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【種牡馬辞典】Royal Charger系

Royal Charger

<プロフィール>
1942年生、英国産、20戦6勝
<主な勝ち鞍>
1945年英チャレンジS(T6F)
1946年クイーンアンS(T8F)
<代表産駒>
Happy Laughter(1953年英1000ギニー)
Sea Charger(1953年愛2000ギニー、愛セントレジャー)
ジルドレ(1956年英2000ギニー)
Royal Orbit(1959年プリークネスS)
<特徴>
母Sun Princessは大種牡馬Nasrullah(1943年英チャンピオンS)の半妹であり、本馬はNasrullahの3/4同血の甥。また、母はMahmoud(1936年英ダービー)とも相似な血の関係にある。現代競馬にスピード革命をもたらしたLady Josephine→Mumtaz Mahal牝系らしいスピードを武器にした反面、Nasrullahと同様に激しい気性から現役時代は距離に壁のある競走馬であった。種牡馬としては柔らかさとスピードを後世に伝え、NasrullahやMahmoudとともに現代の競走馬の瞬発力面に大きな影響を与えている。昨今の日本競馬を牽引するサンデーサイレンスもSun Princess≒Mahmoudの4・4×5からLady Josephine→Mumtaz Mahal牝系のスピードを豊富に受け継いでおり、サンデーサイレンス系の爆発的な瞬発力は本馬由来ともいえるだろう。

-Turn-to

<プロフィール>
1951年生、愛国産、8戦6勝
<主な勝ち鞍>
1954年フラミンゴS(D9F)
<代表産駒>
First Landing(1958年米ホープフルS、米シャンペンS)
Hail to Reason(1960年米ホープフルS)
Captain's Gig(1967年ベルモントフューチュリティS)
<特徴>
近親にMy Babu(1948年英2000ギニー)や名種牡馬Ambiorixがいる良血馬で、現役時代にはアメリカで2~3歳時に8戦6勝を挙げてクラシックの最有力候補に。ただ、脚元に爆弾を抱えており、クラシック目前で骨折、そのまま引退となった。父Royal Chargerと母Source SucreeはPharos、Spearmint、St. Simon、Sundridge、Swynfordなどが共通する相似配合であり、父Royal Chargerの軽さ、特にPharosやSundridgeのインブリードから受け継ぐスピードが本馬の魅力といえるだろう。後継種牡馬であるHail to Reason(1960年米ホープフルS)とSir Gaylord(1961年サプリングS、1962年エヴァーグレイズS)は現在も父系を繋いでおり、特にHail to Reasonから繋がるHalo系やRoberto系は日本を中心に大きな成功を収めている。

--First Landing

<プロフィール>
1956年生、米国産、37戦19勝
<主な勝ち鞍>
1958年米ホープフルS(D6.5F)
1958年米シャンペンS(D8F)
1960年サンタアニタマチュリティS(D10F)
<代表産駒>
Balustrade(1968年モンマス招待H)
Riva Ridge(1971年ベルモントフューチュリティS、米シャンペンS、1972年ブルーグラスS、ケンタッキーダービー、ベルモントS、ハリウッドダービー、1973年ブルックリンH)
<特徴>
1950年米年度代表馬Hill Prince(1950年ウッドメモリアルS、プリークネスS、ジョッキークラブGC)の半弟で、本馬自身も1958年米ホープフルS、米シャンペンSなど2歳時から一線級で活躍。母HildeneがBen BrushやDomino→Commandoなどスピード豊かなLexington血脈を掛け合わせており、父Turn-toからもPharosやSundridgeから継承されるスピードと早熟性を受け継いでいる。代表産駒であるRiva Ridge(1971年ベルモントフューチュリティS、米シャンペンS、1972年ブルーグラスS、ケンタッキーダービー、ベルモントS、ハリウッドダービー、1973年ブルックリンH)は母方からスタミナ面を補いつつ、父譲りのスピードと早熟性を武器に2歳時から一線級で活躍した。

