23年宝塚記念を振り返る~20秒で変わった不利なポジションとベストポジション~
過去10年のデータって普段見るだろうか?
見てないって人間は、たまには見てみるといい。え、これが10年前なのか?っていう感覚に襲われるから。自分が歳を取ったのがよく分かるからオススメだよ。
今回宝塚記念の過去10年の結果を見た時に、最初に感じたのは『オルフェーヴルがいない』ことだった。
そうか、よく考えたらオルフェーヴルが勝ったのは2012年なんだな。過去10年だと2013年から記載されているから、オルフェーヴルの名前が消えてしまうのだ。もうそんな前かと思ったものだよ。
代わりに、過去10年の好走馬一覧の一番上にやってきたのが2013年の宝塚記念さ。覚えている人間も多いんじゃないかな、ゴールドシップが4歳時、初めて勝った宝塚記念さ。
☆2013年宝塚記念
1着ゴールドシップ 2番人気
2着ダノンバラード 5番人気
3着ジェンティルドンナ 1番人気
この年の1番人気に推されたのはゴールドシップではない。前年に牝馬三冠を制してジャパンCも勝っていたジェンティルドンナが1番人気だった。
しかしそんなジェンティルが、言い方は悪いが『GIを勝っていないダノンバラードに負けた』のだ。
宝塚記念というのは往々にしてこういう現象が起きる。予想でも触れたブエナビスタがアーネストリーに負けた回もそう。独特なレースになる分、以前から『宝塚記念しか勝ったことがないGI馬』が過去に何頭も存在する。
原因は梅雨時で雨が降りやすく、力のいる馬場になりやすいことがまず挙げられるな。加えて、『ペースの問題』もある。
☆13年宝塚記念のラップ
12.7-11.0-11.0-11.9-11.9-12.0-12.3-12.4-12.7-12.7-12.6
お分かりだろうか。序盤から1F12.0以内の、まるで緩まないペースが続いている。
こちらも予想で触れたが、阪神の2200mというコースは、スタート後一度上り坂を上れば、最後の直線まで平坦部分と下り坂部分しかない。簡単に緩まないことが多いのだ。
だからこそ2013年のような、『断続的に流れる宝塚』が定期的に起こりやすい。東京で行われる2400mGIで、このようなラップ質となることはほとんどない。
そのためジェンティルドンナのような馬があっさり負けてしまい、適性のあるダノンバラードのような馬が先着する、という原理だ。
では今年はどうか。メンバーを見渡しても、逃げたいのはユニコーンライオンくらい。例年よりスローペースになりそうなメンバー構成だった。
しかも梅雨時なのに土日は雨がない。『例年とは少々異なる状況』が生まれていたんだよね。
いつもと違う条件下で、前走ドバイシーマクラシックで逃げていた断然人気イクイノックスがどのような動きを見せるのか、それが今年の宝塚における、マスクの注目ポイントだった。
スローペースになりそうなメンバー構成で、実際のところどんなペースだったかというと、これがメンバーの割にペースが流れたんだよな。
☆23年宝塚記念
12.4-10.5-11.1-12.6-12.3-12.4-12.5-11.9-11.7-12.0-11.8
前半600m 34.0 2位
前半1000m 58.9 3位
右の順位は、過去10年と比べた時の速い順。前半600mは22年に続いて2番目に速く、前半1000mは22年、13年に次いで3番目に速かった。
☆13年宝塚記念 2:13.2
12.7-11.0-11.0-11.9-11.9-12.0-12.3-12.4-12.7-12.7-12.6
☆22年宝塚記念 2:09.7
12.5-10.4-11.0-12.1-11.6-12.1-11.9-11.8-11.9-12.0-12.4
☆23年宝塚記念 2:11.2
12.4-10.5-11.1-12.6-12.3-12.4-12.5-11.9-11.7-12.0-11.8
太字にした部分は1F12.0以内だったところ。過去10年、速かった年の宝塚と比べると、まだ中盤少し緩んではいる。
まー、12.3-12.4だからこれを緩んだと言っていいのかは疑問だがね。それでいて過去の2回と比べて、最後まで12.0以内が続いている。
