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天皇賞春を振り返る~サバイバルレースの命運を決めた木曜日~

天皇賞春の振り返りだ。

今年の天皇賞は阪神開催。しかも外回り→内回り。阪神内回りはロングスパートを求めてくるから、京都とは違うレースになるであろうことが戦前から言われていた。

●20年天皇賞春 京都芝3200m
13.2-12.4-12.4-12.5-12.5-12.0-11.6-12.5-12.1-12.2-12.7-12.5-11.9-11.9-11.9-12.2

●21年天皇賞春 阪神芝3200m
12.8-11.3-11.7-11.9-12.1-11.9-11.8-12.1-13.1-12.6-12.1-12.0-11.9-12.1-12.3-13.0

フタを開けてみたら、本当に違うレースだった。1F12.0以内が、20年の京都開催だと5区間。対して今年の阪神開催だと7区間。

京都だとスタートから上り坂になる分ペースが緩む。対して阪神開催の今年は最初からフルスロットル。まさに削り合いだ。

もちろんディアスティマがいたこともあるが、今までとはまるで違うレースになったことで、ある意味新鮮な気持ちでレースを楽しめた。

例年京都開催の天皇賞春も枠順が重要になる。京都開催2週目の3200mだからね。まだ芝の内側がかなりいい状態だから、内を通れる利は大きい。ところが今年は阪神。状況がこれまでとは大きく異なる。

今年の天皇賞春のポイントは大きく2つあったと思う。①12週目の馬場であること、②阪神3200mであること。

まずは①の馬場。京都改修の影響で阪神開催。いつもより早く始まった1回開催から数えて、今回は12週目。12週目にして未だに時計が速いように、今の阪神芝は相当硬い

それでいて12週使っているから、馬場は荒れている。硬い馬場はできても、荒れた馬場ができないという馬にはしんどい条件だったはずだ。

荒れた馬場の中で、どこを通ればいいか、たぶん馬場読みが上手いと呼ばれるジョッキーも迷うところだったのではないかな。

日曜の阪神芝はやけに逃げが決まっていた。

●日曜の阪神芝の勝ち馬
・4R
③サツキハピネス 6-6-6-5
⑦レシャバール 3-3-3-2

・5R
⑦スンリ 1-1

・8R蓬莱峡特別
①レッドフラヴィア 1-2

・9R山陽特別
②キュールエサクラ 1-1

逃げ馬がこれだけ勝っているのだから、当然内は走れる。逃げがよく決まることから、租界でも『内伸び馬場』という話になっていた。確かにそう思いたくなる気持ちは分かるが、マスクの感覚はちょっと違った。

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これは5R。黄スンリが逃げ切ったのだが、白メイショウツワブキは馬場の中ほどから伸びて2着。3着ウインアキレウスは外枠から外を回って、直線も外目を伸びていた。

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白レッドフラヴィアは逃げ切ったものの、5R同様、2、3着は決してラチ沿いを使ってはいない。黒エレヴァテッツァは馬場の真ん中から2着、橙ラヴユーライヴは外外を回って3着。

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象徴的だったのはこの9R山陽特別。道中ラチ沿いにいた馬が1~4着だったのだが、黒キュールエサクラが1着、赤ゴールドティアが2着の中、白プレシオーソは外から差して3着。

緑チュウワノキセキは詰まっていなければ3着だった可能性があるが、5R、8Rの直線の伸び、そして9Rでプレシオーソが外から伸びている以上、道中は内有利直線はフラットの馬場過剰な内ラチ沿い有利はないと判断できる。福永、川田ら馬場を読む騎手も内にこだわる様子は見せていなかった。


この馬場前提を頭に入れて、今度は騎手心理に目を向けよう。

阪神3200m(外回り→内回り)に騎乗したことがある天皇賞騎乗ジョッキーは、わずかに5人。せっかく模擬レースとして松籟Sをやった割に、意外と経験者が少なかった。

●天皇賞春の上位人気と松籟S
①ワールドプレミア 福永→松籟S9着
②アリストテレス ルメール→騎乗なし
③カレンブーケドール 戸崎→騎乗なし
⑫ディープボンド 和田→松籟S2着

