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スプリンターズSを振り返る~短距離王者を沈めた台風と枠順抽選会~

枠順が決まってから、俺たちはコメントを取らないといけないんだよ。まー、陣営の表情は一喜一憂さ。

内枠向きの馬が外枠を引いたら、管理調教師は明らかにガッカリしている。揉まれたくない馬が内枠を引いたら、これまた管理調教師はガッカリしている。

かといって、各馬の希望通りの枠なんて手に入らない。最内が欲しいって言って、優先的に最内枠当たったらそれはもう公正競馬ではないだろう。枠によって展開も変わるし、つくづく競馬は運に左右される競技だと思うよ。


今回のスプリンターズSにおいて、マスクが注目していたのは『台風の金曜通過』だった。

予想にも書いたように、今開催の中山が台風の影響を受けるのは2度目。先々週の土曜、台風が関東の近くを通って大雨の中開催が行われた。

ところがこの2日後、月曜のセントライト記念当日はもう完全な良馬場で、通常より2秒速い時計が出る高速馬場に変貌していた。今の中山はそれだけ馬場がいい。

台風の通過が金曜日。スプリンターズSは2日後の日曜日。「セントライト記念のようになる」とTwitterに書いたのはこの計算があったからだ。


ここからは物理的な話。高速馬場で内ラチ沿いが走れる状態の場合、内と外、どちらを通ったほうが有利になるか。

考えるまでもない、だ。より速く走ることが求められている中で、ゲートがラチに対して垂直に置かれているのだから、外の馬は内の馬に対してより長い距離を走らせられる

実際スプリンターズSも、時計が速い年は内を通った馬が上位に入りやすい

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例えば2019年。1:07.1でタワーオブロンドンが勝った時。1着水色タワーオブロンドンは内から2頭分外を走っているが、2着青モズスーパーフレア、3着白ダノンスマッシュは内ラチ沿いを走っている。

1:07.1といえば、ここ10年で2番目に速いタイムだ。

台風通過から2日後のセントライト記念当日の馬場が標準より2秒速かったことを考えると、今回もこのレベルの時計が出てくる、そうマスクは読んでいた。

つまりタイム上は内有利になりやすい。あとは『内が使えるかどうか』、そこだけが問題だったんだ。内が使えるならひたすら内有利になる可能性が高くなる

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実際内有利になった。これは日曜9Rサフラン賞。白シゲルイワイザケに乗っていたのは馬場読みの達人、福永祐一。

7Rでも単勝133倍ナムラカミカゼが内目を突いて2着になったあたりで、昨夜のゲリラ豪雨を経ても相変わらずの内有利だとほぼ確信していたのだが、確信が自信に変わったのがこのサフラン賞

馬場の悪いところを通さない福永が、道中からラチ沿いを通り、直線でも外に出していない。福永は本番で内枠を引いたピクシーナイトに騎乗する。この時点で『似たような進路を選ぶのだろうな』という予測は容易に立てられた。


ここで1つ、問題が生まれる。今回のスプリンターズSは枠順抽選の結果、有力馬が外に多いのだ。ダノンスマッシュも、レシステンシアも、ジャンダルムも、モズスーパーフレアも外枠。

マスクとしては台風通過が金曜と判明した時点で内伸び想定だったから、枠を見て『これは難しい枠になった』というのが第一感だったんだよね。

実際に内有利馬場が出てきたことで、福永と同じく馬場を読んで乗ってくる川田騎乗のダノンスマッシュが、道中いかにして運ぶのか、一気に楽しみになってきた。

●スプリンターズS 出走馬
白 ①シヴァージ 吉田隼
桃 ②ミッキーブリランテ 和田竜
黒 ④ピクシーナイト 福永
水 ⑤ファストフォース 鮫島駿
赤 ⑥メイケイエール 池添
青 ⑦タイセイビジョン 三浦
紫 ⑧ビアンフェ 藤岡佑
黄 ⑨クリノガウディー 岩田康
緑 ⑫レシステンシア ルメール
橙 ⑭ダノンスマッシュ 川田
茶 ⑯モズスーパーフレア 松若

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スタート直後、ゲートが開いた瞬間。いきなり勝負を左右するシーンが見られたよ。

