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ヴィクトリアマイルを振り返る~天才牝馬が見せつけた『残酷な差』~

GI

中央競馬最高峰のクラスにして、年間20Rちょっとしかない。勝ちたくない陣営はいないだろう。

当然みんな獲りに行くから、馬群もタイトになるし、厳しいペースになりやすい。簡単に獲れるものではない。『攻めの騎乗』に徹してくるジョッキーも多い。当たり前の話だ。

そんなGIを、『安全運転』で勝てる馬こそがスーパーホースと呼ばれる種類の生き物なのだ。数年に1頭出現して、楽にポジションをキープすると、攻めることなく無難に外を回してGIを勝っていく。

純粋な能力差を見せて勝っていくスーパーホース、そして圧倒的な力の前に、ひっくり返ることのない差をつけられ負ける2着以下の馬たち。今年のヴィクトリアマイルもそんなレースとなった。


今回、ルメールに課されたミッションはただ一つ。『いかに楽に勝つか』。これに尽きる。

裏話にも書いたように、グランアレグリアは次走安田記念となることが内定していた。ヴィクトリアマイルから中2週で迎える次走に向けて、反動は残せない

それこそ馬群の中で揉まれて外傷を負ったり、芝の悪い部分に脚を取られたりすることだけは避けたかっただろう。『安全運転』が求められていた。

●日曜 ルメールの騎乗馬
5R 芝1600m バニシングポイント
7R 芝2400m ブレッシングレイン
8R 芝1600m アオイクレアトール
9R 芝1800m ゴルトベルク

10R ダート1600m ラペルーズ

11R 芝1600m グランアレグリア

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今日最初の騎乗となった5Rの赤バニシングポイント。ルメールは内枠から、道中内を通って進出している。そして直線で前が壁になってしまった

内で前が詰まるということは、内に馬たちが密集しているということ。つまり他馬に乗っているジョッキーたちが『ラチ沿いを通れる』と判断した裏返しだ。

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ルメールは直線で前が詰まった後、赤バニシングポイントを外に誘導。上がり3F33.0の脚を使って4着まで差してきている。これでルメールは『内から10頭分が伸びる』ことを把握した。

外目が伸びるのであれば、密集するであろう内にこだわる必要がない。安全運転で外を回してもOKというプランがまとまったはず。ルメールのプラン決定に向け、5Rで詰まったという事実は一つのポイントになったように思う。

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これは7R。橙ブレッシングレインに騎乗したルメールは4着だった。

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これは8R。青アオイクレアトールに騎乗したルメールは1着だった。どちらのレースも道中外目を回り、直線では内から10頭分のスペースを通っている。

8Rの画像を改めて見ると、青アオイクレアトールの後ろに桃リーガルバトル川田がいる。川田は8R終了時点で『グランアレグリアは外目を回って、直線内から10番手付近を通る』ことを予測できていたと思う。

客観的に見て、ヴィクトリアマイルで一番強いのがグランアレグリアなのは間違いない。川田が騎乗するデゼルが引いた枠は3枠5番。グランアレグリアは3枠6番

よくこの回顧を見てくれている人間は、『強い馬の後ろ』というポジションがいかに恩恵を授かれるか分かると思う。川田のプランは『グランアレグリアについていく』だっただろうし、デゼルは跳びが大きいから内を突けないため、グランアレグリアが外目を回る≒道中ずっと後ろについていけるデゼルに有利、という図式が成り立つ。

8Rの進路取りからして、『クリストフは外を回るだろうから、ついていきやすくなったな』と川田は思ったはずだ。

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これは9R。ルメールが騎乗した青ゴルトベルクの進路が、それまでの7R、8Rと大して変わっていないことが分かるだろうか。やや外目を通って、直線は内から10頭目近く。

ここでもう1つ注目したいのは、橙ミモザイエローの進路取りだ。ミモザイエローが内目から伸びて3着になったんだよ。騎乗していた福永は馬場をとにかく読む。レースの日の朝に芝を歩いて確認するほどだ。そんな福永が、『外枠のミモザイエローを道中インに入れて、直線で内目を通った』。

つまり内も状態自体は悪くない。思い返せば5Rも内は密集していたからね。これらのことから、『内から10頭目付近はよく伸びるが、ほぼフラット』と馬場が読める。このポイントを頭に入れながら、ヴィクトリアマイルを見ていこう。