先行馬からすれば、好走するには『ずっと1F12.0以内を出さないといけない』わけで、これはもう無理な話だから差し競馬になる。ここまでが今年の宝塚の原理だ。
ここで思い返してほしい。
マスクは先ほど、『メンバーを見渡しても、逃げたいのはユニコーンライオンくらい。例年よりスローペースになりそうなメンバー構成だった』と書いている。
改めて新聞を見ても、是が非でも行きたいのはユニコーンライオンくらいさ。それがどうしてこうなったかって、ジョッキーの意識が根底にあると思うんだ。
鍵となったのは、同日7R、宝塚記念と同じ2200mの1勝クラスだったと思う。
☆日曜阪神7R 2200m 1勝クラス 2:12.7
12.4-11.2-11.1-11.8-11.7-11.8-12.4-12.4-12.3-12.7-12.9
前半600m 34.7
前半1000m 58.2
1着プリマヴィータ 1-1-1-1
2着ジューンアオニヨシ 4-6-5-4
3着サトノクローク 3-3-5-4
600m通過は今年の宝塚より0.7秒遅いが、中盤速かったことで、1000m通過は今年の宝塚より逆に0.7秒速い。
このハイペースを作ったのは黄プリマヴィータに騎乗したルーキーの河原田菜々ちゃんだった。
前半から飛ばしまくると、ラスト600m12.3-12.7-12.9でまとめて逃げ切ってしまった。12.7-12.9だから最後は甘くなっているが、決して止まりきってはいない。
プリマヴィータは10番人気。メンバー中最低人気の馬に乗った女の子は、2番手以下のジョッキーにとって完全にノーマークで、差を詰めないといけないところでも詰めず、十分なアドバンテージがあったことでそのまま残ってしまったのだ。
この7R、10頭立てに騎乗した10人のうち、7人が宝塚記念でも騎乗していた。そして宝塚に騎乗する他の10人が、このレースを検量室のモニターなどで見ていたと考えられる。
自分が宝塚記念に乗るジョッキーになったつもりで考えてみてくれ。確かに河原田ちゃんは52kgと軽かったが、2、3着馬も54kg。斤量差は2kgしかない。
10番人気、最低人気の馬がハイペースで飛ばしたのに残ってしまった。つまり、『前に行かないと駄目』という意識が、実際一緒に乗っていた7人と、見ていた10人、計17人のジョッキーに植えつけられる。
俺、たぶん今後回顧を書いていく上でここまで河原田ちゃんをフィーチャーすることはもうないと思うな。
マスクの予想を裏切って、何度も回顧に登場するジョッキーになってほしいがね。
単純に、この7Rだけ逃げ残ったならまだ他のジョッキーの心理にも大きな影響を与えなかったかもしれない。
☆日曜 阪神芝 宝塚記念までの1着馬のポジショニング
2R アルタビスタ 1-1
5R ギャンブルルーム 6-7
7R プリマヴィータ 1-1
8R ショウナンアレクサ 3-3
9R イティネラートル 1-1
宝塚記念までの5R中、3Rで逃げ切りが決まっていたんだよ。ちなみに8Rは逃げトンジンチが2着。5R中4Rで逃げ馬が連対していた。
7Rだけならまだしも、他のレースでも散々逃げ切りを見せられれば、そりゃみんな『前に行かないと勝負にならない』と思っても不思議はない。
1着 イクイノックス ルメール「ペースが結構速かった」
5着 ディープボンド 和田竜二「全体的に流れてついていくのが大変でした」
11着 アスクビクターモア 横山武史「行く馬も多かったので想像以上に速くなった」
複数のジョッキーがレース後に「ペースが速かった」と話したように、みんな意識が自然と前を向いたことで、序盤から全体的に前掛かりになった面は確実にありそう。
そして2番手にいたドゥラエレーデの幸が「ハミ掛かりが良過ぎた」と話しているように、みんなが予想以上に前に前に行ったことで、逃げたユニコーンライオンにみんなでプレッシャーを掛ける形になってしまったのだ。
7Rなどそれまでのレースが伏線になっていることを頭に入れて、今度はパトロールを見ていこう。
☆23年宝塚記念 出走馬
茶 ③ダノンザキッド 北村友
黒 ④ボッケリーニ 浜中
水 ⑤イクイノックス ルメール
赤 ⑥スルーセブンシーズ 池添
桃 ⑦プラダリア 菱田