水ファストフォースを見てくれ。出る時にバランスを崩しているのが分かるだろう。

ファストフォースは今回、展開のカギを握る1頭だった。控えても競馬はできるが、2走前の小倉CBC賞で前半3F32.3の超ハイペースを作って逃げ切った。

ハイペース製造機のモズスーパーフレアが入った枠は大外。その内にファストフォース、そして前走函館スプリントSで前半3F32.8で逃げ切ったビアンフェがいる。今回も競り合えば、前半3F32秒台半ばが想定されていた

ところがその展開のカギとなるファストフォースが、バランスを崩して出負けしてしまったんだよ。

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横から見るとこんな感じ。水ファストフォースの鮫島克駿の赤帽が若干見えているが、他馬より遅いよね。

ビアンフェも五分には出たが、大外モズスーパーフレアはこの写真で見て分かるレベルでいいスタートを決めている。

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7秒地点だから、スタートして100mちょっとの部分がこれ。完全に茶モズスーパーフレアが抜け出しているのが分かるね。

紫ビアンフェも前半600m32秒台の脚で逃げられるんだけど、これはあくまで『前半600m』の数字。スタートからの100mはモズスーパーフレアのほうが速い。完全にモズが抜け出してしまった。

半馬身程度抜け出されたならまだしも、1馬身半以上モズが前。ここからビアンフェが押してハナに行こうとしたら完全にオーバーペースになる。ファストフォースはそもそも出負けして画面に映ってもいない。

よって大した競り合いもなく隊列が固まってしまったんだ。これがレースの方向性を決めてしまった。これに関しては後述する。

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ちょっと話を巻き戻して、スタート後。やはりこの問題は回顧する上で避けて通れないだろうね。

赤メイケイエールの動きさ。単なる気性難の引っかかりではなく、前を走っている馬を追い抜こうとしてしまう悪癖のある馬だ、ということは過去に何度も回顧で書いてきた。

今回引いた枠は内枠6番。前の馬を追いかけるメイケイエールにとっては最悪に近い枠だったし、池添もスタート後、赤矢印で示したように、内に行くか、外に行くか、進路を迷ったはずだ。

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これはメイケイエールの前走、キーンランドカップ。この時もメイケイは3枠を引いてきた。内枠が駄目なのによく内枠に当たる馬だな。

ちょうど桜花賞でやらかしてしまって、発走再審査を受け、合格した直後のレース。騎乗した武さんは並び的に外に出しにくかったのもあるが、内目で我慢を教えようとした

ところが画像を見てお分かりのように、再審査を経てもメイケイエールは何も変わらず、馬群の中で暴れている。結局危険性回避のために行かせて早め先頭に立つも、消耗は激しく最後止まってしまった

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たぶん初騎乗となった池添も内で我慢するか、外に出すかで迷ったと思う。

ただスタートが若干遅かったこともあって後方からとなり、キーンランドの時より外に出しやすい状況となった。そこで池添は安全面も考慮して外に出しに行った

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おかげで更に外にいた青タイセイビジョンと、その外にいるエイティーンガールが、より外に押し出されてしまう形になってしまった

もうこの時点でタイセイビジョンとエイティーンガール、もう少しいえばアウィルアウェイのスプリンターズSは終わっている

確かに、外に出したほうが安全だ。仮に内で我慢させようとしたとして、すでにこれだけ頭を上げて暴れている馬が、内で我慢できるとは到底思えない。そのまま内を走らせて事故が起きたらマズい

だからって、こうして外に出す時に他の出走馬を巻き込んでしまうのもマズい。タイセイビジョンやエイティーンガールのオーナーさん始め関係者の皆さん、そしてこれらの馬を買っているファンに、どう納得してもらえばいいのか。

メイケイエールはそういう馬なので納得してください」なんて説明するわけにはいかないだろう。今回のように不利を受けた関係者やファンが抗議の声を上げたとしても、現行ルールでは何か補償があるわけではなく、現実問題他の斜行と同じ扱いになるのだから何も変わらない。

そこに納得感はないよね。一競馬ファンとして、メイケイエールレベルの高い能力を持っている馬の復活は見たいが、現状、そして安全性を考えたらこの馬を競馬で走らせるべきではないと思う。復活よりまずは安全だ

