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『サンザシの樹の下で(2010)』を観ました。

『少年の君』のヒロインのチョウ・ドンユィが素晴らしかったので、それで彼女の女優デビュー作を観ようと思ったのでした。
『サンザシの樹の下で』は少し昔の中国でのお話で、男女の純愛を描いている映画です。

『HERO』『初恋のきた道』などで知られる世界の名匠チャン・イーモウが監督を務めた、美しくも切ない純愛ストーリー。中国で300万部を売り上げた華僑作家エイ・ミーのベストセラー小説を基に、文化大革命下の中国に生きる男女の実話をつづる。運命に翻弄(ほんろう)されるヒロインを演じるのは、チャン・イーモウが国内の芸術学校を探し回り、2,500人の中から抜てきした新星チョウ・ドンユィ。

https://movies.yahoo.co.jp/movie/339249/

今作で出てくる文化大革命というのは、中国で1965年から10年間にわたってあった大きな改革で、それを行ったのが毛沢東という人です。「今までの仕組みを大きく変える」ということで、中国では大きな混乱に陥った時期でした(作品に出てくるので)。
そんな文化大革命下の教育の一環として、農村にホームステイするところからこの物語ははじまります。

今作は中国映画で、監督はチャン・イーモウです。
私がはじめてチャン・イーモウ監督作品に出会ったのは『紅いコーリャン』で、公開当時は大きな賞(第38回ベルリン国際映画祭 金熊賞)を獲って、日本でもかなり話題になっていました。どういう意味での話題かというと「戦争中の日本人が鬼や畜生のように描かれている」ということで、日本人がそんな扱いをされる映画を見たことがなかった私は、かなりの衝撃を受けた記憶があります(感動したのでパンフ買いましたけど)。

チョウ・ドンユィさんはこの作品のためにチャン・イーモウ監督が見つけ出したくらいなので、中国の変革の波に飲み込まれないように、だたただ必死に生きる今作のお話で、彼女の魅力が見事に引き出されていました。
華やかとかではない内に持った強さ、困難な場面でこそ今まで知らなかったような強さを発揮するという今作のようなお話が、彼女にははまり役に思います。

よく「泣かせよう泣かせよう」と作っている作品にさめる私ですが、今作のような描き方が好きです。この二人を描くにあたって描かないわけにはいかない悲しい場面でも、そこを特別長くさせて見せたり、スローにして引き伸ばして見せたりしない。
はじめからの見せ方のテンポみたいなものが、最後まで感情に流されたりしないのは、「さすがチャン・イーモウ監督」と思いました。素晴らしいです。


こんなインターネット社会にも関わらず、中国には厳しい検閲ってものがあるようで、それで映画が上映中止になったり、内容が切られたり足されたりするようです。

なので、そんな中国で長年映画を作ってきたチャン・イーモウ監督がどういう思いで作ってるのかというが私にはよくわからないのでした。
というのも100%本人の思いで作った作品というのは有り得ないと思うし、作品内のどこが足されて、どこが切られたかがわからないのです。
もちろんディレクターズカットなんてものも存在しないし、そんなの作ることは許されないでしょう。

「こんな恋愛映画に何の問題があるのだろう?」とすぐにはわかりませんでしたが、今作での中国の描き方が問題になったような記事を見かけました。
それはヒロインが好きになる男の子の地質調査の仕事や、それで起きる事にあるようでした。
でもそれは本当にお話の中ではチラッと出てくるだけで、ヒロインがそれについてなにか批判的なことを言ったりしないので、ほとんどの人は気が付かないと思います(原作にはある程度わかるように書かれているのかもしれません)。

こういうところでチャン・イーモウ監督の思いがわからなくなってしまうのです。
通常の制作現場であれば「これだけじゃ伝わらないよ」とか「もう少ししっかり内容にふれた方がわかりやすいんじゃないか」なんてなるかもしれない部分も、中国では「こんな表現では検閲に引っかかる」とか、「もう少しぼやかして、わかる人だけわかるようにしないと」とかなるのではないかと思ってしまうのです。
私たちは検閲を通った作品を見ることしかできないので、はじめから意図して入れなかったのか、実は映像で撮ったのに検閲で切られて使えなくなったのかが、まったくわからないのでした。

映画は1カットの位置が違っただけで、まったく逆のメッセージになってしまうこともあるので、検閲しだいで作品をどのようにもできると思うと恐ろしいです。
もう今の時代は公開中止されたとしても、見る方法がいくつかありそうですので、そろそろ検閲の効果というのもあまりなくなってきてるんではないかと思うのですけれど。

というわけで『サンザシの樹の下で』のチョウ・ドンユィさんを是非ご覧ください
。おすすめですよ。


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