銀 ⑧ヴェラアズール 松山
黄 ⑨ジャスティンパレス 鮫島駿
青 ⑩ディープボンド 和田竜
緑 ⑪ジェラルディーナ 武豊
紫 ⑫アスクビクターモア 横山武
橙 ⑬ジオグリフ 岩田望
灰 ⑮ユニコーンライオン 坂井
スタート後。水イクイノックスがどこまで行くのかが焦点の一つだったのだが、思ったより進んでいかない。
レース後ルメールが「いいスタートを切ったけれど、いいポジションを取れませんでした」と言っているように、イクイノックスがあまり進んでいかないのだ。
まー、この馬に関しては別に逃げなくてもいいからね。以前ダービーで16番手から運んでいるように、別に前走シーマクラシックのように逃げなくてもいい。
これに関してはまた後述する。ルメールは馬が進んでいかなくても別に焦りはなかったんだと思う。
そんなことよりルメールが重要視していたのは、『その先のポジショニング』だ。
引いたのは5番。一般的には内枠と言われる枠だ。ロスは少ない枠だが、周りを囲まれる枠でもある。
囲まれるリスクを踏まえれば、少し出していくのがセオリーになる。そんな中、茶ダノンザキッドが少し出していって、イクイノックスの前に入ってきた。
その後今度は桃プラダリアが内目を締めるように上がってくる。
水イクイノックスとしては、囲まれずにいいポジションを取りにいくのであればこのダノン、プラダリアより前で運びたい。
しかしルメールは押す素振りもなく、この2頭を行かせてしまっているのだ。完全にその後ろになってしまった。
これで外から灰ユニコーンライオンがハナを切れば、更に前に馬が入ってきて水イクイノックスのポジションがより後ろになる。
前残りの馬場だったのにこれだけ後ろのポジションとなると普通は焦るものだ。
しかしルメールは「スタンド前のペースが速かったので、後ろからでも心配はなかったです」と話しているように、すでにこの時点でハイペースを察知している。だから焦らない。余計に押してポジションを取りに行こうとしない。
この焦りのなさだよな、ルメールは。土曜の東京メイン江の島Sでも、明らかに劣勢なポジションから周りを冷静に見て捌いていたが、焦らずレースを組み立てるのはルメールの真骨頂と言っていい。
ルメールは「内の馬場が良くなく、安全に乗りたかったので大外の方がいいと思いました」と言っているように、『何番手になるか』より『どこにいるか』を重要視しているんだよな。
彼のコメント通り、桃プラダリアの後ろをすぐに離れ、意識を外に向けている。
もしプラダリアの進出を内から張ったとすると、たぶんこの桃プラダリアのあたりのポジションを走ることになる。ロスはないが、見た目の悪い内ラチ沿い5頭分を回されることになるだろう。
ルメールはそれを嫌って、イクイノックスが進まなかった時点からプランを外に切り換えているのだ。判断が早い。
他の先行馬の動きを見てみよう。
灰ユニコーンライオンがハナを奪いにいくのは、戦前からある程度予想されていたことだ。ジョッキー側も当然それくらいは頭に入れている。
それまでのレースで前残りを散々見せられていたジョッキーたちにとって、ベストポジション(と思われる)はユニコーンの後ろ。
そのポジションを紫アスクビクターモアと青ディープボンドあたりが争うことになった。
青ディープボンドが遅いんだよな。
3200mからの距離短縮だったことももちろん影響しているが、それは紫アスクビクターモアも同じ。
完全に紫アスクビクターモアに前に入られてしまった青ディープボンドは、アスクに内に押し込められる形になり、茶ダノンザキッドの後ろに入ることになってしまった。
ディープボンドという馬は末脚勝負になると分が悪い。持久力を生かすならやはり2列目以内につけておきたいところだが、これで3列目以下が確定する。この時点でディープボンドの宝塚記念は相当苦しくなったと言っていいだろう。
そしてアスクビクターモアがポジションを確保し、ディープボンドが1列後ろになったことで、その後ろにいた銀ヴェラアズールのポジションも、巻き込まれるように1列下がってしまった。
レース後ヴェラに騎乗した松山が「スタートが良く、しっかり流れに乗っていきたいと思っていましたが、枠や並びの関係でうまく流れに乗れませんでした」と話しているのがこれ。
