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歌舞伎の楽しみ 〜回り舞台〜


歌舞伎の舞台の大きな特徴の一つに「回り舞台」があります。
今のような「回り舞台」が出現するまでには多くの変遷が見られます。
第一段階  「歌舞妓事始」でそのルーツが紹介され、最初は「ぶんまわし」 
       といい、舞台に組んだ二重舞台に車を付けてグルッと回転させたものらしい
第二段階  初代並木正三の考案で、宝暦8年(1758)「舞台一面の回り道具」で
  舞台の下を掘ってコマのように回した
第三段階  その4年後、江戸市村座の変化舞踊、曲が変わるたびにいちいち舞台
  を回して大道具を変化させた。当時の江戸はまだ奈落を掘って下から操作す
  るのではなく、「舞台の上に車を付けて左右に綱を引いて回す方法」だった
第四段階  ようやく回る部分が円形になって、床への切り込み式になった

回り舞台が今のようになった


電動式の回り舞台.  昔は人力で綱を回して回転させていた

回り舞台の普及によって、多幕物などストーリーの長い複雑な演目は、いちいち幕を閉めることなく、回り舞台によって画期的に上演時間の短縮が可能になりました。
例えば、「仮名手本忠臣蔵」の五段目〜六段目への舞台転換。
 五段目の幕切れで勘平が花道にひっこむ。無人の舞台になり、すぐ、山崎街道
 の暗闇の舞台が回り始めます。反対側からその同じ舞台に乗った百姓与市兵衛
 の住処の大道具が現れ、正面に来て止まり、「チョン」と柝が入って六段目が
 始まります。
この場面、本来、場所も時間も違うのに、幕を閉めずに回り舞台を使うことによって一瞬のうちに転換を図ることができるわけです。
夜から昼へ、昨日から今日へ、見事な転換ぶりが見られます。
こういった場合、なまじ場内は薄暗くしないほうがいいのです。
場内を暗くして舞台を転換する「暗転」に対して、俗に「明転(あかてん)といっています。
こうした舞台の転換を「道具替り」といい、江戸時代は天然光と蝋燭の光しかなく、その頃「暗転」はあるはずがなく、全て「明転」で、観客の目の前で、堂々と舞台転換が行われていました。
今ではこういった「道具替り」が歌舞伎を見る楽しみでもあるわけです。

前述したように、「回り舞台」は「引幕」の発明と同時に多幕物の演目ができた以来の大革命であったわけです。
その後、ぐるっと180度回る本来の「回り舞台」のほかに、これを使っていろんな演出が工夫されるようになりました。
 新しい演出
  ①    行ってこい
  ②    半回し
  ③ 三方飾り

「行ってこい」
  例えば、Aの家からBの家まで使いに行く場面があるとします。
  その使いの人が移動するにしたがって、Aの家からBの家に移るとき、使いの
  人がA家の木戸を出て花道を走っていくと舞台が回ります。その間に舞台は
  B家の大道具に変わり、使いの人がすぐ再び花道を走り出て舞台に戻れば、
  B家の訪問をすることになります。
「半回し」
  文字通り、回り舞台を半分だけ回して、大道具の一部とか側面を見せる、
  いわば違った角度から大道具を見せる方法です。

「平家女護島」俊寛の幕切れの演出
ただ一人、島に残った俊寛が、遠ざかる船を見送り、足摺をして悲嘆にくれる。ここで舞台は「半回し」。下手の岩組が正面にきて客席に向く。俊寛はそこへよじ登り、絶望の果てに呆然と海上を眺め、声を限りに呼ばわる、、、。

 「三方飾り」
  上から見ると三角形になるように、あらかじめ三杯(三通り)の道具を飾って
  おき、舞台の進行に合わせて回り舞台を回す方法です。

舞台転換がスムーズに行えるよう、今上演中の舞台面の裏側に次の道具を用意する

要するに、回り舞台は、舞台転換をスムーズにしただけでなく、観客の目の前で、照明を暗くせず、明るいまま廻す(明転)のが原則です。
役者たちを乗せたまま舞台が回って次第に上手に消えてゆく、、。代わって下手から次の道具が見えてくる、、このワクワクした楽しさが歌舞伎の醍醐味でもあるのです。



  

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