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【種牡馬四季報】アメリカ/カナダ 2023年の種牡馬リーディングを振り返る

競馬オタク・坂上明大が
四半期ごとに国内外の種牡馬事情を解説していきます。

~リーディングサイアー~

北米ではInto Mischiefが5年連続5回目のリーディングサイアーに輝き、チャンピオンとしての座を確立しつつある。テストS(ダ7F)、ケンタッキーオークス(ダ9F)、エイコーンS(ダ8.5F)と3つのGIを勝ったPretty Mischievous、ファーストレイディS(芝8F)のGina Romantica、ラトロワンヌS(ダ8.5F)のPlayed Hard、米シャンペインS(ダ8F)のTimberlake、ペガサスワールドCターフ招待S(芝9F)のAtone、カーターH(ダ7F)のDoppelgangerなど芝とダートを問わず2023年だけで6頭のGIウイナーが出ている。Storm Cat系からは本馬以外にNot This Timeが8位、Practical Jokeが9位、Kantharosが11位、Justifyが19位にランクイン。Into Mischief以外のラインも発展しており、北米でのStorm Cat系の広がりには非常にバリエーションがあるといえるだろう。

2位Curlinは2016年、2019年、2021~23年と5回目のリーディング2位。いまだ頂点には立てていないもののリーディング上位の常連で、2023年はBCダートマイル(ダ8F)連覇、チャーチルダウンズS(ダ7F)、メトロポリタンH(ダ8F)とGI3勝、2023年の米年度代表馬にも選ばれたCody's Wish、BCスプリント(ダ6F)連覇、アルフレッドGヴァンダービルトH(ダ6F)のElite Power、BCディスタフ(ダ9F)、スピンスターS(ダ9F)、パーソナルエンサインS(ダ9F)とGI3勝のIdiomatic、オグデンフィップスS(ダ8.5F)、アップルブラッサムH(ダ8.5F)のClairiere、ジョッキークラブゴールドC(ダ10F)のBright Futureと5頭の産駒がGIを制している。後継種牡馬はランクインしていないが、Good Magicがケンタッキーダービー馬Mageなどを出しており、後継種牡馬の活躍にも大いに期待がかかる。

3位Gun Runnerは先述の2頭と比べると10歳近く若い種牡馬だが、昨年に引き続きリーディング3位を確保。フォアゴーS(ダ7F)のGunite、ブリーダーズフュチュリティ(ダ8.5F)のLockedといったGI馬を輩出しており、近い将来のリーディングサイアーとして有力候補の一頭といえるだろう。Fappiano系からは本馬以外にAmerican Pharoahが6位、Twirling Candyが13位、Arrogateが17位、Candy Rideが18位にランクインしている。

4位Uncle Moは貴重なGrey Sovereign父系の種牡馬。クレメントLハーシュS(ダ8.5F)のAdare Manor、ビホールダーマイルS(ダ8F)のアモーレイ、パシフィッククラシック(ダ10F)のArabian KnightがGIレースを勝っている。

5位Quality Roadは現役時代にフロリダダービー(ダ9F)、ドンH(ダ9F)、メトロポリタンH(ダ8F)、ウッドワードH(ダ9F)という4つGⅠを制したGone West系Elusive Qualityの産駒。プリークネスS(ダ9.5F)を勝ちBCダートマイル(ダ8F)でも2着に好走したNational Treasure、ドバイワールドC(ダ10F)3着馬Emblem Roadが2023年の代表産駒だ。Gone West系からは本馬以外にMunningsが7位にランクインしている。

父系別では上位20頭中9頭はMr. Prospector系、8頭はNorthern Dancer系、3頭はNasrullah系。Mr. Prospector系の内訳はFappiano系が5頭、Gone West系が2頭、Smart Strike系とMachiavellian系が1頭ずつ。Northern Dancer系の内訳はStorm Cat系が5頭、Danzig系とSadler's Wells系とVice Regent系が1頭ずつ。Nasrullah系の内訳はBold Ruler系が2頭、Grey Sovereign系が1頭。ヨーロッパのような極端な偏りは見られず、枝葉のバリエーションが多い点も北米の特徴といえるのではないだろうか。

~2歳・リーディングサイアー~

2世代目の活躍により三冠馬Justifyが2歳リーディングサイアーの座を獲得した。主たる活躍馬だけでも、フリゼットS(ダ8F)、BCジュヴェナイルフィリーズ(ダ8.5F)のJust F Y I、BCジュヴェナイルフィリーズターフ(芝8F)のHard to Justifyらが2歳GIを制している。Justifyの産駒は欧州でもCity of TroyやOpera SingerといったGI馬が複数出ており、世界的に見ても早熟性に優れた名種牡馬として確固たる地位を確立したと評しても過言ではないだろう。