ディープボンドがポジションを取り切れていれば、その後ろのヴェラアズールももう1列前にいられたことを考えると、松山が言うように並びが悪かったとしか言いようがない。
まー、そもそも小回りのポジションを取る競馬で他馬をアテにしている時点で、阪神の内回りが合っていないとも言える。
ここでヴェラアズールまで下がってきたことで、その後ろにいた水イクイノックスが更に後ろに下がってしまった。
ドミノ式にポジションが後ろに下がるのは普通好ましくないことだが、前述したように今年のペースが速かった分、ドミノの影響がそこまで出なかったのはルメールにとっては幸いだっただろうね。
しかもここで水イクイノックスが掛かるのだ。
画像で見るより動画で見てもらったほうがより分かりやすい。パトロールを見てくれると分かる。
イクイノックスが行きたがるのは別に今回が初めてではない。有馬記念でも行きたがり、ルメールが一瞬折り合いに苦労していた。
ある程度競馬を経験していること、それまでに抑える競馬を経験しているとはいえ、掛かりやすい馬が前走ハナに行く競馬をした後にもう一度控える競馬を試すと、馬はより掛かることが往々にしてある。
マスクも予想に書いているように、どこかで掛かると見ていた。実際掛かったのだが、最後方に近いポジジョンで抑えているのを見て、思わず怖くなっちゃったよ。
前目で掛かるのを抑えるならまだしも、最後方に近いところで更に抑えれば前との距離がより離れる。
しかしルメールはここで折り合わせるのが異様に早い。行きたがるイクイノックスを、パトロール見る限り1コーナーで折り合わせてしまっている。
もちろんペースが速かったのも逆に折り合い的には良かったのだろうが、いくらなんでも早い。こういう細かいところがいちいち上手いんだよなあ…
ルメールにとっての幸運は、ハイペースになったことだけではなかった。
これは1コーナーから2コーナーに入るところの画像だが、水イクイノックスの前にいるのが誰かお分かりだろうか。
前走、ルメール自身がGIを勝たせた黄ジャスティンパレスと、武さんが乗る緑ジェラルディーナなんだよ、前にいる2頭。
この回顧ではもう定番だが、この回顧を初めて読むという皆さんのために念のため書かせてくれ。いわゆるベストポジションは『強い馬の後ろ』と『武さんの後ろ』であることが多い。
今回のルメールは、ダブルで揃えちゃったんだよな、この条件を。これでスローペースだったら苦しいが、過去10年で2、3番目を争うハイペース。後ろであることにマイナスがない。
この20秒ほど前、全然進まずポジションを悪くしたイクイノックスが、20秒後にはベストポジションに収まっているんだから競馬とは面白いものだよ。
そしてもう1頭、ベストポジションとなるのが赤スルーセブンシーズの池添だ。いわゆる『強い馬の後ろ』となる。
池添は戦前から倒すための戦略を考えると話していたが、木曜、イクイノックスの隣に入った時点で、ああこれは狙いはイクイノックスの後ろだなとすぐ分かった。
図らずともイクイノックス側から下がってきて、最後方追走ながら自分の前にはイクイノックスという、池添の希望通り(だと思う)のポジションを確保することができたのだ。
列は置いておいて、ことポジションだけで考えれば、最後方でもかなり良好なポジションと言ってもいい。
向正面。今日はサクサク進むな。ここまでで6600字、まだどうする家康がやっている時間だし、これは日曜中に書き終わるな。
ちょっとどうする家康見てくる。
ただいま。回顧に戻ると、やはり青ディープボンドはもう1列前が欲しかった。次回のどうする家康も、予告の話をやるならもう1話欲しかった。
つまり紫アスクビクターモアのポジションだよね。1列後ろになったことで、外から橙ジオグリフに締められる形になり、早めに外にも出せない。
そもそも道中ペースが速い影響もあって、道中から押しっぱなしで手応えが悪い。
☆23年宝塚記念
1着水 イクイノックス 16-16-13-9
2着赤 スルーセブンシーズ 17-17-16-12
3着黄 ジャスティンパレス 12-13-11-9
4着緑 ジェラルディーナ 14-14-6-3
5着青 ディープボンド 7-7-8-8