●ヴィクトリアマイル 出走馬
白 ①マジックキャッスル 戸崎
灰 ②シゲルピンクダイヤ 和田
黒 ⑤デゼル 川田
赤 ⑥グランアレグリア ルメール
青 ⑧ランブリングアレー 吉田隼
緑 ⑫サウンドキアラ 松山
橙 ⑭ディアンドル 団野
桃 ⑯リアアメリア 福永
紫 ⑱レシステンシア 武豊

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スタート。桃リアアメリアが出遅れた。横から見ると馬が前後に動いてゲートの中で暴れているから、ゲートの開くタイミングが悪かったとしか言いようがない。

リアアメリアは裏話にも書いたように、先週日曜ちょっと色々やって、これまでで一番ハードに攻められている。GI級の素質を持っているのは過去の数字から明らかで、乗ったジョッキーたちもGIを勝てる馬と言っているくらい力はある。なのにまだGI勝ちがない。

左回りのマイルは考えられる上でベスト条件。当然獲りに行くために、いつもよりハードに攻める。テンション面が上がりやすいから、綱渡りの仕上げだったと思う。

実際パドックに出てきた姿は良かった。作り込んできていたし、体はできていたと思う。ただハードに攻めた分、テンションもギリギリ。パドック、返し馬をなんとかやり過ごしてきたものの、ゲートの中に入った瞬間スイッチが入ってしまったんだろう。

これはもう仕方ない。一部のスーパーホースを除いて、GIはギリギリまで仕上げないと勝てない。ソフト仕上げで結果が出なかった以上、GIで攻めるのはある意味当然。五分のゲートだったら…そう思わずにはいられないシーンだった。

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スタートから向正面、恵まれたのは内枠だろう。赤グランアレグリアが『ずっとまっすぐ走っていた』のだ。

冒頭から書いたように、ルメールはこのレースを『安全運転』で乗り切りたい。これまでのレースから外目に進路を取りに行くのは明らかだった。

引いた枠は3枠6番。ここから外に出すため、スタートからまっすぐ走らせ、外の馬に押し込まれない形を作りに行ったんだよな。

そうなると外枠の馬たちは困る。たまに回顧に書く形だ。赤グランアレグリアが『防波堤』となって、外枠を止めている。おかげで馬群の密集度合いが内と外で全然違うのが分かる。

こうなると黒デゼルはありがたい。外から内にやってくる馬たちをグランアレグリアが防いでくれる。内で揉まれるリスクが軽減される

更に内にいる白マジックキャッスルや灰シゲルピンクダイヤも同様。内枠は距離ロスなく回ってこれるメリットはあるが、逆に言えば密集すると行き場がなくなる。グランアレグリアがまっすぐ走ったことで内枠は恵まれた

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●21年ヴィクトリアマイル
11.9-10.8-11.6-11.7-11.6-11.2-10.9-11.3
34.3-33.4

前に目を向けると、隊列は割とすんなり決まった。事前の話通り紫レシステンシアがハナに行かなかったことで、クリスティハナ、外の2番手にスマイルカナでまとまって、前半3Fは34.3。

34.3はここ10年のヴィクトリアマイルで4番目タイに速い。つまり速過ぎない流れ

裏話に書いたように、レシステンシアはスタートから押していくと最後甘くなる馬。自分のリズムで先行したい。今回は大外を引いてしまったから、ハナを切るには強引に行くしかない。しかしそれはできない。

武さんからすると、自分が逃げればペースを作れるものの、逃げられないとなると、ハイペースに巻き込まれるのが怖かったはずだ。そういう意味では平均ちょっと速いくらいのペースだったから、プラン通りだったと思う。

レース後「大外枠だったので、行きたい馬に行かせた。3コーナーでは折り合いもついていた」と言うように、レシステンシアは3コーナーまでの入り方が良かったと思う。

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ペースがそこまで速くないということは、後ろは密集する可能性がある。ところが前述のように、赤グランアレグリアが外に出すためポジションをキープしたことで、内枠の馬たちはそんなに密集していない

しかもグランアレグリアの斜め後ろに黒デゼルがずっとついていったことで、デゼルの内側にスペースが開いたんだ。ここに一番近いところにいたのが青ランブリングアレーだった。

よく回顧で、『強い馬の後ろがいいポジション』と書く。これは強い馬が進路を作ってくれるから、その後ろにスペースができやすいから。今回も事前にTwitterで『グランアレグリアの後ろを誰が取るかがポイント』と書いたのもそれだ。

④イベリス 酒井学
⑤デゼル 川田
⑥グランアレグリア ルメール
⑦マルターズディオサ 田辺
⑧ランブリングアレー 吉田隼
⑨テルツェット デムーロ

イベリスとマルターズディオサは先行馬だから、グランアレグリアの後ろにいられそうなのはデゼル、ランブリングアレー、甘く見てテルツェット、このあたりであることが枠の並びから分かる。

