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【種牡馬四季報】イギリス/アイルランド 2023年の種牡馬リーディングを振り返る

競馬オタク・坂上明大が
四半期ごとに国内外の種牡馬事情を解説していきます。

~リーディングサイアー~

2022年はDubawiにリーディングサイアーの座を奪われたFrankelが2021年以来1年ぶり2回目となるリーディングサイアーに返り咲いた。2023年は11頭の産駒がGIを勝ち、サンクルー大賞(芝12F)のWestover、英2000ギニー(芝8F)のChaldean、アスコットGC(芝19F210Y)のCourage Mon Ami、ジャックルマロワ賞(芝8F)、サンチャリオットS(芝8F)、BCフィリー&メアターフ(芝10F)のInspiral、プリンスオブウェールズS(芝9F212Y)、英インターナショナルS(T10F56Y)のMostahdaf、クイーンアンS(芝8F)のTriple Timeなど、主だったものだけでも枚挙にいとまがない。種牡馬入り当初は日本で多くのGⅠ馬を輩出する一方、本国ではなかなか大物を出せずにいたが、近年は完全に軌道に乗り、父Galileoの最優良後継種牡馬として地位を確立した感がある。

2位以下は混戦だが、Northern Dancer父系でも傍流のトライマイベスト系Dark Angelが2022年の5位から順位を3つ上げて2位にランクイン。2023年はジェベルハッタ(芝9F)のAlfareeq、英チャンピオンズスプリントS(芝6F)のArt Power、クイーンエリザベス2世ジュビリーS(芝6F)のKhaademという3頭がGIを制している。日本でもマッドクールがスプリンターズSで2着と好走しており、欧州の快速種牡馬として多くのスピード馬を輩出している。

昨年1位だったDubawiは2002年生まれと高齢なこともあり順位を2つ落として3位に。とはいえ、2023年も8頭のGIウィナーを輩出しており、主だったところではドバイターフ(芝9F)3連覇のLord North、ブリーダーズCマイル(芝8F)とウッドバインマイルS(芝8F)を制したMaster of the Seas、ナッソーS(芝10F)のAl Husn、愛セントレジャー(芝14F)のEldar Eldarov、ジェニーワイリーS(芝8.5F)とジャストアゲームS(芝8F)を制し通算GI4勝となったIn Italianなどが大舞台で活躍した。後継種牡馬であるNight of Thunderが11位、New Bayが18位にランクインとうまくバトンも繋げられているようだ。

4位にはGalileoの半弟Sea the Starsがランクイン。2021年4位、2022年3位から引き続きコンスタントに活躍馬を排出しており、2023年はキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)のHukum、コロネーションC(芝12F6Y)のEmily Upjohn、ザ・メトロポリタン(芝12F)のJust Fine、ロワイヤリュー賞(芝14F)のSea Silk RoadがGI競走を制している。

5位には2010年代のチャンピオンサイアーGalileoがランクイン。当馬は2021年に死亡しており、出走数も多くないが、2023年になってもヨークシャーオークス(芝12F)、ヴェルメイユ賞(芝12F)を制したWarm HeartやソードダンサーS(芝12F)を制したBolshoi Ballet、愛オークス(芝12F)のSavethelastdanceといったGI勝ち馬が出ている。

父系別では上位20頭中17頭はNorthern Dancer系、3頭はMr. Prospector系という極端な偏りを見せている。ちなみに、Northern Dancer系の内訳はGalileo系が5頭、Green Desert系が4頭、デインヒル系が3頭、Storm Cat系が2頭、Acclamation、Pivotal、Montjeuのラインが1頭ずつ。また、Mr. Prospector系は3頭ともDubawi系に属する種牡馬だ。

~2歳・リーディングサイアー~

成長の早さに定評のあるStorm Cat父系の米国産種牡馬No Nay Neverが2年連続2回目の2歳リーディングサイアーに輝いた。GI勝ちこそなかったが、母母がGalileoの全妹という良血馬All Too BeautifulがGIIカルヴァドス賞(芝1400m)を、FrankelのめいArrayがGIIミルリーフS(芝6F)を勝つなど5頭の重賞勝ち馬が出ている。

2位Blue PointもStorm Cat系の新種牡馬。こちらはBCジュベナイルターフスプリント(芝5F)を制したBig Evs、ジャンリュックラガルデール賞(芝7F)を勝ったRosallionという2頭の2歳GIウィナーが出ている。Storm Cat系からはほかに、Justifyが11位、Sioux Nationが13位、Ten Sovereignsが15位、Lope de Vegaが20位にランクイン。Scat DaddyとShamardalのラインが欧州の2歳戦線を牽引している。