松籟Sで福永が騎乗したのはフライライクバード。単勝1.9倍の断然人気に推されたものの、9着に大敗している。

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これは松籟Sの道中。橙フライライクバードは外目を走っていた。距離が長かったか、道中掛かり気味に追走していたんだ。

●21年松籟S
1着桃ディアスティマ
2着赤タイセイモナーク(和田)
3着黄シルヴァーソニック
4着白ニイ

9着橙フライライクバード(福永)

予想にも書いたが、松籟Sは上位馬4頭が全て道中ラチ沿いを走っていた。実際にこのレースに騎乗した福永と和田は、『阪神芝3200mで道中内にいるメリットの大きさ』をこのレースで体感したと思う。

もちろん長距離は基本的に内有利になりやすい。折り合いをつけないといけないからね。距離が長いから枠は関係ないという意見を見かけたりするが、枠の関係ないレースは存在しないのだ。

●天皇賞春の上位人気の枠順
①ワールドプレミア 福永
②アリストテレス ルメール
③カレンブーケドール 戸崎
⑥ディアスティマ 坂井
⑦ユーキャンスマイル 藤岡佑
⑫ディープボンド 和田
⑰オーソリティ 川田

枠順抽選の結果を見て、福永はガッツポーズしたのではないかな。松籟Sで、あれだけの内有利を自身が負けて体感しているからね。極端に内が荒れなければ、最内は強力なメリットになると感じていたと思う。

対して12番を引いた和田はそう喜べない状況だったのではないかな。ディープボンド自体は跳びが大きいから、狭いところを走るより外目を回したいタイプ。

そういう意味では外枠はプラスなのだが、和田は松籟Sでタイセイモナークに騎乗し、内有利の恩恵を受けている。内有利条件で12番、そこまで喜べない状況だったと思うな。

何より福永が喜んだのは、隣にアリストテレスがいたこと。よくこの回顧で触れているように、強い馬、上手い人の後ろはレースがしやすい。最内は詰まるリスクもあるが、ルメールや、カレンブーケドール戸崎の後ろならそのリスクが減る。いい並びだと感じたのは間違いないはずだ。

●天皇賞春 出走馬
白 ワールドプレミア 福永
水 アリストテレス ルメール
黒 カレンブーケドール 戸崎
灰 シロニイ 松若
赤 ディアスティマ 坂井
青 ユーキャンスマイル 藤岡佑
黄 ジャコマル
緑 ディープボンド 和田
橙 ウインマリリン 横山武
桃 オーソリティ 川田

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福永が何より気を付けたのはゲートだろう。ワールドプレミアはたまにゲートでやらかす馬。当代随一のスタート巧者である福永であっても、今回はテン乗り。武さんからゲートの中の挙動について説明は受けていただろうが、細心の注意を払ったはずだ。

最内枠のメリットは、ゲートを五分に出れば隣がラチ沿いであることだろう。自分から動かなくてもラチ沿いにいれる。逆にデメリットは、最初入れであること。ゲートの中で待たされるリスクを伴う。

いくら内枠有利コースとはいえ、ゲートを五分に出なければその恩恵を受けることはできない。まずはゲートを出すことに全集中常中していたはずだ。

実際ワールドプレミアはゲートを失敗している。福永もレース後、「うまくスタートを切ることが出来なかった」と話していて、画像では伝えにくいが、両脚が揃いながら出てしまったことでバランスを崩している。大失敗ではないものの、そこまでいいゲートではない。

ただ動画で見ると、福永がうまくバランスを取って、体勢を修正していることが分かる。上手い。このボディバランスは唸らされる。

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なんとかゲートを出た福永に幸運の女神が舞い降りる

赤ディアスティマがハナを切ろうと内を絞ってきたんだ。それなりに厳しい絞り方をしてきたことで、ディアスティマの内4頭のスペースが狭まってしまった。

このままディアスティマがラチ沿いに切り込むと、灰シロニイから内はおしくらまんじゅう状態となり、ラチ沿いにいる白ワールドプレミアは不利を受け、躓いた可能性がある。

ワールドプレミアだけでなく、内の馬みんなに不利を受けた可能性があり、序盤のターニングポイントと言ってもいいシーンだったんだよ。

しかしシロニイが頑張った。赤ディアスティマに抵抗して、ポジションを死守しようとしたんだ。おかげでその内にいるワールドプレミア、水アリストテレス、黒カレンブーケドールのスペースが消えなかった。シロニイの抵抗により内枠の平和が保たれたのである。