結局デゼルが斜め後ろを確保して、その斜め後ろにランブリングアレーが入ることができた。ランブリングアレーとしては『4枠8番を引いたこと』に非常に大きな意味があった。実際、こうして目の前にスペースが開いているわけだからね。

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これは先行勢でも同じことが言える。紫レシステンシアの後ろのスペースを確保できたのは橙ディアンドルだった。

遅くはないが、そこまで速過ぎないペースだけに、緑サウンドキアラはディアンドルの位置が欲しかったと思う。ディアンドルにポジションを取られてしまった分、更に1頭分外を回すことになってしまった。

結果ディアンドルは4着、サウンドキアラは11着。サウンドキアラがポジションを取れていたらもっと着順は良かった可能性が高い。逆に、ディアンドルはこのポジションを取れたことで4着に粘れたと言っても過言ではない。

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コーナー。赤グランアレグリアが外外を安全運転で回す中、その斜め後ろの黒デゼルは相変わらず絶好の位置にいる。グランアレグリアの斜め後ろという時点でいいのだが、なおかつ外がプールヴィルだったのも大きい

プールヴィルはこれまでの戦績からも、1400ベストでマイルは乗り方次第の馬。コーナーで早めに自分から上がっていって、デゼルを締めるなんていうことはしてこない。おかげでデゼルはプレッシャーがかからない。

そしてその内にいる青ランブリングアレーは、デゼルがポジションを取ってくれているおかげで、馬群がタイトになりやすいGIなのに、内のスペースあるところで収まることができている

一方前を見ると、イベリスの手応えがすでに良くない。その後心房細動であることが発表されたが、イベリスの後ろにいた灰シゲルピンクダイヤが、紫レシステンシアの後ろに移動する。

シゲルの後ろにいた白マジックキャッスルも、シゲルの後ろで合わせて移動する。この時点でマジックキャッスルの両サイドはスペースが開きつつある

つまり、スタート後、向正面でグランアレグリアが外の馬を止め、内の馬にスペースができた恩恵が未だに生きているんだよな。

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●21年ヴィクトリアマイル
11.9-10.8-11.6-11.7-11.6-11.2-10.9-11.3

残り600m地点、4コーナー。太字の部分。ここが勝負を分けた点だったかもしれないね。

よく見てほしい。この地点、それまで黒デゼルの斜め後ろにいた青ランブリングアレーが、この地点でデゼルより若干前にいるのだ。

これはランブリングアレー自身が動いているのもあるが、デゼルが反応できていない。前走もなんとか最後間に合ったこと、デゼルが中山2200mの迎春Sで3着に入っているように、純粋なマイラーではないことから、ペースが上がるところでデゼルが置いていかれていると考えられる。

それまで赤グランアレグリアの斜め後ろにぴったりくっついていたデゼルが一瞬遅れることで、ランブリングアレーがグランアレグリアの後ろに入るチャンスを与えてしまったんだ。

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横、斜め前から見るとこんな感じ。黒デゼルがスっと反応して赤グランアレグリアについていく形が取れれば、青ランブリングアレーを締めることができる。しかし反応が間に合わず、ランブリングアレーがグランアレグリアの後ろに入ってしまった。

ランブリングアレーとしてはもう理想的な形。道中前にスペースがあるわ、4コーナーの勝負所で外から締められないわ、直線前にいるのは断然人気だわ、全てが上手く行った。4枠8番を引いていなかったらここまで上手くはいかなかっただろう。

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内で恵まれたのは白マジックキャッスル。直線入口では進路を探す段階だったが、坂下付近で前を走っていた紫レシステンシアが、武さんに右ムチを入れられたことで、内ラチ沿いに向かっていった。

これによって灰シゲルピンクダイヤとレシステンシアの間にスペースが開く。こうして、真後ろにいた白マジックキャッスルは思い切り進路が開いた。

マジックキャッスルも道中内枠なのにプレッシャーがそう掛からず脚を溜めることができた。加えて直線、すんなり進路が開くというラッキーな展開。

もちろんただラッキーなだけでなく、戸崎がスタートを決めてシゲルピンクダイヤの後ろを追走できたからこそ、こうして進路が開いたと言えるわけだから、好騎乗と言っていいだろう。最内枠から完璧に運べている。

ただ前半部分に書いたように、ルメールが内から10頭分外にこだわっているあたり、一番伸びるところではなかった。2着ランブリングアレーとの差はこの通った進路の違いだろうね。