タイセイビジョンも最初、メイケイエールとの距離を取っている。明らかにメイケイが自分のほうに寄ってくる可能性を考慮した動きさ。この時点で持っている能力を100出せないことは確定している。

そこまで読んで予想して買えばいいという話はあるのだが、そんなのはもう公正競馬ではない

難しいのは、『何を持って直ったと判断するか』だ。休養させて、外厩あたりでひたすら前に馬を置いて我慢を覚えさせたとする。その調教が10頭併せならまだしも、現実は2、3頭併せ。

調教再審査となれば現行、単走。今後ルールが変更されたとしても2、3頭立てまでだろう。『本当に直ったか分からない状態』で競馬場に戻ってくることになる。そんないつ爆発するか分からないものを、実戦の馬群の中に放り込むことはできないよね。

現状、厳しいと思うのだ。重要な判断を下すまでに残された時間はもうないと思う。

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メイケイエールが後方でやらかしている中、その前ではなかなかレベルが高いやり取りが展開されていた

緑レシステンシアの外から、茶モズスーパーフレアがハナに立とうとしている。このまま進めば、モズの内からレシステンシアがついていって先行する形になっただろう。

しかしここで、レシステンシアのルメールが乗り方に一工夫を持たせているんだよ。

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先に茶モズスーパーフレアを行かせるため、ルメールが緑レシステンシアを一気に内に誘導せず、モズを行かせるために待っているんだ。

仮にもっと積極的に内に入るとゴチャつく可能性がある。それを回避するため、モズを先に内に行かせ、スムーズに外から上がろうとしているんだ

これによって誰が困るって、橙ダノンスマッシュの川田さ。だって内有利なんだよ?なるべく早く内目に入ってロスなく溜めて直線を向きたいのに、レシステンシアが動かないものだから、そのまま外を走らされてしまっている

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茶モズスーパーフレアが内に寄って、完全にハナを取り切った。これで緑レシステンシアは前に誰もいなくなり、外からスムーズな競馬が可能となる。

橙ダノンスマッシュはもうこの時点で後手に回っている。14番という枠を引いた時点で川田は内に入れられる可能性は低いと見ていたはずだ。内に13頭いるわけだからね。

それにしても、最低限緑レシステンシアのポジションは欲しかったよね。内有利馬場で、同じく人気を背負うレシステンシアより外の枠はしんど過ぎる。

かといって下げて内に入れられるスペースもない。ダノンスマッシュのスプリンターズSは3コーナー前で終わったと言って過言ではないね。

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一方、その内を見ると、もう黒ピクシーナイトが勝っている。

ゴチャつきやすい内枠なのに、ファストフォースの出負けなどで内が密集せず、なんと3コーナー前にして、自身の前がガラ空きなのだ

これだけ楽な競馬になっている黒ピクシーナイトの後ろもいいポジション(なんでそうなるかは過去の他のレースの回顧を見ていれば分かるはずだ)。そこにいるのが白シヴァージだった。

桃ミッキーブリランテ和田はこのポジションが欲しかったんだよな。ところがレース前、Twitterでも指摘したように、気持ちが入り切っていなかった

短距離戦はテン、つまりスタートダッシュがみんな速い。ポジションを取るには自分から走る気持ちになっていないといけないわけで、今回のミッキーのように、パドックでスタッフさんに手綱を引っ張られてようやく歩くようでは駄目なのだ。

素晴らしいデキだった今年の阪急杯のパドックでは、スタッフさんと歩調があっている。今回は引っ張られてしまっているから、比較するとよく分かるはず。

裏話に「ジョッキーに今週乗ってもらったんだけど、どうも迫力面で物足りなさはあったみたい」と書いたが、浦和オーバルスプリントを除外となって間隔が延びたことで、馬の気持ちが切れかけてしまっていた可能性はあるね。

ミッキーブリランテはゲートも出負け。これでシヴァージがミッキーの前に入れたわけだ。シヴァージもここ最近出遅れが癖になっていたから、最内枠の最初入れだと出遅れる可能性が高いと思ったのだがね。隼人が上手いこと五分にゲートを出したことで、最高のポジションを手に入れることができたんだ。