ハイペースの影響もあって後ろ有利であることを考えると、向正面で上位5頭の中で一番前にいるのはディープボンドだから、上位馬の中で一番展開が厳しかったと、言えなくもない。
ただ、ならディープボンドがもっと後ろ、それこそジェラルディーナやイクイノックスのあたりまで下げていれば違ったかというと、それはないだろう。
同じところから末脚比べをしてイクイノックスに勝てる力があるのなら、今頃もうGIをいくつも勝っている。持ち味は誰もが分かるように持続力だが、周りを囲まれ、序盤ポジションを下げたことで、持ち味を出す前に後手に回ってしまっていた。
後ほどもう少し触れる。
内の隊列も見ておこう。
黒ボッケリーニが向正面で内ラチ沿いにいる。結果外伸びだったから外有利に見えるが、それまで逃げ馬や内目を突いた馬が好走しているように、見た目の割にまだ走れた。
だからこそ、内を走る馬が内を開けていない。ロスなく立ち回って上位進出を狙うという作戦は決して間違いではなかったと思う。
ただ黒ボッケリーニは外に桃プラダリアがいる。対して赤スルーセブンシーズらの外に馬はいない。
ペースは速い。前は勝手に垂れてくることが想定される。その中でボッケリーニには逃げ場がなく、スルーセブンシーズは外に逃げられる。内目を走る馬でもこの差は大きい。これも後述。
後述ばかり作ると、あとから回収し忘れる時があるんだよな。あまり後ろに物を残しておきたくないのだが、話の流れ的にご勘弁だ。
こういう余計な小話を書いているから忘れるのだ。
しかし良馬場とはいえ、馬場も相当タフだったんだろうな。
これはイクイノックスルメールのジョッキーカメラだが、めちゃくちゃキックバックが飛んできていた。
梅雨時の阪神は馬場が重くなりやすく、掘れやすい。例年そうなんだけれど、今年は土日雨が降らなかったこともあり、いく分マシになるかと思っていた。
ところが土曜のレースからキックバックが目立ったんだよな。ジョッキー側から見るとこんな風に見えるのかと、参考になる。
表記は『良馬場』だが、良いかというとそれは疑問が残る状態だ。馬場も掘れ、相当パワーがいる、削られる馬場だった。
こんな馬場で、過去10年で比べても2、3番目に速いペースとなれば、相当苦しいレースになる。地力も試されたことで、力の足りない馬が通用する余地のないレースだったことは覚えておきたい。
3コーナーでレースが動いた。まー、序盤から全体的に動いてはいるのだが、勝負のポイントの一つになる動きがあった。
緑ジェラルディーナの武さんが外からまくり気味に上がっていったのだ。橙ジオグリフの後ろで黄ジャスティンパレスが構えていたんだけれど、それを締めるように、外から上がっていく。
黄ジャスティンパレスを締めながら、徐々に進出していく。
☆23年宝塚記念
12.4-10.5-11.1-12.6-12.3-12.4-12.5-11.9-11.7-12.0-11.8
太字にしたのは3コーナー手前から4コーナー入口にかけてのラップだ。お分かりだろうか、そんなに遅くない。
むしろ普通に流れている。通常1F12.5以内のラップだと簡単にまくれないものだが、まして、前半からかなり速かったことを考えると、この動くタイミングは正直速い。
ペースなどが速いことはレースを見ていれば分かる。俺は最初、武さんの意図を把握しかねた。
レース後武さんが「前走でズブい面があったと聞いていたため、自分から動いていきました」と話している。
「3コーナーでハミを取ったので無理をせずに押し上げていった」とも話していて、馬とケンカしないよう、どうせ反応が少し鈍いのなら気持ちに任せて早めに踏もうという算段だったのだろう。
実際ジェラルディーナはハミの取り方が難しかったり、レース前からテンションが高かったり、気持ちの面で難しいところがあるから、馬に合わせたという選択は悪くなかったと思う。
ただ『前走でズブい面を見せた』と言っても、それはやや忙しい2000mの話であって、2200mのハイペースとは状況が違う。もうワンテンポ待っていたら3着はあったかもしれないね。