2位Constitutionは現役時代にフロリダダービー(ダ9F)やドンH(9F)を勝ったTapit直仔。2歳世代からグレード競走勝ち馬は出ていないが、過去にはベルモントS(ダ9F)などGI4勝のTiz the LawやシガーマイルH(ダ8F)のAmericanrevolutionといった大物を出している種牡馬だけに、今後も名種牡馬Tapitの血を継ぐ実力馬の登場に期待したい。

3位MitoleはStorm Cat系エスケンデレヤ産駒の新種牡馬。自身は現役時代にチャーチルダウンズS(ダ7F)、メトロポリタンH(ダ8F)、フォアゴーS(ダ7F)、BCスプリント(ダ6F)を制した短距離馬で、初年度産駒ではGIIIポカホンタスS(ダ8F)を制しGIアルシバイアディズS(ダ8.5F)でも2着に好走したV V's Dreamが現在のところの代表産駒だ。

4位Gun Runnerは現役時にペガサスワールドC(ダ9F)やBCクラシック(ダ10F)などGIを6勝したFappiano系の名馬。2021年には新種牡馬ながら2歳リーディングを獲得して話題となった。2023年デビュー産駒は3世代目で、ブリーダーズフュチュリティ(ダ8.5F)のLockedなどがすでに出ており、今後この部門だけでなく総合リーディング部門でもトップを狙える種牡馬といえるだろう。

5位MendelssohnはBCジュベナイルターフ(芝8F)やUAEダービー(ダ9.5F)を制した早熟型で、半姉にBCディスタフ(ダ9F)などGI11勝の名牝Beholder、半兄にキャッシュコールフューチュリティ(AW8.5F)を制した現在の北米チャンピオンサイアーInto Mischiefがいる超良血馬。2023年の2歳世代の代表格はBCジュヴェナイルフィリーズターフ(芝8F)5着のAustere。

父系別では上位20頭中10頭はNorthern Dancer系、8頭はMr. Prospector系、2頭はNasrullah系。Northern Dancer系の内訳はStorm Cat系が9頭、Danzig系が1頭。Mr. Prospector系の内訳はGone Westが3頭、Fappiano系とSmart Strike系が2頭ずつ、Machiavellian系が1頭。Nasrullah系の内訳はBold Ruler系とGrey Sovereign系が1頭ずつ。

~リーディングファーストシーズンサイアー~

2歳リーディングサイアーでも3位にランクインしたMitoleがリーディングファーストシーズンサイアーのタイトルを獲得。Mitoleは日本で種牡馬として繋養されているエスケンデレヤの産駒で、自身は現役時代にBCスプリントなどダ8F以下のGⅠを4勝し、2019年には北米チャンピオンスプリンター牡馬にも輝いている。Storm Cat系らしいスピード能力を子孫に伝えており、2歳戦から活躍できる早熟性もこの父系らしさといえるだろう。

2位Maximus Mischiefはキャリア4戦で現役を退いたが、そのなかでGIIレムゼンS(ダ9F)を制したInto Mischief直仔。初年度の種付け料は7500ドルと安価ながら僅差の2位に付けており、いい意味で期待を裏切る活躍を産駒たちが見せている。

3位Vino Rossoは現役時代にBCクラシック(ダ10F)、ゴールドカップアットサンタアニタS(ダ10F)と2つのGIを制した活躍馬で、その父は北米リーディングサイアー上位常連のSmart Strike系Curlin。現在の代表産駒はブリーダーズフューチュリティ(ダ8.5F)で2着に好走したThe Wine Stewardだ。

~リーディングブルードメアサイアー~

2021年、2022年と2年続けて2位だったTapitが初のリーディングブルードメアサイアーの座に輝いた。BCダートマイル(ダ8F)、チャーチルダウンズステークス(ダ7F)、メトロポリタンH(ダ8F)とGIを3勝したCody's Wish、ベルモントS(ダ12F)、トラヴァーズS(ダ10F)のArcangelo、エイコーンS(ダ8.5F)、ケンタッキーオークス(ダ9F)、テストS(ダ7F)のPretty Mischievous、ペンシルヴァニアダービー(ダ9F)のSaudi CrownといったGIホースの活躍もあり、2位以下に圧倒的な差を付けてのリーディング獲得となった。

2位は昨年のリーディングブルードメアサイアーSmart Strike。2023年はBCフィリー&メアスプリント(D7F)連覇、マディソンS(D7F)とGI2勝を挙げたGoodnight Oliveと、ユナイテドネイションズS(芝11F)のTherapistの2頭のGI馬が出ている。

3位は2022年も3位だったMedaglia d'Oro。プリークネスS(ダ9.5F)のNational Treasureを筆頭に、ニューヨークS(芝10F)のMarketsegmentation、デルマーフュチュリティ(ダ7F)のPrince of MonacoといったGI勝ち馬が2023年は出た。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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