--Hail to Reason

<プロフィール>
1958年生、米国産、18戦9勝
<主な勝ち鞍>
1960年米ホープフルS(D6.5F)
<代表産駒>
Hail to All(1965年ベルモントS、トラヴァーズS)
Proud Clarion(1967年ケンタッキーダービー)
パーソナリテイ(1970年ウッドメモリアルS、プリークネスS、ウッドワードS)
Roberto(1972年英ダービー、ベイソン&ヘッジズGC、1973年コロネーションC)
<特徴>
日本を中心に大成功を収めるHalo系やRoberto系の父祖。母Nothirdchanceは1951年エイコーンS優勝馬で、血統構成も父父Blue Larkspur、母父Sir Gallahad、Man o' Warの3×4などパワーに優れたアメリカ産馬。ただ、本馬自身は父にRoyal Charger系Turn-toを配し、Royal Charger系らしい柔らかくもスピードに秀でた馬であった。同父系が芝を中心に繁栄したことはここに起因しており、Hail to Reasonの3×5を持つタイキシャトル(1997年スプリンターズS、1997、98年マイルCS、1998年安田記念、ジャックルマロワ賞)やHail to Reasonの4×3を持つタイキブリザード(1997年安田記念)のスピードも本馬譲りといえるだろう。

---Halo

<プロフィール>
1969年生、米国産、31戦9勝
<主な勝ち鞍>
1974年ユナイテッドネーションズH(T9.5F)
<代表産駒>
Sunny's Halo(1983年ケンタッキーダービー)
グッバイヘイロー(1988年ケンタッキーオークス、CCAオークス)
サンデーサイレンス(1989年ケンタッキーダービー)
<特徴>
母Cosmahは名繁殖牝馬Natalma(Northern Dancerの母)の半姉で、その後もデインヒルやMachiavellian、バゴなど多くの活躍馬が出ている名門Almahmoud牝系でもある。The Tetrarchの5×5・6が特徴で、Hail to Reasonを父に持つ本馬はSun Princess≒Mahmoudの4×3を中心に父祖Royal Chargerを増幅した配合といえるだろう。短距離から長距離、芝でもダートでも勝利を挙げたが、重賞2勝がともに芝9.5F戦だったあたりが本馬の本質ではないだろうか。柔らかく、かつ俊敏であり、トップスピードも申し分なし。終盤勝負になりやすい現代日本競馬においては決して欠かせない名種牡馬である。サトノダイヤモンド、ヴィクトワールピサ、ロゴタイプ、ヴィルシーナ=ヴィブロス≒シュヴァルグランらが大箱でも小回りでも高いパフォーマンスを見せたことは本血脈の優秀さを物語るものであった。Turn-to、Sir Gallahad=Bull Dog、Pharamond、Mahmoudなどが共通するSir IvorやDrone、Nasrullah≒Royal Charger、Sir Gallahad=Bull Dog、Pharamondなどが共通するRed Godらとは相似な血の関係にあり、日本競馬史を代表する名馬ディープインパクトの瞬発力はHalo≒Sir Ivorの2×4に起因するといえるだろう。

---Roberto

<プロフィール>
1969年生、米国産、14戦7勝
<主な勝ち鞍>
1972年英ダービー(T12F)
1972年ベイソン&ヘッジズGC(T10.5F)
1973年コロネーションC(T12F)
<代表産駒>
Touching Wood(1982年英セントレジャー、愛セントレジャー)
Lear Fan(1984年ジャックルマロワ賞)
ブライアンズタイム(1988年フロリダダービー、ペガサスH)
<特徴>
父Hail to Reasonは1960年米ホープフルS優勝馬で、母Bramaleaも1962年CCAオークス優勝馬。本馬はRoyal Charger≒Nasrullahの3×3、Blue Larkspurの4×4、Sir Gallahad=Bull Dogの4×6・4などのクロスが成立する父母相似配合馬で、Lady Josephine→Mumtaz Mahal血脈のスピードとBlue LarkspurやSir Gallahad=Bull Dogのパワーが強調された配合形だ。さらに、母が持つSardanapaleの4×4からスタミナも強化されており、同じ父を持つHaloとの比較では瞬発力に劣る反面、パワーとスタミナ面ではこちらが上。2018年最優秀ダートホース・ルヴァンスレーヴや2008年最優秀2歳牡馬・セイウンワンダーのパワーや機動力を支えたのは本馬のインブリードともいえるだろう。また、Mr.Prospectorの母Gold Diggerと本馬の母BramaleaはNashua、Bull Dog、Blue Larkspurなどが共通し、パワー血脈を増幅する効果が見込める。さらに、Mr.Prospector系Kingmamboとの間ではNashua≒Nantallahによりその効果がさらに増す形に。レイデオロ、ラブリーデイ、チュウワウィザード、レッツゴードンキ、デアリングタクトなど両血脈を持つGⅠ馬は挙げれば切りがないが、いずれもパワーや機動力を武器にGⅠを制した馬ばかりである。