これまで武さんはジェラルディーナに乗っていない。ダービーでファントムシーフに乗った際に迷ったことも頭にあったかは定かではないが、今回は早めに踏む選択肢を選ぶ一つの要因になった…のかもしれない。1度でも乗っていたら違うプランを選択した可能性もある。
まー、結果論だ。待って、ただ外を回されて最後甘くなっても意味がない。勝負を懸けるという意味では早めに踏みこむ手は十分ありだ。難しい判断だったと思う。
ただここでジェラルディーナが早めに動いてくれたことで、その後ろにいる馬は更に恵まれた。あとはジェラルディーナの後ろについていけばいいんだもの。牽引機関車みたいなもんだ。
そう、言うならば機関車ジェラルディーナ。
すまん、語呂の合う単語を思いつかなかった。機関車トーマスみたいな、そういうハマりのいいワードに持っていく予定だった。大失敗だ。
水イクイノックスは、この緑ジェラルディーナのまくるような動きについていけばいい…のだが、ルメールは最初ついていかなかった。
こうして3コーナー入口の画像を見比べると、距離が一旦開いているのが分かる。セオリー的にはついていくのが正解だが、ついていかなかった理由が分からなくてね。
結果差し切ったわけだし、早めに踏んだジェラルディーナは止まって4着だから、ルメールが動かなかったのは正解だった。しかしなぜその解に至ったのかが分からなかった。
ルメールの手の動きなどを見ても分かりにくいが、ルメールがレース後、馬上で「反応が遅かった」とも言っている。ついていかなかったというより、置いていかれたと言ったほうがいいのかもしれないね。
正直今回のイクイノックスは、いい時の8割5分前後、いや、8割だったと思っている。そういう面が出たシーン、だったかもしれないな。
もったいなかったのは黄ジャスティンパレスの鮫島克駿くんだ。
緑ジェラルディーナがこれほど早く動いたのは、克駿にとっても誤算だった可能性がある。そりゃ前半からこれだけ流れている中で、中盤ちゃんと緩んでもないのに外から動かれたらね。
セオリー通りであれば、先ほど書いたようにジェラルディーナについていくのが一般的だ。
しかし克駿は待った。それはたぶん、自分の視界に水イクイノックスがいなかったことも大きいだろう。
今回一番強い馬は誰ですか?と問われたら、ジョッキー100人中98人はイクイノックスと答えるだろう。中には1人、2人くらいユニコーンライオンとかそういう答えを返す可能性はあるが、客観的に見てイクイノックスが一番強い。
ハイペースで差し有利態勢となっている中、克駿の前にイクイノックスがいない。落馬でもしていない限り、自分の後ろにいると考えられる。早めに動くとイクイノックスのいい目標になる。
待っているうちに、橙ジオグリフが緑ジェラルディーナの真後ろ、つまり黄ジャスティンパレスの前に入ってきてしまったのだ。
そりゃこれだけ動かなかったら入られる。
前に入られるとどうなるかって、黄ジャスティンパレスは更にもう1頭分外から上がっていく必要性が出てくるのだ。
4コーナーを正面から見るとこんな感じ。緑ジェラルディーナについていければ、橙ジオグリフのところに黄ジャスティンパレスがいた。
しかし克駿が待っている間に、橙ジオグリフがそのポジションを取ってしまい、ジャスティンは更に1頭分外を回される。
もちろんその分、水イクイノックスが更に外1頭分を回されるのだが、この1頭分を抑えて回れれば、ジャスティンパレスの2着はありえたシーン。
レース後克駿が「相手の瞬発力が凄く、一気に離されました」と話しているのだが、瞬発力に差があるのは戦前から分かるだけに、ジェラルディーナと違い、こちらはもうワンテンポ、いや、ツーテンポ早めに踏んでほしかったところではある。
この後直線入口で克駿がムチを落として話題となるのだが、マスクがもったいないと思っているのはムチよりもこちら、4コーナー前の動きだ。
租界でも「克駿が迷っている」と書いたのだが、それがここ。このレベルの馬で何度もチャンスがやってくる立場ではないわけで、もう一段階攻めた騎乗が見たかったのが正直なところ。
逆に恵まれたのが赤スルーセブンシーズ。黄ジャスティンが余計に1頭分外を回り、水イクイノックスは更に外。
前にいた馬が勝手に外を回ってくれている中、池添はその内で我慢できている。これはワンチャンあるぞと、池添は思いながら乗ってるんだろうなあとレースを見ていて思ったもの。
