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スプリングSを振り返る~『事実上のカラ馬』が変えたレース~

『強い』の基準は人それぞれだ。

マスクにとって強いとは、総合力の高さをいう。厳しいラップをハイレベルな数字を踏んで勝った馬こそ強いと思っているから、条件戦で『強い』という単語を滅多に使わない。

スローペースで逃げ切った馬がいたとして、その内容は本当に評価できるだろうか。ハイペースを差してきた馬を本当に評価できるだろうか。

日曜の中山は強雨に加えて強風。とてもではないが、純粋に能力比べ、総合力比べができる環境ではない。もちろんそういう条件に対しての適性を持っていることは重要なのだが、持てる力を100として、その全てを出し切れる条件ではない。

しかも今年のスプリングSは、1頭の馬がレースに大きな影響を与え過ぎていて、とてもではないが『能力比べ』とは言えないレースだったのではないかと思う。

一応皐月賞のトライアルだからね。本番にどう繋がっていくか、何とも言い難いレースだったのは間違いない。

●スプリングS 1:52.0 重馬場
12.8-11.7-12.7-13.0-12.3-12.5-12.4-12.1-12.5

●スプリングS 出走馬
白 ランドオブリバティ
赤 ヴェイルネビュラ
青 アサマノイタズラ
緑 ボーデン
紫 イルーシヴパンサー
橙 アールバロン
桃 ヴィクティファルス

まず最初のポイントはスタートしてから1コーナーまで。

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緑ボーデン川田がすぐに内に行かず、まっすぐ走らせている。先週のフィリーズレビュー、ヴァーチャリティも似たような感じの進路を取っていたが、ボーデンより外は簡単に内に入れていない。対してボーデンより内は、外に比べてプレッシャーが薄い

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緑ボーデン川田があえて直進したのは、明らかに馬場を考えてのこと。先週土曜に土砂降りの中競馬をやって、今日も雨の中で競馬をやったことで中山芝はかなり掘れてきた。

それまでのレースを見ていても内4、5頭分はかなり苦しい状態で、川田は6Rのヒューマンコメディで内3頭目を回ったら脚が上がったことから、内目の馬場がどういう状況かよく知っている。

スタートから直進すると、馬場のいいところを通れるだけでなく、コーナー部分でも内に締められない、馬場のマシな外にすぐ出せるポジションが取れるわけだ。狙いはこれだろう。

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川田のこの思考がプラスに働いた馬がいる。青アサマノイタズラ嶋田だ。

緑ボーデンが内目にあえて入らなかったことで、更に外の馬が内に入れない。おかげでボーデンの内にいたアサマノイタズラの周りに馬がいない

小回り中山の難しいところはコーナーで密集して捌きづらいところが挙げられる。1コーナーまでに締められたりなんていうことがザラにある中山において、ほぼほぼノープレッシャーで1コーナーに入れるのは大きい。欲しいポジションは取れるし、リズムが作れる。アサマノイタズラは結果2着。好走の要因の一つになったと思うよ。

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2コーナー。今回のスプリングSにおいて、結果を大きく左右したシーンと言っていいだろうね。

注目したいのは白ランドオブリバティの動きだ。

ランドオブリバティといえばみんなご存じのように、昨年12月の中山、ホープフルSで3、4コーナーから外に逃避。競走中止し調教再審査となっている。きさらぎ賞ではある程度マシになっていたが、今回はホープフルS以来の右回りだった。

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白ランドオブリバティに騎乗した(三浦)コーセイが「道中のポジションはよかったが、コントロールが利かなかった」と言うように、2コーナーのパトロールを見ると、ランドオブリバティが外に逃避しようとしている。

外にいたのは緑ボーデンの川田、紫イルーシヴパンサーのノリさん。この並びが勝負を分けた気がしてならないよ。

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白ランドオブリバティが残り1400標識付近で完全に外に持っていかれている。緑ボーデンはそれまでもちょっと掛かっていたのだが、ここでランドオブリバティに内からぶつけられて頭を上げ、リズムを悪くしてしまっている

この写真でも頭を上げているのが分かるね。ボーデンの外、紫イルーシヴパンサーが危うく外に弾かれそうになっている。調教再審査をクリアしたとはいえこれだからなあ。

今回は外にボーデンら壁がいたことで助かったものの、毎回これではレースにならない。事故が起きてもおかしくない

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ここでイルーシヴパンサーがちょっと外に弾かれたことで、緑ボーデンの後ろに青アサマノイタズラが入ることになった。

アサマノイタズラの嶋田としては、前に一番強いと思われるボーデンがいたのは大きい。強い馬の後ろは進路が開きやすいだけでなく、簡単に垂れてこないからリズムを作れる。そういう意味では今回、前述の最初の直線といい、2コーナーといい、アサマノイタズラは川田に連れてきてもらったと言っても過言ではない

