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食料自給率37%、それはつまり、どういうことなの? 20210831解説

今回の記事は、解説というより、思考実験です。大胆な仮定をおいて、数字に落とし込んで考えるメソッドはこんな感じ、という例として受け止めていただければ。

農業・農政・食料の専門家ではありませんので、その点、あらかじめご承知おき願いたく。

最新の食料自給率(カロリーベース)は37%

2021年8月25日に、農水省から最新(2020年度)の食料自給率が発表されました。
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/attach/pdf/210825-6.pdf

食料自給率にもいろいろ計算の仕方があって、数字を議論する前に、定義を押さえておく必要があります。

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html

カロリーベース総合食料自給率

カロリーベース総合食料自給率は、「基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標」です。

カロリーベース総合食料自給率(令和2年度)
=1人1日当たり国産供給熱量(843kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,269kcal)
=37%

それが37%ということは、ざっくり、1日3食のうち、1食分だけが国産食料で、残り2食は輸入食料でまかなわれている、食料が輸入できなくなったら1日1食しか食べられない、ということになりますね。

食料自給力指標というのもある

一方、最近になって(2015年)、食料自給力指標という新しい計算方法が登場しました。

食料自給力指標とは、我が国農林水産業が有する潜在生産能力をフルに活用することにより得られる食料の供給可能熱量を試算した指標です。

次の2パターンで計算されています。

ア)栄養バランスを考慮しつつ、米・小麦を中心に熱量効率を最大化して作付け
イ)栄養バランスを考慮しつつ、いも類を中心に熱量効率を最大化して作付け

わかりにくいですが、とにかく腹を満たすためだけに、米・小麦をフル生産したらどれだけできるのか(ア)、いも類をフル生産したらどれだけできるのか(イ)、計算した数値のようです。

ちなみに、1人1日当たりの必要カロリー量が2,168kcal/日だそうで、これ以上なら「腹を満たす」ことができ、未満なら「腹を空かせている」ということになります。

で、最新(2020年度)の計算結果では、米・小麦中心では「腹を空かせている」状態になってしまいますが、いも類中心でいけばかろうじて「腹を満たす」ことができるかどうか。

ア)⽶・⼩⻨中⼼の作付け:1,759kcal/⼈・⽇
イ)いも類中心の作付け:2,162kcal/⼈・⽇

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-16.pdf

あえてなのか、カロリーベースの食料自給率のように%表示していませんが、そこをあえて、こちらも%表示の計算をしてみましょう。

ア)は、1,759÷2,168=81.3%なので、まさに「腹八分目」
イ)は、2,162÷2,168=99.7%なので、ほぼ100%

親(戦前生まれ)からは、「戦争中は、毎日いもばっかり食わされた、もうこりごりだ」という話を聞かされました。イ)は、そんな状態でしょうから、カロリーで見れば足りてるでしょ、と言われても、それでOKかというと、ちょっと、どうかと思うところ。

また、ア)もイ)も、人間のおこぼれで養える範囲のみで畜産を行うという想定のようです(「畜産物の⽣産量は、耕種作物の副産物等の⽣産量から飼養可能頭⽻数を求め、⽣産能⼒を乗じて計算」と書いてあります)。米・麦中心や、いも類中心の作付とは、言い換えれば、家畜のための飼料は作付しないよ、肉はほとんど食べられなくなるよ、ということでしょう。

食料自給力指標は、海外から食料を輸入できなくなっても、食事の質・内容とか度外視すれば、計算上は、まあ何とか食いつなげます、必要最低限度の食生活は確保できますよ、ということを言いたい指標のようです。

ちなみに別バージョンで、「農地と労働力ともに最大限活用を図る」場合の計算をすると、イ)の数字は2,500kcal/人・日となり、2,500÷2,168=115.3%。

潜在的には100%越えも可能、と、明示的に書かれているわけではありませんが、そう読めそうな数字を、全然足りないカロリーベース食料自給率と並べて出しているのは、、、。

歴史的にみたら?

食料自給率のデータは、1965年以降計算されているようですが、その1965年の73%(カロリーベース)が最高値で、以降、長期続落する一方です。

2020年の37%は過去最低水準、過去最高値の約半分、ということになります。

明治開国以前、江戸時代は、そうした統計はありませんが、当時、外国から食料を輸入していたわけではないですから、完全自給自足だったとみなしてよいでしょう。

下記資料の図からは、幕末期で、約3000万人が、約300万haの耕地面積で養われていた、と読み取れます。どの程度の「腹具合」だったかはわかりませんが、いちおうカロリーベースの食料自給率100%(1.00)だったと仮定してみましょう。

https://www.maff.go.jp/j/budget/2010_3/pdf/enkatu-haikei1.pdf

1965年ごろは耕地面積約600万haで幕末の約2倍、史上最大値。人口は約9900万人で幕末の約3.3倍。

ざっくり、耕地面積2倍÷人口3.3倍=0.606<食料自給率0.73

現在の耕地面積はだいぶ落ちてきて2020年度は437万haで、幕末期の約1.5倍ほど。人口は約1.2億人で幕末期の約4倍。

ざっくり、面積1.5倍÷人口4倍=0.375≒食料自給率0.37。

完全比例とまではいきませんが、要するに、耕地面積と人口の関係が食料自給率を大筋で決めている、と考えてよさそうです。

※ほかの要素としては、1人1日当たりの必要エネルギー量、単位面積当たりの収量、農産物とそれ以外の食料(肉・魚など)のバランス、農産物の中での穀物・いも類・野菜類の比率などの変化が考えられます。

ところで食料自給率100%は可能?

カロリーベースの食料自給率、国の目標では45%。

あれ、100%は目指さないの?と素朴な疑問が生まれますが、上の計算を踏まえると、極論としては、江戸時代末期と比べて人口4倍に見合う農地4倍にするか、農地1.5倍に見合う人口1.5倍にするか、という話になります。

前者の場合。

(4÷1.5)×300万ha≒約800万ha

史上最大値の600万haよりも、さらに農地を3割増し以上にするということで、これは事実上無理な水準でしょう。

後者の場合。

(1.5÷4)×1.2億人=約4500万人

2100年の日本の人口は、7496万人

とか、6000万人

とかの予測例がありますが、そのはるか下をいくレベルです。

こちらの資料では2100年に4771万人(少し古い推計)。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

いずれにしろ、現在の食生活を維持しながら食料自給率100%を実現することはできない、ただし、いも類中心でとにかくカロリーだけは確保すればよいという食生活を許容するなら、やってできなくはない、もしくは100年後(2100年)の人口が100年前(1900年)と同じくらいになれば可能、ということになります。

つまり、長々と単純な計算と思考実験をしてきましたが、、、

現代日本人の食生活は、、、

持続不可能だ、ということです。

日本においても、SDGsゴール2は、無縁ではないですよ、というお話でした。

SDGsゴール2:飢餓
ターゲット2.1:2030 年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。
ターゲット2.4:2030 年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害 に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリ エント)な農業を実践する。






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