぜ問題なのか

以前のブログにて、敬意も低く誤解も生じやすい受身形は敬語としてなるべく避けたほうがよいということを書きました。👇

その記事に対し、のぼる大師がくださったコメントがこちら。

いつも鋭い視点をありがとうございます。
この記事は、読む気になったときに読んでください。
来年でもかまいませんよ!

受身形と「こちら〇〇になります」

まず受身形とは「書かれた」「食べられた」など、誰かにされたことを表す表現ですが、それが敬語としても使えます。

次に「こちら〇〇になります」とは、1個しか買っていないのに「100円になります」とか、「当店はセルフサービスになります」など、変化を表すときの言葉を敬語のように使っている事例を指します。

この二つの決定的な違いは、いかに紛らわしくとも受身形は正しい敬語であるのに対し、敬語のつもりで使われているであろう「こちら〇〇になります」は間違った用法であるということです。

では、受身形が正しいのに、何を問題視しているのかというと、敬度(敬意の度合い)の使い分けができないということです。

平明・簡素な新しい敬語法としての
『これからの敬語』

これからの敬語』とは、昭和27年に国語審議会が文部大臣に上げた建議です。
この建議にはいくつかの目的があり、相互尊重などこれまでの封建的な敬語からの離脱を促す点など、良い点もあります。ただ問題が、論旨の一つである「これからはこうあるほうが望ましいと思われる形」として「平明・簡素な新しい敬語法」を挙げたことです。

下記の、動作を表す言葉をご覧ください。

6 動作のことば

以下が、『これからの敬語』の『6 動作のことば』です。

https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/01/tosin06/04.html

「簡単」という理由から「将来性がある」として、国として受身形を推奨してしまったことが問題でした。話す内容も「簡単」になるなら問題はありませんが、微妙な上下関係を表すのに「簡単」な敬語だけでは無理があります。

Ⅱの「おーになる」の型もあるにはありますが、簡単なほうを国が推奨しているのにわざわざ難しいほうを使うことはありません。結局Ⅱの型を使いこなせない人が多い現在につながってしまいました。

それでも、受身形を使っている分には間違ってはいません。
しかし、受身形だけで事足りるのでしょうか。

受身形だけでは日常会話を乗り切れない

お客さまに向かって、上司に向かって、受身形だけで会話ができるでしょうか。

お客さまに向かって「配達はいつを希望されますか」、
上司に向かって「新人にこの件は説明されましたか」、
では、少し敬意が足りなくて困るのです。

そこで本来なら「ご希望になりますか」「ご説明になりましたか」とⅡ型を使うべきところですが、身についていないものは使えません。身についているのはⅠ型だけですからⅠ型でなんとかしようともがきます。

その結果が受身形に「ご」を加えるという敬意の足し方(誤用)です。
それを不等号を使って表すと下記のようになります。


希望されますか  < ご希望されますか
説明されましたか < ご説明されましたか


もちろん、このような使い方は間違いであると『これからの敬語』の4章の(3)の中には書かれているのですが、Ⅰ型の隣にあるⅡ型も忘れられてしまったのに、そんな細かいところが思い出されることはありませんでした。

このように『これからの敬語』で受身形を推奨したことが、現在の敬語の乱れにつながっているのです。
だから、敬語学者の萩野 貞樹は怒っていたのです。

そして、その怒りを隠そうとしない萩野 貞樹先生がなんだか好きなのです。

それではまた。


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