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ちなみにこれが19年スプリンターズSのほぼ同地点。

昨年の同レースは外伸び馬場だったからちょっと参考にならない分2年前のものを出しているが、馬群の密集度合が違うだろう。

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3コーナー。相変わらず橙ダノンスマッシュ川田は後手に回ってしまっている。本当に緑レシステンシアのポジションが欲しかっただろうなあ。

ここで外から進出していくには、緑レシステンシアを外から交わさないといけない。ところがレシステンシアのルメールはちょっと外に張り出て、ダノンスマッシュをブロックする形になっている

当初の想定通り、モズやビアンフェあたりが競り合ってハイペースならまだ話は違ったと思うんだよ。ところが前半3Fは33.3

●スプリンターズS過去3年 前後半3F
18年 33.0-35.3 稍重 1:08.3
19年 32.8-34.3 良 1:07.1
20年 32.8-35.5 良 1:08.3

21年 33.3-33.81:07.1

遅過ぎるのだ。だいぶ前半部分に『大した競り合いもなく隊列が固まってしまったんだ。これがレースの方向性を決めてしまった』と書いたが、その結果がこのラップさ。

モズが楽にハナに行けてしまったことで、騎乗した松若が残しに行ったかスローに落としちゃったんだよ。前半3F32秒台も楽に出すモズスーパーフレアにとって、33.3はやや遅め

今日は何度か書いているように高速馬場さ。高速馬場で33.3通過はスローもいいとこ。みんな脚が溜まった状態でヨーイドンとなるから、レース上がり3Fは33.8。これはスプリンターズS史上、2番目に速いタイムだ

レース上がりタイムは先頭の馬を中心に算出される。つまりこの場合だとモズスーパーフレアの残り600m通過時から、ピクシーナイトのゴール時までのタイムだね。そのタイムが33.8とメチャクチャ速い。差し切るには32秒台の末脚が必要になる

お客様の中にデュランダル様はいらっしゃいますかという状態だ。全盛期のデュランダルでも、さすがにレース上がり3F33.8を差し切るのは難しかったのではないかな。この時点で、中団から後方、特に外を回った馬は終わる。ダノンスマッシュのスプリンターズSが確実に終わった。かわいそうに。

だって、仮に台風が昨日土曜に通過していたら、ここまで速い馬場にはなっていなかったかもしれないんだから。内有利は変わらなかったかもしれないが、レース上がり3F33秒台はないだろう。まだ、ダノンにも通用の余地があったかもしれない。レース上がり3F33.8はダノンを筆頭に、外枠を全部潰すラップだった。

これ、川田が悪いだろうか。まー、たぶん川田がダノンに乗ってまた飛ばしたなんていう根拠のないことが書かれているのだろうなと思ったら、実際その手の文言が書き込まれていた。

正直、今回は誰が乗っても無理だったと思う。物理的に無理なのだから仕方ない。

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3コーナーで外から赤メイケイエールが動いてきた。

11.7-10.6-11.0-11.1-11.3-11.4

この太字の部分だ。11.0自体はこのレースにしては普通。イン有利馬場で外を回って上がってきているから、この内容で4着は中身としてはいい(道中の行儀の悪さは置いておいて)。能力はあるだけに、もったいなさしかない。

上がり勝負になったのはメイケイエールにとってはいいよね。そして前走より格段に仕上がっていた分、馬の状態自体は良かったのだと思う。twitterでも触れたように、見た目からして前走とはまったく違う

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ただやっぱり、イン有利馬場という厳然たる事実があるのさ。赤メイケイエールが外を回る中、黒ピクシーナイトはインの3番手をスムーズに回れているし、白シヴァージはその後ろをスムーズについていっている。

まー、この時点でピクシーナイトとシヴァージは来るなと思った。イン有利の絶好位。ここから来ないとなると、モズスーパーフレアが転んで巻き込まれるか、急速に失速してモズに詰まるくらいのパターンしかない。

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これはピクシーナイトの前走、セントウルSの4コーナー。この日の中京芝は開幕週らしく内ラチ沿いが有利だった。

実際勝った青レシステンシア、3着橙クリノガウディーは内ラチ沿いを回っている。対して、桃ピクシーナイトは外を回っている。

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こちらが今回のスプリンターズSの4コーナー。内ラチ沿い有利の馬場で、黒ピクシーナイトはラチ沿いを走れている。

