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責任の所在~ローレンス・シルバーマン(1)に寄せて

すみません。流れはもうローレンス・シルバーマン(2)に進んでいるんですが、私はまだ言いたいことを言い終えておりませんので、ここにこだわらせてください。

今回は森氏の女性蔑視発言について、発言の内容ではなくその取り上げられ方の問題について書きたいと思います。

「女性というには年」発言は、また話が広がってしまうので触れません。

一、外交上の失敗

オリンピックとは何のために行われるのか。
東京都オリンピック・パラリンピック準備局のサイトによれば「スポーツを通した人間育成と世界平和を究極の目的とし」云々と書かれています。

また、国連サミットで採決されたSDGsの5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」とあり、現在「ジェンダー平等」は世界の関心事です。女性が管理職に何パーセントいるかで株価にも影響します。政治的にも経済的にも注目されているテーマです。

この2点を踏まえ、元総理大臣ともあろう人間が、東京五輪パラリンピック大会組織委員会の会長(当時)という立場にありながら、国連サミットに反する態度を悪びれもせずに世界の前でとったわけですから、非難されるのは当然です。
会長の座に置いておけないというのも当然でしょう。

しかし、それ以外の主張も当然と言えるかは疑問です。

二、なぜこうなるまで誰も何も言えなかったのか

「会長が公の前であんな失言をするまでに誰か止める人はいなかったのか」こんな主張もありました。

これは本末転倒です。

誰から何を聞くかは上位者が決めます。会長なのですからトップ、一番の上位者です。もし誰も止める人がいなかったなら、森元会長自らが人の意見を聞く姿勢が足りなかったと反省すべき問題です。もしくは彼を会長に任命した人間が人選を誤ったことに対して反省すべき問題です。
間違っても、上位者の求めていないことであろうと言うべきだったと下位者が反省すべき問題ではありません。

もし、上位者が求めていないことを下位者が言うべきという主張が通用してしまったらどうなるか。

例1)新入社員に研修をした後の発言

マニュアルが今どき紙で配られるなんて非効率的ではありませんか?
先ほど、説明のときに「マニュアルはちょっと古いから」とマニュアルに書いてあることと違うことをするように説明なさいましたが、それであればマニュアルを先に更新するべきではないでしょうか。
自分は環境の改善を要求しているだけですし、間違ったことは言っていませんよね。もし、先輩から上司に言いづらいようであれば、自分から直接話しても構いません。改善されないようであれば、労働基準監督署に相談してみます。

↑ こんな新入社員が入ってきたら、きっと先輩は採用を決めた人事部を恨むことでしょう。

例2)新商品の開発に向けていよいよ最終決議に入ろうという会議の局面で

進行:それでは、皆さん商品AとBとどちらがいいか、採決を取りたいと思います。
社員:すいません。やっぱりちょっと、商品Aがいいとか商品Bがいいとか、そういう問題じゃないんじゃないのかなって疑問に感じてしまって。そもそもターゲットはもっと絞ったほうがいいんじゃないでしょうか。ターゲットを広げすぎると、誰にも刺さらない商品になってしまいます。

↑ こんな発言を認めていたら、何も決まりません。

上位者の間違いは下位者が正すべきだ、立場に関わらず思ったことは言うべきだ、こんな誤解が広まったら、職場は効率化どころか混乱を極めます。

三、女性の発言権を認めるべき

これを判断するには情報が足りません

森氏は「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」と言ったわけですが、これが意見を出しましょうというブレインストーミングの会議での話なのか、それとも最終決議を採りましょうという会議での話なのか。

その長すぎる発言をする女性たちは、いったいどのような説明を受けてその会議に臨んだのか。

例えば会議に出て意見を言うのに、事前に資料に目を通したり、予め参加者と意見交換をしてこれなら通りそうだという辺りの意見をまとめておいたりという準備はあってしかるべきかと思いますが、そういう準備なく無駄な発言が多かったのか。

それとも、「皆さんの意見をお願いします」と請われて意見を言ったら長すぎるという評価になったのか。

このように、どういう状況で森氏の発言に至ったのか様々な原因が考えられます。それをまとめると以下になります。

原因①事前の説明の問題なのか
原因②進行役の問題なのか
原因③話が長かった個人の問題なのか
原因④それとも女性はそもそも話が長いという問題を抱えているのか
原因⑤森氏の女性蔑視バイアスが話を長く感じさせているだけで実際はそんなことはなかったのか

ちょっと考えただけでもこれだけの原因が想定できるなかで、⑤だと断定できるでしょうか。まして⑤の「森氏」の部分を「男性中心であるところの日本企業全て」と置き換えられるでしょうか。

原因が異なれば、対策も変わります。

対策①森氏のやり方に慣れた人たちだけが持っている暗黙のルールを明文化し、きちんと共有してから会議を行う

対策②ただ進行役に当てるのではなく、訓練や研修を受けさせる

対策③必要に応じて個別フィードバックをする(あまりにもひどく、改善されなければ会議には出さないなどの工夫をする)

対策④まずは調査を行い、それが事実であれば女性向けの研修を作る、もしくは女性に合った会議のやり方を模索する

対策⑤森氏の上位者から森氏にフィードバックを行う(あまりにもひどく、改善されなければ職を離れてもらう)

もし、実際には原因⑤以外の原因があるかもしれないにも関わらず、原因⑤のみにスポットが当てられ、しかも対策として「女性の発言権を侵すべからず」が日本中に行きわたってしまったら、職場の男性たちは、いつ自分がジェンダー平等の敵たるパワハラ上司と認定されるかにびくびくしながら、本当は採用したくないような意見を尊重せざるを得ないような状況に追い込まれるでしょう。

こんな状況で仕事がうまく回ることはなく、やがて小さな契機で「女の言うことなんか聞くな!」というムーブメントが起こっても不思議ではありません。そのムーブメントには、男性と対立して女性の地位向上を目指すか、男性に従って黙るかという極端な二者択一を迫られ、後者を選ぶ女性も参加するかもしれません。

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とまあ、豊かすぎる想像力で、最後はまるでSF小説のようになってしまいました。

敬語を伝える立場としては、上下が逆転し、責任を負うべき立場の者が責任を負わず、責任を負わない立場の者が権利を持つことが当然の世の中になってはいけないと思っています。

それは、結局誰も責任を負わないからです。

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この件、まだ続くかもしれません。

どうぞ、皆さま、嫌がらずお付き合いくださいませ。







世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。