---Stop the Music

<プロフィール>
1970年生、米国産、30戦11勝
<主な勝ち鞍>
1972年米シャンペンS(D8F)
<代表産駒>
Temperence Hill(1980年ベルモントS、トラヴァーズS、ジョッキークラブGC、1981年サバーバンH)
Cure the Blues(1980年ローレルフューチュリティS)
Dontstop Themusic(1985年ヴァニティH、スピンスターS)
<特徴>
Hatchet Man(1976年ワイドナーH、エイモリーLハスケルH)の半兄であり、自身も1972年米シャンペンSを制すなど2〜5歳時に11勝を挙げたHail to Reason直仔。種牡馬としてもTemperence Hill(1980年ベルモントS、トラヴァーズS、ジョッキークラブGC、1981年サバーバンH)を筆頭にGⅠ馬を複数頭出し、ヨーロッパでも芝の重賞勝ち馬を数多く輩出している。母母Bebop(1960年ナッソーS3着)がフランス産の芝馬。母父Tom Fool、父Hail to Reasonも芝ダート兼用のスピード種牡馬で、本馬自身も馬場不問の万能種牡馬だったといえるだろう。Mumtaz Mahalのクロスがない点は決定的な違いではあるが、Drone≒Sir IvorやRed God、Haloなどとも共通点が多く、2010年宝塚記念優勝馬ナカヤマフェスタはHaloとStop the Musicの血を併せ持った代表例だ。

--Sir Gaylord

<プロフィール>
1959年生、米国産、18戦10勝
<主な勝ち鞍>
1961年サプリングS(D6F)
1962年エヴァーグレイズS(D9F)
<代表産駒>
Sir Ivor(1967年仏グランクリテリウム、1968年英2000ギニー、英ダービー、英チャンピオンS、ワシントンDCインターナショナル)
Habitat(1969年ロッキンジS、ムーランドロンシャン賞)
<特徴>
名繁殖牝馬Somethingroyalの3番仔であり、米三冠馬Secretariatの半兄という良血。ワンペースなBold Rulerを父に持つSecretariatに対して、本馬はRoyal Charger的なスピードを伝えるTurn-toから軽いスピードを継承。怪我によりケンタッキーダービー前に引退となったが、種牡馬としては欧州での活躍が目立ち、Sir Ivor(1968年英2000ギニー、英ダービー)やHabitat(1969年ムーランドロンシャン賞)といった芝の活躍馬を多く輩出した。瞬発力と柔軟性には定評があり、Sir Ivorの1968英ダービーやダンシングブレーヴの1986年凱旋門賞での鋭い末脚はまさに本馬の美点を表現した走り。また、名牝ビワハイジは母父父にSir Gaylordを持ち、父はPrincequilloとTurn-toを持つCaerleon。同馬の仔ブエナビスタやジョワドヴィーヴルが見せた瞬発力もまたSir Gaylord的な切れ脚だったといえるだろう。

---Cox's Ridge

<プロフィール>
1974年生、米国産、28戦16勝
<主な勝ち鞍>
1978年メトロポリタンH(D8F)
<代表産駒>
Life's Magic(1983年オークリーフS、1984年マザーグースS、アラバマS、ベルデイムS、1985年BCディスタフ)
Vanlandingham(1985年サバーバンH、ジョッキークラブGC、ワシントンDCインターナショナル)
Cardmania(1993年BCスプリント)
<特徴>
1978年メトロポリタンHを制し、種牡馬としても3頭のブリーダーズカップ勝ち馬を出したTurn-To系種牡馬。Pharos=Fairwayの5・5×5・5、Solario=Imageryの5×5・5など父祖Turn-toを強く刺激した配合で、Turn-to譲りの優れたスピードを産駒に伝えた。また、母母CordayはFriar Rock≒Man o' Warの3×2を中心に名馬Man o' Warの影響を強く受けた繁殖牝馬。Vanlandingham(1985年サバーバンH、ジョッキークラブGC、ワシントンDCインターナショナル)のような二刀流も出したが、全体としてはダート適性の高い種牡馬だったといえるだろう。

-Francis S.

<プロフィール>
1957年生、米国産、36戦8勝
<主な勝ち鞍>
1960年ウッドメモリアルS(D9F)
<代表産駒>
Cathy Honey(1970年エイコーンS)
<特徴>
3代母に名繁殖牝馬La Troienneを持ち、そこにBlue Larkspur、War Admiralを掛け合わせた母Blue Eyed Momoの配合形は、名牝であり名繁殖牝馬でもあるBusandaと同じ。本馬自身は種牡馬として大成したわけではないが、La Troienne牝系の種牡馬や繁殖牝馬との間では名牝系のクロスが成立するため、今後も軽視はできない血脈といえるだろう。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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