3位Kodiacはデインヒル系の高齢種牡馬。GI馬は出なかったが、GIIロウザーS(芝6F)のRelief RallyやキラヴランS(芝7F)のAtlantic Coastといった重賞ウィナーが出ている。デインヒル系からはほかに、Starspangledbannerが17位にランクイン。同馬も明け18歳馬だけに、欧州でのデインヒル父系は不遇の時代に入っていると見るべきだろう。

4位Havana Greyは2世代目がデビューした新進気鋭のGalileo系種牡馬。初年度産駒からはGIウィナーがまだ出ていないが、2023年の2歳世代からは既にモルニー賞(芝6F)とミドルパークS(芝6F)と2つのGIを制した無敗馬Vandeekが頭角を現しており、当馬には明け3歳シーズンの活躍にも期待がかかるところだ。Galileo系からはほかに、Frankelが7位、Gleneaglesが8位にランクインしている。

5位Dubawiは昨年10位からのランクアップ。フューチュリティトロフィーS(芝8F)のAncient Wisdom、ヴィンセントオブライエンナショナルS(芝7F)のHenry Longfellowという2頭の2歳GI馬が出ており、高齢ながらも大きな存在感を示している。Dubawi系からはほかに、Too Darn Hotが6位、Night of Thunderが9位、New Bayが18位にランクイン。

Storm Cat系、デインヒル系、Galileo系、Dubawi系以外のラインではGreen Desert系から3頭、Acclamationから2頭がトップ20に名を連ねている。

~リーディングファーストシーズンサイアー~

2歳リーディングサイアーでも2位と健闘したBlue Pointが新種牡馬リーディング1位を獲得。既に2頭のGI馬を輩出しており、Sadler's WellsやDanzigの血を持たないため配合相手の幅が広いことも種牡馬としての大きな強みだ。

2位Too Darn HotはDubawi系のスピード種牡馬。母Dar Re MiはGI3勝、ドバイシーマクラシックでも日本のブエナビスタを破った名牝。初年度産駒からGIモイグレアスタッドS(芝7F)を勝ったFallen Angelが出ており、Dubawiの血を繋ぐ種牡馬になれるかに注目が集まる。

上位2頭からはやや離される形で3位に入ったCalyxは、日本でもシュネルマイスターの父として知られるKingmanの後継種牡馬。GI馬はまだ出ていないが、GIIクリテリウムドメゾンラフィット(芝6F)の勝ち馬Classic FlowerやGIIダッチェスオブケンブリッジS(芝6F)を勝ったPersian Dreamerなど牝馬のスプリンターの活躍が目立っている。

父系別では上位10頭中5頭がGreen Desert系、4頭がStorm Cat系、1頭がDubawi系。近年の英愛生産馬はSadler's Wells→Galileoやデインヒルの血に人気が集中していたため、それらの血を持った繁殖牝馬に合う種牡馬が求められているようだ。

~リーディングブルードメアサイアー~

2008、2010〜2020年と12度の英愛リーディングサイアーに君臨した大種牡馬Galileoが4年連続となるリーディングBMSの座を獲得した。2位と3位の収得賞金額を合わせてもなおGalileoの方が多く、2021年に亡くなったGalileoの血は母の父となっても強大な影響力を持っている。2023年の代表馬はディープインパクト産駒のAuguste Rodinだろう。2023年だけで英ダービー(芝12F)、愛ダービー(芝12F)、BCターフ(芝12F)、愛チャンピオンS(芝10F)と3カ国で4つのGIを制し存在感を示した。ほかにもハーツクライ産駒のContinuousが英セントレジャー(芝14.5F)を制覇しており、ディープインパクトやハーツクライといった日本の名馬の産駒が競馬の本場で活躍する姿はいち日本人として誇らしい限りだ。そのほかでは、ジュライC(芝6F)とコモンウェルスC(芝6F)を制したShaquille、愛プリティポリーS(芝10F)のVia Sistina、デューハーストS(芝7F)のCity of Troy、愛ナショナルS(芝7F)のHenry Longfellowなどが2023年における母の父Galileoの主な活躍馬に挙げられる。

2位Oasis DreamはDanzig→Green Desert系のスピード種牡馬。Oasis Dreamの肌馬は世界中に輸出されており、各国から母父Oasis DreamのGI勝ち馬が出ている。2023年の英愛ではグッドウッドC(芝16F)を勝ったQuickthornが代表格だろう。

3位Dansiliは日本ではハービンジャーの父として知られる種牡馬で、その血を引く肌馬の産駒からは英オークス(芝12F)勝ち馬Soul Sister、ヘイドックスプリントC(芝6F)勝ち馬Regionalなど出ている。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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