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「お待ちすることはできません」#気になる敬語11

「お待ちすることはできません。」

これが映画の中のワンシーンだとしたら、いったいどんな情景を思い浮かべますか?

目を潤ませたうら若き女性が、親の決めた縁談のため、愛する人に別れを告げる……。

「ごめんなさい。もうこれ以上、お待ちすることはできません。」

そんなセリフはいかがでしょう。

しかし、実際にこの言葉を見掛けたのは、街の駐輪場でした。

お待ちすることはできません

「お待ちする」が立てるのは誰か

「お~する」という敬語は、「~」する人を立てません。

「お待ちする」と言った場合、立てるのは、誰かを待っているその人ではなく、待たれているほうの誰かです。
※行為者を立てず、行為の受け手を立てるので、受け手尊敬といいます

「利用者のみなさまへ」で表現される人間関係

まずは、この貼り紙から読み取れる人間関係を整理しましょう。

この貼り紙を書いたのは、もちろん駐輪場側の人間でしょう。
そして、「利用者のみなさまへ」と利用者を立てています。

この言葉で表現されている人間関係は、駐輪場側の人間が下、利用者が上です。

目上<利用者>
    ↑
目下<駐輪場>

このような人間関係が表現されています。

では次に、「お待ちする」を見てみましょう。

行為者は誰か(誰が待つのか)

①駐輪場側が待つ

「お待ちする」で立てるのは、待たれているほうの人間であると述べました。

では、待っているのは誰でしょうか。

登場人物が、利用者と駐輪場側の2者しかいないなら、立場が下なのは駐輪場側ですから、駐輪場側が利用者を待っていることになります。

つまり、隠された言葉を補うと、下記のようになります。

(わたくしども駐輪場の者は、利用者のみなさまを)場内でお待ちすることはできません。」

人間関係に齟齬はありませんが、なんとも不思議な状況です。

駐輪場に管理者がいるなら、場内にいるのが通常ではないでしょうか。
なぜ場内で待てないのか、また、なぜわざわざそれを貼り紙にして告知する必要があるのか。

待っているのは、駐輪場側ではないかもしれませんね。

②利用者が待つ

利用者へ向かって呼びかけている内容ですから、「お待ちする」の主語は、利用者かもしれません。

そう考えると、利用者が誰かを待っていて、その誰かは利用者よりも目上ということになります。

もっと目上<誰?>
      ↑
   目上<利用者>
      ↑
   目下<駐輪場>

敬語は、人にしか使えません。また、誰か分からない人を立てるということもできません。ということは、こういうことを言っていることになります。

(利用者のみなさんはあの方をお待ちなんですよね。もちろん、そのことは分かっています。あの方の前では、利用者のみなさんもわたくしどもも、同様にへりくだらなければなりません。しかし尊いあの方のためとはいえ、)場内でお待ちすることはできません。」

いつ駐輪場の利用者になってもおかしくない私ですが、そのように尊いあの方が誰なのか、想像がつきません。

このように、この文の主語が誰かというのは、2つの可能性しかありませんが、どちらを採っても不可思議な解釈しか成り立ちません。

敬語は人間関係を表す

敬語は人間関係を表します。だからこそ、主語や目的語を省いても文意が誤解なく伝わるのです。

逆に敬語を間違って使うくらいであれば、主語や目的語をきちんと入れて、敬語を使わないほうが分かりやすい文章になります。

「場内で、空くのを待つことはできません」

正しい言い方は一つではありませんが、参考としてみてください。

それでは、また。

不適切な敬語は、文法を知らないで使っていることが原因です。知らないことには正しい敬語を使いようがありません。そして、誰かに聞こうにも教えてくれる人が周りにいないのが、多くの人が置かれている現状です。
私も周りに聞ける人がいなくて敬語を身につけるのに苦労しました。そこで、こんな記事を書いております。
ご自身の敬語が気になる方は、どうぞ参考になさってください。

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世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。