見出し画像

ユニコーンSを振り返る~偶然が積み重なり回避された大事故~

最初に断っておくが、今日の回顧はショッキングな画像が含まれている

正直、今回の回顧に関しては書くかどうか迷った。マーメイドSよりはユニコーンSのほうがより進路のやり取りが面白いレースだった。

ただ、道中、亡くなってしまった馬がいる。

ゴールに至るまでの過程を書いていくのがこのコーナーだ。ピンクカメハメハの与えた影響がある以上、避けては通れない。賛否はあるかもしれないが、読まないのも選択肢の1つであることをあらかじめ記しておく。

画像2

画像1

スタート。白スマッシャーがちょっと変な体勢で出たんだが、よくゲートを出したと思う。

問題は隣の隣。黒ラペルーズなんだ。スタートを変な体勢で出て、外に吹き飛んでいるのが分かるだろうか。

画像3

画像4

黒ラペルーズが外に飛んでしまった影響で、その外にいた茶イグナイター、赤クリーンスレイトが更に外に飛ばされ、青ケイアイロベージが見えなくなってしまっている。

画像6

横から見るとこんな感じ。元々青ケイアイロベージは今回初めての芝スタートであること、出遅れ癖があることから、かなりの確率で出遅れるとは見ていた。

ただちょっと出遅れてしまったことで、黒ラペルーズに端を発する玉突き事故の影響を最小限で済ますことができた

画像6

もし五分に出ていたら、赤クリーンスレイトに思い切りぶつけられて気持ちが切れていたかもしれない。ちょっと外に振られてしまったものの、ケイアイロベージの(三浦)コーセイにとっては、最悪の被害は免れたと言ってもいいだろう。

このスタート後の接触は紙一重だったと思う。赤クリーンスレイトはすでにこの写真で見えなくなりつつあるが、サンライズウルスから外は被害を受けていない。青ケイアイロベージで被害が止まったわけだ。

仮に外が更に弾き飛ばされる展開だったら、スタート直後のアクシデントだけに、レースの流れ自体が変わっていた可能性がある

画像7

画像8

これはラペルーズの前走、青竜Sだ。赤ユアヒストリーがスタート直後に内に斜行し、黄ラペルーズにアタック。ラペルーズの気持ちが切れてしまった。

ラペルーズは前走自分がされたことを、今回やってしまった形になる。前走の被害のトラウマが残っているのか、気性が更に変な方向を向いている感じがする。

ルメールもあの気性だから細心の注意を払っていたとは思うが、それでも飛んでいってしまった。ゲートを出た後に外に飛んでいってしまったあたり、競馬を苦しいものだと思ってしまっているフシがある。

こうなると問題は根深い。当分どの条件でも危ない馬になってしまった

画像9

やってしまったものは仕方ない。黒ラペルーズのルメールは、ゲートで外に飛んでいった後、立て直して内に入れないよう進路を取った。

前走はぶつけられた後に砂を被って気持ちが切れてしまった。今回の枠は2枠4番。砂を被らないために外に出しに行くのは当然の選択だと思う。

ただその影響は外の馬に出てしまった。画像を見てほしい。黒ラペルーズの内と、外。馬の数が違う。ラペルーズが外の差し馬たちをせき止めてしまっているのだ。

外枠の先行馬はラペルーズを超えて内に密集しているが、差し馬たちはラペルーズを超えられず、外で密集している。内に2、3頭しかいないのに、外には6頭もいる。

この影響もあって、ラペルーズの内にいたスマッシャーなどは、内枠なのに極端に揉まれない状況が生まれた

不幸中の幸いという言葉を使っていいものか分からないが、ラペルーズが防波堤になって外を止めた分、大事故に繋がらなかったと言ってもいいかもしれない。

画像11

画像11

これは400m通過地点。問題の地点で。ここからショッキングな画像が続く

橙ピンクカメハメハの様子がおかしい。頭を上げて掛かっているような状態になっている。掛かるとジョッキーがもっと腕を引いて、馬が口を割る。しかしその素振りがない。

動画で見ると分かるが、フットワークもおかしい。たぶん(北村)ヒロシはなんか変だと感じていたはず。かといって馬は急ブレーキを踏めない

よく故障した馬をなんですぐ止めないのかという批判が巻き起こるが、馬は急ブレーキをかけるとより故障が重くなる。体重が乗っかってしまうからだ。止める時には自然な感じで減速させなければいけないんだ。それが難しい。