ありがとうシロニイ。君のおかげで当たったようなものだ。

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正義の味方シロニイによって守られた内枠の平和により、赤ディアスティマの後ろに黒カレンブーケドール、水アリストテレス、白ワールドプレミアというラインができた。

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これが先ほど取り上げた、2月末の松籟S。ディアスティマの後ろにいた馬たちが2~4着になったわけだが、似たような状況となったわけ。

スタートからわずか100mほどで、ワールドプレミア、アリストテレス、カレンブーケドールにとっては有利条件となった

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ただこの時、正面から見ると水アリストテレスと白ワールドプレミアの差がそうないように見えて、サイドから見ると福永はそこまで前との距離を詰めていなかった

●21年天皇賞春のラップ
12.8-11.3-11.7-11.9-12.1-11.9-11.8-12.1-13.1-12.6-12.1-12.0-11.9-12.1-12.3-13.0

3コーナーまでの前半600mが35.8。この区間は上り坂も入っているのに、序盤からペースが流れていたんだよ。ワールドプレミアはこれまでのレースを見ていても、前半押してはいけないタイプの馬。まずは前と距離が出来ても、リズムを守って脚を溜めることに専念したわけだ。

このアリストテレスとの間隔が絶妙。一見1頭分入れそうなくらいスペースは開いているが、このくらいのスペースだと外の馬は入ってこられない。危ないからね。

福永はそれを分かっていて、ギリギリで距離間隔を保っている。変な馬に前に入られず、アリストテレスの後ろをキープできる。地味だが、非常に上手いシーンの一つと言っていいだろう。

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困っていたのは緑ディープボンド和田だ。前述したように、和田は松籟Sで内枠の恩恵を受けている。決してディープボンドは内枠向きではないとはいえ、一周目直線に入っても内に入れていない

灰シロニイにポジションを奪われているのだ。黄ジャコマルの後ろ、黒カレンブーケドールの隣であればまだ、話は変わったかもしれない。松若がシロニイで積極的な競馬をした結果、ディープボンドが困る展開が生まれていた。

タラレバになるが、最後、ディープボンドとワールドプレミアの着差は4分の3馬身。これだけ内有利の条件であることを考えると、もう1頭分ディープボンドが内を回れていたら、着差はもっと詰まって、逆転があった…かもしれない。そういう意味では、シロニイのレース結果に与えた影響は大きい。

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困ったのはディープボンドだけではない。

赤ディアスティマが、黄ジャコマルに、地味にプレッシャーを掛けられているのだ。

・21年松籟S
12.9-11.1-11.1-11.9-12.4-12.4-12.3-12.5-13.5-13.0-11.9-11.9-11.9-12.0-11.5-12.6

・21年天皇賞春
12.8-11.3-11.7-11.9-12.1-11.9-11.8-12.1-13.1-12.6-12.1-12.0-11.9-12.1-12.3-13.0

どちらもディアスティマが逃げたレース。松籟Sはスタートがそう速くなく、3コーナーで一気にハナを奪いに行ったから、前半3Fだけなら松籟Sのほうが速い

ディアスティマとしては、松籟Sのように、ハナを切ったら中盤のペースを緩め、早めのスパートで後続を封じたいところだったはずだ。2番手タイセイモナークが真後ろにいたから、単騎でペースを作れた。

ところが今回はジャコマルが外からプレッシャーをかけてきている。おかげで中盤、息を入れるところが一切なかったのだ。

400m地点から1600m地点、つまり1周目3コーナーから2周目2コーナーまで、全て1F12.0前後。かわいそうなくらい、断続的に速いラップが続いてしまった。

まー、こればかりは逃げ馬の宿命とも言える。松籟Sのようなペースが刻めていたら、ディアスティマはワンチャン勝っていたかもしれない。しかしジャコマルがそれを許してくれなかった。これが準オープンとGIの違いなのだろう。