対して緑レシステンシア、黄クリノガウディーはラチ沿いに入れていない。ここでセントウルSとの逆転現象が起きてしまっているんだ。

仕方ないところだよな。クリノは9番、レシステンシアは12番。内に入りにくい馬場。最初から4番を引けているピクシーナイトとは明確に差がある

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直線。ここまでほぼノープレッシャーのまま内を回ってきた黒ピクシーナイトは、他馬と比べて手応えが違い過ぎる。ビアンフェが内を締めきれていないものだから、もう進路もガラ空き。これは負けない。

その後ろにくっついてきた白シヴァージは、このままだと茶モズスーパーフレアに詰まる。

ところが前述したように、今年のスプリンターズSは数字以上にスローペースなのだ。モズスーパーフレアにも余力がある。脚が残っている。

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その間に黒ピクシーナイトが伸びていることで、ピクシーの後ろをついてくるだけで進路が生まれる。茶モズスーパーフレアは垂れてこず、ピクシーが伸びるとなれば、もう詰まる要素がない

もちろんシヴァージの隼人も上手かった。ゲートを五分に出ていなければこんなポジションに入れなかったわけだからね。スタートをしっかり出て、有利なラチ沿いを手放さず、強い馬の真後ろで我慢して回ってきた。

シヴァージの実力もあるが、それ以上に今回は枠と展開に恵まれたと言っていい。恵まれ過ぎた部分もある。この着順だけで次人気になるのなら、条件次第で届かないなんてことは十分ありうる。


逆にレシステンシアは凄い。12番を引いてしまったことで内ラチ沿いに入れず、最後切れ味勝負になりながらしぶとく伸びて、思い切り馬場と展開が向いたシヴァージを抑えた。能力の高さ、そしてデキの良さがなせた業だろう。

一番パドックが良かったのは間違いなく今年の高松宮記念だ。たぶん2021年パドック最優秀賞だと思う。今回のパドックは高松宮記念と甲乙つけがたいレベルのデキだった。柔らかさ、踏み込み、どれをとっても高いレベルで、このデキの馬を見せてくれることを陣営に感謝しないといけないよね。

ただ「それだけのデキだった高松宮で2着だった」ことは最後まで引っかかっていた。高松宮は重馬場で走破時計も1分9秒。短距離GIらしいタイムかというと、そうでもない。

今回のスプリンターズは1分7秒台が予想されていた。果たして32秒半ばのハイペースGIに外から対応できるのか、レース前に心配していたんだよね。結果としてスローに近いペースになったわけだが、超ハイペースで時計の速いGIではなかった。来年のこのレースも有力だろうが、そうなった時が不安。

あと今回作り過ぎたんじゃないかな。だいぶシャープに作っていたし、これは次戦仕上げるのが大変そう。マイルを使ってきたら余計に下げたくなったね。

3着シヴァージ、4着メイケイエールはもう触れた。5着モズスーパーフレアは、正直自滅ではないかという気がしてならない。

確かに前半抑え気味に走れたことで脚が残ったのは事実。「やはりスピードは抜けている。手応えはあったし、これならと思ったが。最後までよく頑張っている」と話しているように、手応えも残っていた。

ただ後続の馬に上がり3F33.4の脚を使われているのも事実だ。モズは切れるタイプではなく、形としてはキレ負けに近い

モズの良さは豊富なスピードで飛ばして持続力勝負に持ち込み粘る形。年齢を重ねて競馬が上手くなったから少し溜めた逃げができるようになったのだろうが、その分怖さは減った。

引退も近いだろうし、この先1200の重賞が少ないことを考えると、もう買う機会は来春、内有利馬場になった時の高松宮記念くらいかな。単はたぶん買わないと思う。


6着ダノンスマッシュはレース後、川田が「とても良い雰囲気で競馬に向かえ、レースも理想的に進められました。動かないといけないところで、動くことができませんでした。この結果を反省して次に繋げていきたいです」と話している。

理想的なレースと言いながら、「動かないといけないところで動くことができない」と言っているように、本人の理想からは程遠いレースだっただろう。少なくとも、レシステンシアより内枠に入りたかった