この状況だとピンクカメハメハは逃げ馬の後ろ。より後ろには何頭もいる状況だけに、急に引いてブレーキを掛けると、後ろも巻き込まれる。競馬は他者の安全も考えて動かないといけないから、一瞬どうしたものか、相当迷ったはず。

画像13

さっき、黒ラペルーズが防波堤を作って外を止めていた分、『ラペルーズの内にいたスマッシャーなどは、内枠なのに極端に揉まれない状況が生まれた』と書いた。

ラペルーズの内にいる白スマッシャーたちの内側、白く丸をつけた部分のスペースが開いているのが分かる。これが非常に大きかった。

画像14

画像15

急に橙ピンクカメハメハが内に飛んでいってしまったのだ。急性心不全。その前に若干兆候はあったとはいえ、心臓系はいきなりやってくる。対処のしようがない

ピンクカメハメハが内ラチのほうに飛んでしまった

画像16

画像17

内の馬たちも避けているのだが、元々ラペルーズが外をせき止めて内の馬群が緩かったことで、内の馬たちに逃げ場があったんだよ。

だからピンクカメハメハが内ラチに激突して落馬しても、避けるためのスペースがあったから避けきれた。

画像13

これは去年のユニコーンSのパトロールビデオだ。分かるだろうか。ラチ沿いに逃げるスペースがないことを。

仮に、昨年のような馬群でピンクカメハメハが内ラチに飛んでいってしまったら、確実に内の馬3頭くらいが巻き込まれて、そのまま一緒に落馬していた。巻き込まれ事故が発生していた。

しかし今年はラペルーズが砂を被りたくないから外に行こうとした結果、内のほうのスペースが緩く、誰も巻き込まれなかったのである。

まさに奇跡的だと言っていい。ピンクカメハメハが亡くなった以上この言葉を使うのもためらうところだが、実際そうなのだ。偶然が重なって大事故になっていない。

画像18

これが仮に、橙ピンクカメハメハが心臓をやってしまった際、外に飛んでいったらどうなっていたか

この画像を見てなんとなく察しがつくと思う。ラペルーズやブラックアーメット、ルーチェドーロは確実に被害を受けていた。まず落馬していたと思う。ピンクカメハメハが内に飛んでしまったことで、これらの馬が落馬しなかったと言っていい。

もしヒロシがこの厳しい状況で、とっさに重心を内に掛けてラチ沿いに行ったのだとしたら、ものすごいファインプレー(言い方はどうかも)。

画像19

あまり取り上げるのはどうかと思うのだけれど、もう1つ奇跡的だったのが、ヒロシの『落馬した場所』。

内ラチ沿いの右側、黒矢印をつけた部分だけ色が違うのが分かる。このラチの隣の黒いやつ、ゴムなんだよな。もちろん体のほうはアスファルトに落ちているから大変な衝撃だと思うが、頭部だけ、ゴム部分に落ちている。もし全身アスファルトに落ちていたら…そう思うと、背筋が凍る。

作業車の問題もあって全面ゴム敷設はできないとして、このゴムの部分をもう少し外まで敷いて、車道をより外に、せめて50cmくらい寄せることはできないものかと思う。

もちろん今回はイレギュラーな案件としても、命が懸かっている現場において、様々なイレギュラーは想定しておくものではないかな。

ただJRAが何もしていないわけではない。昔哲三さんが落馬し、内ラチを支える支柱に激突して騎手生命が絶たれてしまったこともあって、騎手会の要望も踏まえ、支柱を柔らかい素材に変えている。大事故に繋がらないような取り組みはJRAも行っていることは、ここに記しておく。

いずれにしても、今回の事故は奇跡的な要素が多い。もちろん亡くなったピンクカメハメハはかわいそうなことになってしまったのだが、本来であればもっと大きな、多重事故が発生してもおかしくない局面

偶然とは重なるものだな。

画像20

ピンクカメハメハの影響で、白スマッシャーなどもちょっと外に膨らんだ。反応して外に動いたんだよな。

ただ水ヴィゴーレは思い切り外に飛んでいったのに対し、スマッシャーや青ケイアイロベージは最小限の被害で済んで、すぐに内に戻れたんだ。

画像21

しかも一瞬外に飛んだ影響で、ラペルーズの周り、つまり黒丸で囲んだ馬たちが、更に外に並んでしまった。対してスマッシャーの回り、白丸の部分は内枠なのにほとんど馬がいない。

重賞なんて基本的に馬群が密集するものだ

画像22

改めて去年のユニコーンSを見ても分かる。今年と去年のユニコーンSでは密集の度合が違うんだよ。

いかに今年、内に馬がいないかが分かる。基本的にダートは内目で揉まれると苦しいものだが、今年に関しては極端に内が揉まれない状況が生まれた。内にいたスマッシャー、更にその後ろにいたケイアイロベージには追い風だったのは間違いない。