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断続的に中盤が速かったことで、後ろも影響を受けてしまった。正面から見ても馬群が縦長であることが分かる。

これがスローならば、中団にいた馬がまくってこれるのだが、ペースが速くて誰もまくれず、縦長のままレースが進んでしまったんだ。後ろの馬が脚を使って前を捉えにいけなかった分、前の馬たちにポジションのアドバンテージが生まれてしまっている

中盤厳しいラップなのに、後ろの馬たちが上位に来れなかったのはこれが原因。青ユーキャンスマイルはすでに絶望的な位置だし、桃オーソリティもかなり苦しい。内枠の差し馬がポジションを取れたのに対し、まるで対照的。

本当はオーソリティも、前走ダイヤモンドSのように3番手くらいから運びたかったんだろう。ただダイヤモンドは内枠。今回は大外。先行するにはやや無理して出していかないといけない。

返し馬のオーソリティはピリピリしていて、少しの弾みでテンションが爆発するのでは?という状況だった。こんな状況で押して先行したら自爆する。大外枠はマイナスだったし、そもそも馬の気性がもっと成長しなければ、レースの幅が出ない。本質的には2400m以下のほうが乗りやすい気がするね。

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これは2周目2コーナーから向正面に掛けて。1周目直線のあたりから内を開けて回っていた白ワールドプレミアが、ここで完全に外に出す。水アリストテレスについていった動きだ。

ワールドプレミア福永、アリストテレスルメールが共に内ラチ沿いを捨てた理由は2つある。まずはペースが速かったこと。

●21年天皇賞春
12.8-11.3-11.7-11.9-12.1-11.9-11.8-12.1-13.1-12.6-12.1-12.0-11.9-12.1-12.3-13.0

前半から断続的にペースが流れていたことで、ジョッキーたちの頭には間違いなく『ハイペース』という要素が浮かんでいたはずだ。

前にはまだ黄ジャコマル、灰シロニイがいる。この2頭が粘る可能性は否定しないが、かなりの確率で下がってくることが予想される。この2頭が壁になりたくない。だからこそ、ルメールも福永も、どこかのタイミングで外に出すことは決めていたのではないか。

序盤に書いたように、馬場は道中は内有利直線はフラット過剰な内ラチ沿い有利はないから、中盤から後半にかけて外に出しても問題はない。

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加えて、福永がレース後「ウインマリリンが向正面で少し進出してきたので、ある程度ポジションを確保しておかないと動きたい時に動けなくなるだろうと思った」と語っているように、橙ウインマリリンが2コーナー前から外を進出してきた。

内枠からせっかくスムーズに運んでいたのに、ウインマリリンに締められてしまって、前から下がってくる黄ジャコマルや灰シロニイたちに詰まっては意味がない。だからこそ、ワールドプレミアを早めに動かしてポジションを取りに行ったわけだ。

まー、賭けだよね。ここまでハイペース。すでにサバイバル戦になっている中、早めに動くのはリスクを伴う。止まったら早仕掛けに分類されてしまうだろう。

しかも福永はワールドプレミアにテン乗り。話は色々聞いていても、実際テン乗りだから、どれだけ脚が使えるか分からない。その状況でよく思い切ったなと思う。ここで動かなかったらウインマリリンに締められた可能性があるし、攻めの騎乗に徹したことが活路を作ったと言っていいだろう。

逆に言うと、ウインマリリンの武史の強気な騎乗も光る。外枠は不運だった。日経賞は内枠からインを立ち回れたのに、今回は外枠。

条件が苦しい中で早めに動き、最後は5着まで粘っているのだから立派。中山の中長距離で内枠を引けばもっと楽しめるね。今回のウインマリリンは相当強い競馬をしている

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ここで気になるのは、ワールドプレミアの前にいた水アリストテレスが、緑ディープボンドの後ろにいる点だ。