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残り400mを過ぎて勝負に出たのは紫レシステンシアだった。逃げたクリスティを早めに捕まえに行って、単独先頭に立ちにいったんだ。

●21年ヴィクトリアマイル
11.9-10.8-11.6-11.7-11.6-11.2-10.9-11.3

今回のヴィクトリアマイルの特徴の一つが、後ろから2F目、400m→200mが10.9だったこと。

この地点が10秒台だったのは、ヴィクトリアマイルの過去15回中、09年17年2回だけ

●残り400m→200mが10秒台
09年 ウオッカ 34.7-33.8
17年 アドマイヤリード 35.6-33.8

21年 グランアレグリア 34.3-33.4

09年はウオッカが大楽勝した年で、早めに抜け出したウオッカが10.8を刻んだ。17年は前半3F35.6。ここ10年で一番遅いペースだったから、ラストのタイムが速くなって当然。

今年はアドマイヤリードが勝った17年より、前半3Fが1.3秒も速い。なのにラスト2F目が10.9なのだ。簡単に言ってしまうと速過ぎる。一見レシステンシアの武さんの仕掛けが早いとも見えてしまうシーンだよね。

ただ武さんは「直線は自分のタイミングで抜け出した」と話している。見ている感じ、意図的に仕掛けを早くした可能性が高い。

つまり、レシステンシアだけ『1400mのレースをやっている』。早めに勝負を決めに行ったんだ。

距離を持たせるというテーマで騎乗した場合、当然仕掛けはギリギリまで待ちたい。ならレシステンシアの末脚が切れるかというと、そうでもない。レシステンシアの武器は軽快なスピードと持続力だ。レシステンシアの持ち味は生かせないし、グランアレグリア相手にほぼ100%切れ負けてしまう。

だったら逆に、持続力を生かすために早めに動いてセーフティリードを作ったほうがよほど勝率は高くなる。グランアレグリアを封じるためにあえて早めに動いた可能性が高い。

結果的にレシステンシアは最後止まってしまったが、これが力のない馬だったら武さんはそもそもこんな早仕掛けはしない。過去に数多くの名馬に跨ってきた第一人者がレシステンシアの力を認めているからこその早仕掛けなんだよな。

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残酷なものだ。早仕掛けで10.9を刻んでまでセーフティリードを作りにいったのに、その後ろのグランアレグリアは、10.9の区間でほぼ馬なりで上がってきている

この区間でグランアレグリアは10秒台半ばは出しているだろう。ちゃんと追われ出したのは坂を上がるあたりだから、残り300m地点まで軽くギアをかけられる程度で10秒台を出してしまうその脚力

しかも今日は雨が降って、全体的に時計は1秒近く掛かり、上がり3Fも全体的に1秒近く掛かっていた。その中で、10秒台の区間を馬なりで上がってくる。何らかの化け物と言っていいだろう。

レシステンシアが意欲の早仕掛けで対抗しようとし、マジックキャッスル、そしてランブリングアレーがノーミスで完璧な競馬をやったのに、4馬身も突き抜けてしまった。能力が1枚どころか5枚くらい抜けている

何らかの可能性も考慮して、3点ほどグランアレグリア2着の馬単も買ったのだが、そんな自分を恥じたくなるほどの強さだった。今日の馬場で、ラスト1Fを単独走で11.3でまとめてしまうのはおかしい。安田記念を見据えて最後流して、1:31.0。ルメールが「違うレベル」と語るのも分かるよ。

何よりルメールが「自分からハミを取りましたし、ギアアップしてくれました」と語っている点は特筆モノ。若い頃は番手からスピードを生かす競馬が主体で、自分の形にならなかったNHKマイルでは、進路を探すためにフラフラして斜行、降着になっている馬。

それが最初から控えてハミを抜いて走り、勝負どころで自分からハミを噛んで上がり、ジョッキーの指示を聞いて突き抜けてみせた。成長しか感じない。有り余るスピードの使い方を馬が完全に覚えている

ここまで持ってきたのは厩舎、そして天栄の技術力だろう。普段の軽めの運動からオンオフの意識を徹底させた結果がこれなのだと思う。もちろん教え込んだことを実行できるグランアレグリアの頭の良さがあればこそでもある。頭が良くて、爆発的なスピードもある、まさにディープインパクト産駒の最高傑作と言っても過言ではない