画像23

特に青ケイアイロベージは幸運。

白スマッシャーの前のスペース、白丸で囲んでいる部分が空いているのが分かるだろうか。これは一つ前の3コーナー手前の写真でも分かることだが、コーナーでも内目のスペースがガバガバに空いている

ケイアイロベージは怖がりなのだ。怖がりだから簡単に馬群を突けず、おおざっぱなレースになりやすい。しかしこれだけ内目が空いていれば、怖がりな馬でも入っていけるスペースが生まれる。

画像24

一方苦しいのは、黒丸で囲んだ、ラペルーズたち外を回った馬たちだ。

先ほどから説明しているように、外の馬たちはラペルーズの影響で内に入れず、ピンクカメハメハの影響で更に外を回されてしまっている。

●ユニコーンSのペース
12.1-10.6-11.3-11.9-12.1-11.8-12.2-12.4

16年35.3-36.2 1:35.8 良
17年34.1-36.7 1:35.9 良
18年34.8-35.6 1:35.0 重
19年33.9-37.1 1:35.5 重
20年34.2-36.5 1:34.9 稍重

21年34.0-36.4 1:34.4

前半600m34.0はここ3年に近い水準なんだが、勝ち時計がレースレコードだったように、中盤もペースがそこまで落ちなかった。

断続的にペースが速い状況でコーナーを回ったら、物理的に外を回る組は厳しい。黒丸で囲んだ馬たちは見た目以上に負荷がかかっていたと考えていい。

逆に1着スマッシャーと3着ケイアイロベージは内内を通っている分まだ楽。しかも前述したように、ピンクカメハメハなどの影響から内の馬群が緩いから、二重の恩恵を受けていた

画像25

4コーナー。形としては、緑ティアップリオンの後ろに白スマッシャー、その後ろに青ケイアイロベージ。

スマッシャーとしてはティアップリオンをどう交わしていくかを考える4コーナーだったと思う。これでティアップがタイトに内を締めてきたら、速いペースを先行していた馬たちが垂れてくる分前が壁になる。

画像26

画像27

白スマッシャーの(坂井)瑠星としては、ここまで脚を溜められた分、うまいこと捌きたい。その後ろのケイアイロベージはスマッシャーにうまく捌いてもらって進路を切り開いてほしい。

進路としては内か、外か。内に入ると下がってくる(だろう)先行馬たち。外に出すならローウェルあたりが邪魔だ。

さてどうしようかと思っているうちに、実は進路が『自動ドア』だったことが判明する。

画像28

画像29

前を走っていた緑ティアップリオンの右手を見てほしい。内田さんが右からムチを何発も入れているのに、ティアップリオンがその意向に反して外に飛んでいっているのだ。

桃ルーチェドーロがティアップリオンの動きによって更に外に弾かれてしまった。ツイていない馬だ。道中外を回され、ハイペースでしんどい部分を回り、直線では内から更に外に飛ばされている。大外枠なんかに入ったのが運の尽きだった。

逆にスーパーラッキーだったのは白スマッシャー。だって、前を走っているティアップリオンが勝手に外に飛んでいってくれたんだもん。

自動ドアだよな、もう。いらっしゃいませー、ご来店はおひとりですかー?という状況だ。

画像30

お二人様だったようだ。先に入店した白スマッシャーと、その後ろから青ケイアイロベージも入店してきた。

道中インが空くわ、直線でも進路が空くわ、結局元をたどればラペルーズが内に入ろうとしなかったことが原因なんだが、おかげで何一つ不自由なく進路が空いている。

まー、GIでこんなレースはありえないよね。これまでの回顧を見てくれている人間なら分かると思う。馬群が緩過ぎるし、直線簡単に前が開きすぎだ。これがGⅢとGIの違い。来週は厳しいレースが見られそうだし、楽しみにしたい。


勝ったスマッシャーは予想に『たぶん左回りのほうがいい』と書いたのだが、やはり左回りのほうがスムーズ。直線が軽い馬場とはいえ上がり3F35.4も優秀。反応がちょっと遅い分、マイルがむしろ合ったね。

ただレースレコードだったとはいえ、例年の勝ち馬と比べてレベルが高かったかは疑問。未勝利で1:37.7が出てしまうほど軽い馬場だったこと、中盤も締まったことからタイムが出やすい状況だった。