わざわざディープボンドの後ろで脚を溜めていたのは、アリストテレスが距離不安を抱えていたからではと思う。

菊花賞で2着に入っていて3000mをこなすことは分かっていても、前走思い切り掛かったように、テンション面は中距離向き。距離を持たせるためにはどこかで『溜め』を作らなければいけない。

しかもハイペース。気にしなければいけないのは、垂れてくる前より、差してくる後ろ。スタミナ比べになると分が悪いことを考え、ディープボンドの外から動きにいかなかった。いや、いけなかった。

Twitterで馬主の都合からアリストテレスがワールドプレミアを勝たせたというご意見を頂戴したが、ワールドプレミアを勝たせるなら、アリストテレスは逆に動いてディープボンドを潰しに行き、ワールドプレミアの進路を作る

ここでアリストテレスが動かなかったことで、ワールドプレミアは更に1頭分外を回されているわけだから、その論理は成立しない。とまあ、ここまで書いても、宗教と一緒で、信じちゃってる人間は何を見ても意見は変わらないだろうがね。

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2周目3コーナー。耐えられず、灰シロニイと黄ジャコマルが下がっていく。シロニイ、よく頑張ったよ

たぶんアリストテレスとワールドプレミアはずっと内にいたら、この2頭を捌けていなかったかもしれない。道中内有利でも、早めに内を捨てた2頭の判断は正しかったと言える。

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4コーナー。ここで黒カレンブーケドールが満を持して動く。道中ずっとインの3番手で脚を溜め、完璧な立ち回りを見せていた。ディアスティマの手応えが悪くなっていただけに、4コーナーにかけて外に出すのは当然。

早めに先頭に立つと遊んでしまうタイプで、しかも目標になる。カレンブーケドール的には、ディアスティマになるべく最後まで頑張ってもらいたかったところだと思う。目標になるからね。

ところがその目標は、ジャコマルのプレッシャーにより4コーナーで失速寸前。早め先頭は致し方ないところだ。競馬において、展開の重要性をよく示す例だと思う。結局カレンブーケドール自身が目標になってしまった

外を見ると、水アリストテレスが外に張って、白ワールドプレミアの締めに抵抗している。これを見ると、アリストテレスがワールドプレミアを勝たせようとしているという意見がいかに謎かが分かるね。

橙ウインマリリンに至っては更に外。内枠ではなかったのがつくづくもったいない。これもまた運。もしかしたら外枠有利の馬場になっていたかもしれないわけだし、競馬はこのような運の積み重ねの上に成立する

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直線。緑ディープボンドの和田は、たぶん手応え、勢い的に勝ったと一瞬思ったのではないかな。後ろをまったく気にしていない。自身はなんとか最後まで持つ感触だったんだろう。

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ところが後ろから来た白ワールドプレミアに交わされてしまう。しかも前に出られてしまった。

緑ディープボンド和田は右ムチを叩いてワールドプレミアに寄せにいっているが、時すでに遅し。外枠スタートで、道中ハイペースをずっと外を回りながら追走していたディープボンドに、そこから差し返すだけの余力はない

ディープボンド自体が合っていたかは微妙とはいえ、やはり外枠が響いたとしか言いようがない和田は与えられた条件下でほぼ完璧に立ち回れたと思うが、もっと内枠ならシロニイにポジションを取られていないし、そもそもカレンブーケドールのポジションにいたかもしれない。

タラレバになってしまうからあまり深掘りできない話なのだが、GIを勝つには実力に加えて運も重要であることが分かるシーンだったとも言える。この手のペースに強いのは間違いないことから、今後は2500以下の持続戦への対応が可能かどうかだろう。道悪の宝塚記念なら買いたい。

勝ったワールドプレミアは福永の好判断。ゲートの立て直し、内の立ち回り共に完璧だった。昔はそれこそ安全運転、公務員騎乗なんて言われたりしたが、その時の福永とは完全に別人。今の福永は日本を代表するジョッキーの一人だ

馬場読みも見事だった。一見内有利と見せて、直線はフラットだということを分かっている動き。内にこだわらなかったことで勝機を見出していた点も見逃せない。

ただ鞍上のおかげで勝ったわけではなく、ウインマリリンが外から来た瞬間に動いて、やや早仕掛け気味ながら最後まで脚を持たせたのだから、馬自身の実力もあってこその優勝とも言っていいだろう。