枠順は難しい。冒頭に書いたように希望通りにはいかない。スタッフさんもレース前に「もっと内枠が欲しかった」と言っていたように、最大の敗因は枠。枠順一つで香港スプリントを勝った名スプリンターが簡単に負けるのが競馬の難しさであり、競馬の面白さであると思う

川田が「とても良い雰囲気で競馬に向かえた」と話しているように、デキは本当に良かった。パドックも言うことなし。返し馬の走りも言うことなし。何一つ文句なく、よく休み明けでこの状況まで持ってこれるなと感動したほど。

内枠有利、内有利は戦前から予想できただけに、この素晴らしい状態のダノンスマッシュが外枠からどういう競馬をするのか、非常に楽しみにしていたのだがね。スローとルメールの影響で完全に後手に回ってしまった。

不完全燃焼、まさにこの言葉がピタリとあてはまる。条件が変われば違うと思うよ。


8着クリノガウディーや11着ジャンダルムも道中外を回されている。この時点で厳しい。

ただそれ以前に、クリノガウディーは右回りだと余計に慎重に乗らないといけないから攻めた騎乗ができないし、ジャンダルムはゲートは出たものの、ブリンカーを外した影響か行きっぷりがイマイチだった。たぶん外枠以前の問題。

12着タイセイビジョンに至っては、(三浦)コーセイが「向こう正面の不利が痛かったですね。無事でよかったと思うぐらいでした」と話しているように、もうレースになっていない。今後、タイセイビジョンを増やさないためにもメイケイエールの処遇はよく検討されるべきだと思うよ。


さて、最後になるが勝ち馬ピクシーナイトの話をして、今回の回顧を終わろうと思う。

確かに、内枠を引けたのがまず一番大きかった。外から削られると引っかかるだけに、例年のスプリンターズSより内が密集しなかったことも良かった。もう3コーナーで『勝てる隊列』だった。

ではラッキーだったか、枠順に恵まれただけかというとそれはない。恵まれて4コーナー3番手から上がり3F33.4を使って、1:07.1で走破できないからね。

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実は昨年秋、新馬を勝って秋明菊賞で3着に負けた時に、租界にいたピクシーナイト出資者の方から質問をもらってね。凄くいい馬と褒めたんだ。

もう経験則からある程度走る馬はレース見れば分かるのだけど、大柄で緩い体をまだ使い切れていないのに、追い出されると体が沈んでフォームが変わっていた。これは重賞勝てるなという意味合いでだいぶ褒めたんだけど、GIを勝ってしまった。後々のためにもっと褒めれば良かったな。

それくらいいい馬だったのだけど、やはり目についたのは体の緩さ。大柄で成長途上。持っているエンジンに、シャーシ(体)が追い付いていないのは明らかだった。だから「良くなるのは4歳から」と書いている。

3歳秋にスプリンターズSを勝つとはなあ。

レース後福永が「こんなに早くこの1200mGIの舞台でああいう横綱相撲の競馬を取れるようになるとは、こちらの想像を超えた走りをしてくれたと思います」と話していたのだが、気持ちはよく分かる。明らかに想像を超えている

パドックも良かった。良かったけど、まだ緩い。まだまだ成長するし、本格化が4歳以降であるという考えも変わっていない。福永が「まだまだ前と後ろの体のバランスは取れていない状態」と話しているように、見た目のバランスもあと一歩なんだよね。

完成していない段階、正直完成度8割行かないくらいでこの勝ち方。更に伸びるよ、この馬。それこそあと2つは大きなタイトルを取れると思う。

そこから先はもう脚元次第だと思うね。なにせ大柄で、脚のつき方などもちょっと怖い。スタッフさんも相当慎重にやっているはずだ。いずれどこかのタイミングで故障しても驚けない。もちろん故障しないのが一番だが、いずれ故障すると思う。そのタイミングがいつになるかで、タイトルの獲得数が変わってくるのではないかな。

今俺は完成度を7割強とみているが、成長力豊富な血統だけに、実はまだ完成度が6割くらいなのかもしれない。こっちの見積もりより低い可能性がある。

楽しみだよ、こういう夢を見せてくれる馬は。なんとか無事に競走生活を送ってくれることを願うばかりだ。

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