今回の内容からレパードSの1800くらいなら対応できるだろうが、今後古馬相手に1800は長そうだし、古馬相手のマイルだと地力に差が出るレースが増えそう。古馬相手に2、3着が増えそうなタイプだよ。

2着サヴァは厳しいペースだったことを考えれば、外前から一旦先頭に立った内容は悪くない。距離短縮だけでなく、ここ最近ミスっていたゲートがしっかり決まったのも大きい。

2走前の昇竜Sで前半3F34.0のハイペースを追走に苦しんでいたあたり、ハイペースで外からついていけるか不安だったが、今回は手綱を抱えたまま追走できた。前走一周を使った結果、馬が成長したと見たい。

まー、気性的に今後は1400にシフトしていくはず。前述の通りハイペースだとついていけないパターンがあるから、ある程度先行馬が手薄な1400なら、古馬相手にも通用してくるのではないか。

ケイアイロベージも前述のように怖がりな分、今日は馬群がバラける展開だったのは大きかった。ゲートで出遅れながら3着まで来ているように、素質はサヴァやスマッシャー以上。レース慣れして馬群に慣れれば、重賞2、3個取れるだけの力はある

4着ルーチェドーロは大外枠がマイナスに働いてしまった。道中外外を回されながらも最後、しぶとく伸びたように地力は高い。今日のデキがMAXとも思えず、もう一段階上がある馬。本職は1400だろうが、古馬相手にもやれる馬。

まー、弱点は戸崎が言う「レースへ行って不器用なところがある」点。3走前の昇竜Sも大外を回されている。やや大味なレースが目立つだけに、もう少しラチ沿いを捌く競馬ができればよりいい。

6着サンライズウルスも素材はいい。藤井がレース後「道中は置かれてしまいましたが、最後はしっかり走り切ってくれました」と話しているように、テンから置かれてしまう面がネック。上がりの脚は速いが、そもそも位置取りを確保できないタイプの追い込み馬だ。

いい決め手は持っているだけに、馬の気持ちがレースに対してもう少し前向きになってくれば、重賞でも十分通用してくる馬だと思う。つまり気性面の成長が必須。来年くらいかな、もっといい馬になるよ、この馬は。

13着ラペルーズは気持ちの問題。ヒヤシンスSの数字分も走れていない。スタート後の外ヨレ、直線の反応と、完全に競馬を苦しがっている。煮詰まっている感じだね。

大体こういう場合は少し長期の休養を挟んでリセットする。藤沢厩舎はもう半年ちょっとで解散することから、ラペルーズが再生するころには厩舎がないんじゃないかな。

走り的には地方のダートも面白いと思う。ワンチャン、地方に来て、作り直してみてもいいかもしれない。道中速いペースが合わない気もするし、地方の序盤が流れないレースで見てみたい


さて、最後に。

ピンクカメハメハに触れておきたい。

こう書くと怒られるかもしれないが、正直、ダートのトップレベルになれるかというと疑問なところではあった。ただフロックでサウジダービーは勝てない。結果的に、この馬をよく掴めないまま旅立たれてしまった。

当初予定では北海道。切り換えてユニコーンに出てきたわけだが、なら北海道に出ていたら助かっていたかというと、タラレバであって、それは誰にも分からない。走らせなければよかったは結果論でしかない。

競走馬は走ることが仕事。どの馬にも急性心不全のリスクはある。不幸にも今回ピンクカメハメハだったという話で、そんなリスクを抱えながら走っている馬たちへの敬意、忘れてはいけないことを改めて感じる結果となった。

一番辛いのは、一番そばで接してきた担当さんだ。担当馬が競馬場から帰ってこなかった例を、俺は仕事柄何回も見てきた。

空の馬房、並べられた仏壇。何度立ち会っても辛い空間さ。一番辛いのが担当さんだと知っているだけに、俺はただただ冥福を祈ることしかできない。

もし、ピンクカメハメハが外に飛んでいたら大事故まであった。もちろん今回の件も大事故なんだが、それ以上に被害は拡大していたと思う。右トモで踏ん張って、フラフラと内ラチを頼りに行ったことから、多重落馬が起きなかったと言ってもいい。

急性心不全の場合、その場で倒れて絶命する場合もある。そうなるとヒロシは前に投げ出されて、あの位置だと後続は避けきれないから、間違いなく踏まれていただろう。命があったかもわからない。

最後まで踏ん張って走路の真ん中で倒れなかった君は偉い。お疲れ様という言葉しかない。今回の件を機にラチ沿いの内の整備などが進めば、それはピンクカメハメハの生きた証になるだろう。

改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?