それだけに秋、海外遠征が見たい。一応天皇賞秋という雰囲気になっているが、コロナ次第では秋の海外のビッグレースが視野に入っている。この馬の爆発的スピードが、アメリカの芝でどうなるのか、イチ競馬ファンとして見てみたいよ。


ランブリングアレーは完璧に乗られての2着と言っていい。「リズムよく運んでいいところに嵌まった」と隼人が言うように、道中の進め方、4コーナーから直線にかけての外への出し方、全て完璧だった。裏情報で陣営が雨が降ったほうがいいと言っていたように、雨が降って馬場が柔らかくなったのもこの馬にとって大きかった。

ただ隼人が「勝った馬に馬なりで行かれてしまった」と言っているように、グランアレグリアとの能力差が残酷なまでに見えたレースでもあった。完璧に乗って、この差。完敗どころの話ではない。

マイルにもうまく対応していたように、器用な馬。非根幹の重賞ならもっと良さそうで、秋のエリザベス女王杯が楽しみだよね。府中牝馬Sでも面白い。何より隼人。馬群がゴチャつきやすいローカルを主戦場にしている分、道中の動き方が絶妙。個人的には中央GIに必ずいてほしいジョッキーの一人なんだよ。

3着マジックキャッスルもこれ以上ない内容。最内枠のメリットを最大限まで生かした立ち回り。ピッチが速い馬だから、内枠が合っている。今日は完璧に行っての3着だから、今後GIを勝てるかどうかとなると、相当展開の助けが欲しいのも事実だ。小回りも上手いから、夏の札幌なんかでも楽しめる馬だね。

4着ディアンドルは短距離だと行けなくなって中距離に転向したが、馬がマイル以上の競馬を完全に覚えたようだね。以前よりレースの幅が広がっている。地力強化も目立つ。

ただ今日に関してはペース、そしてレシステンシアの後ろというポジション利もあった。確実に強くはなっているが、G2以上を勝つには更なる地力アップが求められる。現状では勝ててG3。もう1回り成長したい。

5着シゲルピンクダイヤは以前よりゲートが上手くなってレースに幅が出てきた。ただ今日に関しては、マジックキャッスル同様、グランアレグリアが防波堤となって内目のスペースが開いたことも大きかった。本来揉まれ込むと良くない馬だから、正直、枠の並びと運も良かった。重賞ともなれば、中日新聞杯のように、スローを外枠から前目で運べたほうが良さそう。

6着レシステンシアは前述通り。出し切っての6着と言っていいだろう。今日のパドックは、最高に良かったと思われる高松宮記念を100とすると、97~98くらい。デキ自体は相当良かったのは間違いないが、マイルで中盤が締まる流れは、デキの良さだけでカバーできないことが、これでハッキリした。

持っているスピードは現役トップクラス。高松宮記念もやや不運なところがあったから、良馬場の1200~1400なら大きいところをまた勝てる。スタートから押して出していけないネックがあるから、より合うのは1400m。阪神カップが楽しみだね。1400のGIが日本にないのが痛いよ。

7着ダノンファンタジーは位置取りを考えると悪くない内容。少々掛かることを考えれば、よりいいのは1400m。スワンSなどが楽しみになってくる。ここ2走の内容は悪くない。

8着デゼルは4コーナーから直線にかけて一瞬グランアレグリアに離されたあたり、本質はマイラーではないのだろうね。GIIくらいまでならこなせても、中盤が締まるGIのマイルは短いよう。

ただこの馬は今日のパドックで見てもまだ未完成。完成度は8割に達していないと思う。完成するのか分からないが、まだまだ良化余地を残しており、もっと楽に追走できる距離ならよりいい。少なくとも今日は完璧に乗られていたと思う。

最後に触れておきたいのが13着だったリアアメリア。週中から『GI仕上げ』が施されていると聞いていたし、陣営としては勝負に出ていた。しかし馬が最後にその仕上げに耐えきれなかった。

こればかりはやってみないと分からないから、仕方ないところではある。馬は自分から「あと1本、強い追い切りで100%ちょうどになるよ」なんて言ってくれない。

相当仕上げが難しいのは伝わってくる。今回の収穫は、『ここまで仕上げると馬が音を上げる』という事実が分かったこと。これにより、どのラインまで仕上げていいのか、スタッフさんたちは分かったはず。

幸い携わっている人たちは腕利きばかり。福永に「まだGIを勝てていないのが信じられない」、川田に「何個もGIを勝つ馬」と言わせるほど持っている素質は高いから、馬の成長、そして調整が噛み合えば、来年のヴィクトリアマイルを楽勝しているのはリアアメリアの可能性がある。

冗談ではなくね。

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