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客のことをバカだと思えって言うんですか!?

受験なら落ちるんじゃないか、宝くじなら外れるんじゃないかと悪いほうへ悪いほうへと想像するのに、コミュニケーションにおいては曖昧な状況を自分の都合のいいように解釈するということが多いようです。

事例紹介

以前あった事例です。


そのセンターでは、商品詳細に関する質問は担当者から折り返すという運用になっていました。そこで、商品について教えてほしいという入電に対して、名前や電話番号を聴取したあと、いざ質問の詳細を聞くと「〇〇店に在庫はあるか」という内容だったのです。
対応者は「それは店舗に直接聞かないと……」と言い、
客は「そうですよね」と答え、
互いに「それでは、よろしくお願いいたします。」「分かりました、よろしくお願いします。」と言い合って電話が終わりました。


この後どうなったかというのは容易に想像がつくと思うのですが、しばらくして「折り返しの電話が来ない」というクレームになりました。

対応者に確認すると「え~!?その人、分かりましたって言ってましたよ!」とのこと。

問題は、分かったかどうかではなく、何が分かったかということなのです。

原因は多々あるが

今回挙げた事例には誤解を生むコミュニケーションの要素が複数あります。

①言葉を省いている

本来なら「申し訳ないのですが、在庫についてはお客さまから店舗へ直接お問い合わせ願えませんでしょうか」と言わなければならないところが、配慮に欠けていたどころか、主語もなく、述語まで省いています。

②敬語を使っていない

敬語は立場を示すので、「お聞きになっていただかないと……」と言えば主語を言わなくてもそれが誰かは分かります。
この事例ではそれすらありませんでした。

③その他

そもそも折り返すと言ったのにそれを自分で訂正していないこともそうですし、質問内容も確認していないのに折り返しに必要な情報を全て聴取するのもおかしなことです。さらに不明点がないか確認もせず、「いつでもお気軽にお問い合わせください。」と案内してクレームになるよりも前に問い合わせてもらえるような誘導もなかったなど、とてもではありませんが、良いとは言えない対応でした。

誤解があっても問題にはならないかを考える

今回の事例であれば、互いに「相手が確認してくれる」と思うからクレームになりました。
これが、互いに「自分が確認する」という誤解ならどうでしょう。在庫状況を調べて発信したところ、既に相手が調べていたとしても「当方でお調べするつもりでしたが、ご案内が分かりづらく申し訳ありませんでした」と言えば、相手が怒ることもないでしょう。

つまり、もし相手の理解に不安が残るなら、誤解していても問題にはならないように動くということがクレームを防ぐ一つの対策としてはあり得ます。

ただし、それよりも誤解がないようにしたいと思いますよね。

復唱の癖が役に立つ

誤解がないようにするための最も大きなスキルは復唱です。
復唱でコミュニケーションの齟齬を小さなうちに見つけ、その場その場で軌道修正することができます。

復唱は、相手の言うことをそのまま(もしくは自分の言葉に換えて)伝え返すことですが、それでも相手から正されることがままあります。
それは、こちら理解していなかった場合もあれば、相手が自分の言いたいことをうまく言葉にできていなかったために修正が必要になることもあります。

この修正されるという経験が、自分の理解は、いつでも間違っている可能性があるという実感を持たせてくれます。頭で分かっているだけでは人は動けませんが、体で分かっていれば、自然と行動につながります。

普通扱いは尊重ではない

クレームを生みがちな対応者のよくある言い訳が「普通、分かりますよね!」「ほかのお客さんはその案内で分かってくれました!」というものです。
しかし、8割のお客さまが分かってくれるなら、残り2割のお客さまは分からなくても仕方がないということには、残念ながらなりません。逆に、分かってくれたと思って済ませてしまった8割の中にも、実は分かってもらえないまま終話してしまったものがないだろうかと注意深くならなければなりません。

そう言うと、中にはこのように反論する人もいます。
「じゃぁ、客のことをバカだと思えって言うんですか!?

話を変えて考えてみましょう。
この時期、うだるような暑さが続きます。
「いやぁ、この部屋、暑くない?」と言った人は「クーラーの温度を下げてくれない?」という意味だったかもしれません。しかし、聞き手によっては「部屋を出て、どっか行こうか」という誘いとして受け止めるかもしれませんし、「外、歩いてきて大変だったね」と冷えた麦茶を出してくれるかもしれません。なかには文句と受け止める人がいるかもしれません。

同様に「それは店舗に聞かないと……」という条件を提示すれば全員が「じゃぁ私が電話します」という判断に至るなどということはないのです。

自分と人は違う、でも、きっと分かり合うことはできる。そう思って丁寧に丁寧に、一歩ずつ確かめながら進んでいくことで問題のないコミュニケーションができます。

それでは、また。


世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。