もちろん内枠だったのは大きかった。外枠だったらこのような立ち回りはほぼ不可能だっただろう。内枠を引き当てたあたり、GIは実力に加えて運という前述の話が当てはまる。

しかも隣にいたのがルメール騎乗のアリストテレスで、その隣に先行するカレンブーケドール、近くにディアスティマがいることで、いかにもいい隊列になりそうな枠の並びだった。枠順を見た瞬間に、いい並びだと感じたほど。

ディープの割に持続戦に強い面は宝塚記念でプラスに働きそう。逆に言えば天皇賞秋は疑問。ジャパンCはペース、枠次第と言ったところだね。

一つ書いておきたいのは、断じて○○が勝たせたわけではないこと。恵まれて勝てるほど甘いラップ、展開ではない。そもそも馬は関係ない。

カレンブーケドールは完璧な立ち回りでの3着。ペースを考えると前受けからよく粘っている。逆に言えば、これでも勝てないとなると難しいね。立ち回りは上手いのだが、ディアスティマのような目標がいたほうが良かったり、色々な意味で乗り難しい。

ラスト完全に止まっているように、さすがに3200mは長かった。2000m~2500mで、立ち回りの良さを生かせるイン有利馬場で、内枠、なおかつディアスティマより強い逃げ馬がいたほうがいい。そんな条件が都合良く揃うのは果たしていつになるのか。

4着アリストテレスは前走を反省して作った分、パドックから返し馬まで落ち着いていた。このテンションで、ほぼ完璧な立ち回りを考えると、最後はもう距離だろう。ルメール本人が「2400mくらいがいい」という気持ちが分かる。エンジンを噴かせるまでに時間が掛かるから、中京2200mあたりがちょうど良さそう。下り坂の加速補助がある京都開催がない点が辛い。

5着ウインマリリンはすでに書いたから割愛。6着ディアスティマは松籟Sよりハードなラップになってしまいながら、よく6着まで粘った。広めのコースで持続ラップを作らせたら重賞の2、3つは勝てるだろう。

ただ、今日ジャコマルに絡まれたように、これがGI。GIは簡単に前を逃がしてくれない。ゲートがたまに遅れ気味になるなど、テンの出し方が難しい現状、弱点も多いだけに、来年の天皇賞春までどれだけ課題を解決できるかによる。今日は北村友一がそのまま乗ったとしても、最後は止まっていたと思う

7着ユーキャンスマイルにとって今日はテンが速過ぎた。阪神開催の天皇賞は良かったと思う。このペースで流れて前が止まらないのでは、この馬にはもうやりようがない。自分で競馬を作れないのが痛い。

ただ昨年の秋に比べたら今のほうが圧倒的にデキがいいのは、パドックから伝わってきた。左回りの中長距離ならまだ外せない。目黒記念だとハンデが重いんだよな…

9着ナムラドノヴァン、10着オーソリティ、13着オセアグレイトは、今日の馬場、展開ではどうやっても来ない。これはもう物理的に無理だからノーカウントでもいい。

オーソリティは先ほど書いたから省略するとして、ナムラドノヴァンは長距離重賞を勝てるところまで来ている。道中気を抜く面が直れば重賞ウィナーも夢ではない。

最後に11着メロディーレーンを取り上げる。もはや普通の感覚でレースを見てしまっているが、342kgの準オープンクラスの牝馬が、牡馬相手のGIで、雨上がりの中、56kgを背負って最後伸びているだけで常識を超越している

やはりハンデで斤量が軽くなったほうが動けるね。今年一番楽しみなのは夏の北海道、札幌最終週の丹頂Sだろう。最終週のハンデ2600m。準オープンのまま出れば、斤量は51kgか52kg。間違いなく持久力が問われるから、合うイメージしかない。

思えば母メーヴェも現役時代、50kgで丹頂Sを勝っている。丹頂S母娘制覇なんて、夢があっていいんじゃないだろうか。


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