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向正面。日曜の中山は南から6mの強風が吹いていた。直線やや向かい風になることで、スタートから風を受けるダート1200mが緩い流れになって時計が伸びないという現象が午前から続いていた。

そんな向正面にて、風向きは黒矢印。こうして改めて見ると、緑ボーデンの川田が橙アールバロン、緑イルーシヴパンサーを壁にしていることが分かるんだよな。川田が風を考えて乗っていると思うシーンは多々あるが、こういう細かい部分の動きが上手い。競輪と一緒で風よけがあるのは大きい

外を見ると緑イルーシヴパンサーの真後ろに青アサマノイタズラ。そしてその後ろに桃ヴィクティファルス池添がくっついているんだ。

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外に行くほどいい馬場なのにあえて青アサマノイタズラの後ろにつけているということは、桃ヴィクティファルスの池添も風を考慮して乗っていると言える。この人もこの手の細かい動きが上手い。

結果ヴィクティファルスは勝った。勝因は他にもあったから、ここで風よけを作った=最大の勝因とは言わない。それでもロスを避けるプレーの1つとはなっているし、0.1秒を争う世界だからこのような細かい動きは後々に繋がっていく

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3コーナー手前。白ランドオブリバティの斜め後ろに緑ボーデンがいる。

ボーデン川田はここで迷ったと思う。ランドオブリバティがすでに2コーナーで外に行く素振りを見せていて、実際ボーデンと接触している。

3コーナーでランドオブリバティがまたコーナーを曲がらず、再度外に飛んでいくかもしれない

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これはホープフルSのパトロールだ。

黒ランドオブリバティが外に飛んでいく際、4コーナーで緑ダノンザキッド川田は『被害』を受けている。3枚目の川田が手綱を引いていることが分かるだろうか。一旦ここでブレーキをかけるような形になっている。

まして、ついさっき内から外に飛ばれて被害を受けたばかり。このままランドオブリバティの外を回っていくと、ホープフルSのように更に外に持っていかれてしまう可能性がある

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かといって、白ランドオブリバティの被害を受けないために内に行くかというと、それもまたリスキーだ。

なにせ緑ボーデンは前述したように、スタートからまっすぐ走らされているほど、外目を走らせるよう川田が気を付けていた。内4頭分が悪いことを分かっておきながら、あえて内に飛び込めない。

ボーデンは新馬を勝っていない。未勝利を勝っただけだから賞金額は400万円。スプリングSで3着以内に入らないと皐月賞には出られない。400万でごく稀に出られることもあるが、ほぼほぼ除外になると見ていい。GIを見据えるならここは3着以内が絶対条件と言える。

このままランドオブリバティの外を走って、外に一緒に連れていかれてしまっては、3着以内どころの話ではない。権利を取るには、事故に巻き込まれるわけにはいかないのだ。

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結果3コーナー手前で緑ボーデンは白ランドオブリバティの内を選択する。かわいそうだと思うね。だってランドオブリバティがしっかりと曲がる馬だったら、馬場のいい外目を上がっていったほうが絶対負担にならないんだから。

あえて馬場の悪い内に飛び込まざるを得ない状況を作られてしまって、馬場の綺麗なところを通りたがる川田としては相当苦渋の決断を強いられたと見ていい。

その隣、紫イルーシヴパンサーのノリさんも困ったと思う。ランドオブリバティがしっかり曲がるか分からないこと、むしろ2コーナーの出来事を考えれば、3コーナーから外に飛んでいく可能性のほうが高いことを考慮すると、ここで外から動いてランドオブリバティを締めに行けない。『カラ馬が前にいるようなもの』と思っていい。

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緑ボーデン川田が白ランドオブリバティの外を選択しなかったのは、風向きもあったかもしれないね。6mの南風を受けながら外に飛ばされてしまうと、もう完全終戦。

紫イルーシヴパンサーのノリさんも強風だとインに入るタイプのジョッキーだから困ったと思うよ。動かしても、動かさなくても地獄。辛いポジショニングだ。

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紫イルーシヴパンサーのノリさんは事故を避ける意味合いもあって動かず、仕掛けを待っていた。そうしているうちに、今度は外から青アサマノイタズラ嶋田が動いてきたんだよ。

嶋田はアサマノイタズラの前走水仙賞で道中内に入り、内から上がっていこうとしたら外に締められ、前が詰まってポジションを下げ、脚を余して4着という誰が見てもクソ騎乗と言えるような騎乗をやらかしてしまっている

