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歌舞伎の楽しみ 〜セリ〜

歌舞伎の舞台には「セリ」といって、舞台の床の部分をくり抜いて、その床をエレベーターのように上下させて使う機構があります。特にスペクタクル的な演出が必要な演目に使います。

石川五右衛門が南禅寺の山門から京都の桜を眺めて「絶景かな、絶景かな」とセリフを吐く場面、
セリに乗ってだんだん山門が舞台に現れてきます、、。

セリには大まかに二つあって、
  屋体などの大道具を乗せて上下する「大ゼリ」
  演じる役者を乗せて上下する「小ゼリ」
があります。

現在の国立劇場にはこの大小以外に多くのセリがあってそれぞれの用途に従って使用されております。

国立劇場のセリ

花道のスッポンも小ゼリの一種で、同時に使われる演目もあります。
ご紹介しましょう、仙台、伊達藩で起きたお家騒動をドラマ化した「伽羅先代萩 床下」の場面の例です。
①  御殿の座敷がせり上がって床下が現れてくる
②  床下の正面に緋毛氈を後見が覆っている。せりの穴を隠すためである
③  毛氈が取れるとせりの鳴物(下座)で、舞台の床(小ゼリ)が上がってきて、
 荒獅子男之助が太い鉄扇を横一文字に、高合引に掛け、右足で縫いぐるみの
 ネズミを踏まえてせり上がってくる
④  ネズミが男之助の鉄扇で打たれ、花道のスッポンの切穴に飛び込む、と、ドロ
 ドロの大太鼓の下座の音
⑤  スッポンの切穴から白い硝煙の煙と共に、煙の中から連判状を口に咥え、妖術
 の印を結んだ仁木弾正が競り上がってきて次第にその姿を現す

せり上がってくる仁木弾正

この場合、荒獅子男之助のせりと仁木弾正のせり、、、
 男之助     後ろの御殿の道具も一緒にせり上がってくるので別に男之助が地から
   湧いてきた訳ではない。舞台転換の一種で、上下、下から上にと掛軸のよ
   うに転換が行われたものです
 仁木弾正  男之助とは全く違った意味を持っています。日常的な空間(風景)
   の中へ、次元の違う異様なものが姿を現すせり、それがスッポンなのです

スッポン、せりの魅力
①   スッポン、せりも回り舞台と同じ、少しずつ役者の顔が見えてくる。床の下か
 ら髪が見え、顔が見え、上半身、下半身やっと全身が舞台へ浮かび上がってき
 ます
②   この展開の中でも役者はジッとせりに乗っているだけです
③   スッポン、せりが止まって、柝が入り初めて芝居が始まります
④   いい役者はこんな時にも何もしないでも、ある種の風情があります
⑤   止まって動き出す時にパッと芝居の「イキ」になれるか、ここでも役者の良し
 悪しが判別できるのです

ところで、舞台の屋体は、
建物の種類(例えば、御殿、田舎家、商家 など)によって組み立てる(台組)の高さ
が違うことがあります。

歌舞伎の大道具には、一定の高さ、長さ、幅、柱の太さ、壁、襖の色や模様など
一定のパターンがあって、それらを組み合わせて大道具を作ります。
これらはほとんど劇場に常備している道具でこれを「定式大道具」または単に
「定式物」といっております。
さらに、置き舞台(高足、常足など)や平舞台をはじめ、立木、木戸、欄間、障子
勾欄、階段などで、これらを組み合わせて構成されており、わずかに組み合わせを違えることで、いろんな演目に適用されています。
これらを「定式屋体」と言っています。




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