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場所の雰囲気

場所と雰囲気、というテーマについて書きたいと思います。雰囲気をもつ場所というものがあります。たとえば図書館。図書館には静寂や学習への尊重を訪問者に求める、強いる雰囲気があります。墓地には死者への敬意を求める雰囲気がある。役所の窓口には行儀のよさを求める雰囲気が、討論会場では聴衆に登壇者の発言に静かに耳を傾けさせようとする雰囲気がある。静けさという点でこれらと対照的なのがライブ会場でしょう。爆音が鳴り響き観客は歌ったり、飛び跳ねたり、腕をしきりに振ります。皆が踊り狂ってるなかで一人ぽつんと立っていればそれこそ浮くでしょう。

このように場所にはそれぞれ特徴的な雰囲気があります。様々な場所を見ていくと一つ、特殊な場所が思いつきます。イベントホールと呼ばれる場所です。東京ビッグサイトを例としてあげましょう。ここには複数のホールがあり、企業交流会、コミケ、国家資格試験の試験会場など多様なイベントが開催されます。ほとんどが一日から数週間程度の短期間だけ続きます。例としてあげたイベントはどれも雰囲気が異なります。コミケは騒然としますし、企業交流会も静寂さとは無縁です。対して試験会場では静かにしなければなりません。このようにイベントホールという場所には多様な雰囲気が入れ代わり立ち代わり現れるのです。

国会図書館や大学図書館などはじめから図書館として設計・建造された建物では恒久的に一つの雰囲気が現れます。美術館も基本的には訪問者をして静けさを守り、作品に対するリスペクトを表明させます。墓地にしても役所にしてもそうです。これに対してイベントホールに現れる雰囲気はどれも短期的です。こうして見ると、イベントホールは多様な雰囲気の受容という性質をもつと言えます。

もちろんこうした場所の雰囲気を乱すことは可能です。2022年にドイツ東部ポツダムの美術館で、環境活動家がクロード・モネの作品「積みわら」にマッシュポテトを投げつけた事件がありました。この行為などは雰囲気の圧をものともせずに硬い決意の下なされたわけです。試験会場で突然大声で奇声を発し試験監督の注意を無視しつづければ退場させられるでしょう。小説にも場所の雰囲気に逆らうような行為描写を見かけることがあります。




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