レース後嶋田が「前回は自分のミスだったので、力があるのは分かっていました。前走よりもいい状態でしたし、こういう馬場もこなせると思っていました」と語っているように、嶋田はこのレース、燃えていた。手塚師がオーナーサイドに頼み込んでくれてもらえたチャンス。

普通水仙賞みたいな競馬をしたらクビだからね。奇跡的に与えられたチャンスを生かすために、悔いのない競馬をしようと思ったのだろう。ランドオブリバティに飛ばされる可能性は頭にあったかもしれないが、それを踏まえても、勝負を懸けにいったのは前走があってのことだと思う

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青アサマノイタズラが動いてくれたことで、桃ヴィクティファルス池添は嬉しかったと思う。

もしアサマが動かなかったら、その後ろにいたヴィクティファルスも動けないわけだからね。動くには更に外を回る必要が出てくるし、道悪の中山で外をずっと回り続けるのは、いくら内が悪いからってリスクを伴う

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青アサマノイタズラも結果的に、白ランドオブリバティに飛ばされてはいるんだよね。残り400m付近でランドオブリバティが外に逃げようとしている。その内に黒いスペースが開いちゃっているだろう。

あえて馬場の悪い内に行ったボーデンが、外を回っていたらこのアサマノイタズラのように外に飛ばされていたかもしれない。

もしかしたらランドオブリバティがもっと外に飛んでいたかもしれないわけで、外ではなく内に進路を切り換えたのは正解だと思うんだよね。

ノリさんは事故に繋がらないよう控えたが、普段から有力馬に乗らないこと、前走水仙賞でミスしてしまった嶋田が突っ込んでいった。それまでの経緯を踏まえてこのシーンを見ると、それぞれのジョッキーの思考が透けて見える

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直線に入った緑ボーデン川田は、一目散に外に動いていった。悪い内を通る影響を最小限にするための動きだが、やはり道中掛かって、接触されて、3コーナーから4コーナーまで馬場の悪いインを通った影響をひっくり返すことはできなかった

それでも3着なんだから、今回一番強い競馬をしたと思う。前走の未勝利の数字が破格であるように、強いね、この馬。掛かり気味であったり子供っぽい一面がありながらこの内容。

レース後川田が「この馬には向かない馬場でした」と言ったのはホンネだと思う。配合的に道悪はいけると思ったが、ノメりかけていたし、道中の手応えの余裕を考えると決してこのような馬場は合ってはいない。ブラストワンピースになれるかどうかはまだ分からないものの、成長した姿が今から楽しみだよ。

ヴィクティファルスは思ったより強かった。正直共同通信杯の2着以下の数字は評価できないレベルなのだが、2戦目であそこまで走れていることをもっと評価すべきだったか。

馬場のいい外目を通れたこと、アサマノイタズラが動いてくれたことなどあったにせよ、距離のロスが大きかったのもまた事実。

この馬場で数字を比較することはナンセンスだから、数字面は割愛するとして、血統的にも晩成であり、一度使った後のダメージを気にしないといけない血統だから、皐月賞を使うとしてどこまでデキを伸ばしてこられるか。

アサマノイタズラは前走0点とすると、今日は90点はついていい騎乗だった。嶋田本人は仕掛けが早くなったと後悔していたが、正直仕掛けを待って伸びるほどすぐギアの掛かる馬でもない。動かしていった判断は正解だったと思う。逆に言えば90点の騎乗をしてスプリング2着。本番で足りるには様々な要素が噛み合わないといけない

イルーシヴパンサーは前述のように動くに動けない苦しいポジション。それでいて4着はよく頑張っているのだが、脚があればもっと動けている。能力の天井が見えつつある。ヴェイルネビュラは血統以上に良馬場向き。1800でこの内容なら、良馬場のマイルでもっとパフォーマンスは良くなりそう

問題は7着ランドオブリバティ。マスクがレース前のパドック評価でこの馬に全然触れていなかったことで察した人間もいそうだが、デキ自体が良く見えなかった

もちろん調教の動きは前走時より良かったよ。でも今日のパドックで見た姿は、少なくともホープフルより悪い。芙蓉Sのほうが更に良かった気がする。使ってきて前が硬くなってきた感じがあるし、再審査などで馬がストレスを抱えているのか、今日に関していえば、パドックでいいとはお世辞にも言える状況ではなかった

右回りの今回、2コーナーで飛びかけて他馬に迷惑をかけていること、3コーナー手前からまた飛ぶのではと後続に考えさせることで、レースに影響を与えてしまっていることを踏まえると、当分レースに使うことを避けたほうがいいのでは?と思う。大げさに言えば、カラ馬が走っているようなものだ

新馬の数字を考えると素質はある。現状ただ使うだけになってしまっている感が否めない。将来を考えると一度リセットして作り直していく必要を感じたよ。

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