実際レース後「4コーナーの手応えがイクイノックスよりも良かった」と話している。ここまでで一番宝塚記念勝ち馬となる可能性が高いポジションにいたのはスルーセブンシーズと言っても過言ではない。
ここまでは完璧だったんだがなあ。後述。本当に全部後述案件を回収できるのだろうか。
少しだけ内の馬の話をすると、黒ボッケリーニが、上がっていかない1枠2頭の並びに詰まっていた。
逃げ場がないとこうなる。まー、浜中は詰まってもいいから一発狙って内に行ったんだろうし、それはそれで仕方ない。ちょっと足りない馬を足らせにいった結果。
直線入口。黄ジャスティンパレスの克駿が右ムチを落としたところを、タイミング良くキャプチャした。
GIのムチ落としといえば、懐かしのジャリスコライト・手ザーモだろうな。あの時を思い出したよ。手ザーモが分からない人間はパパかママに聞いてくれ。
俺が話したいのは手ザーモの件ではない。赤スルーセブンシーズの進路取りだ。
池添が突こうとしていたのは赤丸で囲んだ部分、橙ジオグリフと黄手ザーモの間のスペース。1頭ほど開いていて、突けなくはない。
よーく見るとジオグリフの望来が左ムチを持っている。池添からすると、左ムチを叩けばジオグリフが外に寄る可能性は低い、つまり赤丸の部分は一定のスペースが開き続けると見ていたのではないかな。
そんなに上手くいかないのが競馬なんだよな。
緑ジェラルディーナの武さんが右ムチを叩いていたのだ。すると、橙ジオグリフのほうに寄っていく。この時点でまだ赤丸、スルーセブンシーズの行き場はあった。
しかし少しずつ緑ジェラルディーナが外に寄ったことで、橙ジオグリフも少しずつ外に向かい、黄ジャスティンパレスとの間にあったスペースが完全に埋まってしまった。
これで赤スルーセブンシーズ池添の進路が完全になくなる。パトロールを見ると分かるが、分かりやすく詰まっている。ややブレーキがかかった状態だ。
結果、赤スルーセブンシーズは切り返して、ジェラルディーナの外に出してきた。
レース後池添が「直線は捌けると思った。進路を内で切り換えさせられたのが…クビ差だけに…」と話しているように、敗因は完全にここ。言うように、勝ち馬とはクビ差。この部分がスムーズだったら、手応え的にも逆転はありえた。
何しろ一度完全に詰まりながらのクビ差だからね。逆転は十分あったと思うよ。
では赤スルーセブンシーズの池添の正解はどこだったかって、4コーナー出口に巻き戻して見ると、すでに緑ジェラルディーナの武さんが右ムチを叩いているのだ。
するとジェラルディーナは外に寄っていくから、いずれ開くのは赤丸で囲んだほうだ。こっちが正解だった。
ただ、これは後から俺がパトロールを見ながら書いているだけで、レース中にここまで考えるのは至難の業。
だって目の前の開いている部分を捨てて、切り返して内に行ったとして、ジェラルディーナが確実に外に流れて行くかなんて分からないだろう?
だったらもう開いているところに、コーナー出口の勢いを殺さずに入ったほうがいい。最初から開いているところに入るのはある意味当然の選択。
本人もパトロールを見て、ジオグリフの外ではなかったかと、間違いなく1度は思っているはずだ。しかし、後悔してももう一度同じ宝塚記念は開催できない。
難しいね。こういうシーンを見てしまうと、コンマ1秒の判断で結果がすべて変わることを改めて認識してしまう。
もったいない、この一言に尽きるクビ差だった。勝ちまであるレースだった。
まー、そもそもスルーセブンシーズがここまでの勝負に持ち込めるくらい強くなっているから、こんなシーンが見られたのだがね。
予想にも書いたように、今年の中山牝馬Sは宝塚に繋がるレースではあった。ただそれ以上にこの中間の馬の充実度合いが素晴らしい。
Twitterにも書いてあるように、パドックでも状態の良さが目立った。休み明けでも前脚が前によく出て、柔らか味のある馬体。栗東滞在も良かったんだろうし、大切に使ってきたことでようやく馬の体が心肺機能、能力に追いついたのだと思う。それくらい今日はいいパドックだった。
もちろん池添の騎乗も素晴らしい。最後は詰まったが、ハイペースでイクイノックスの後ろ、これ以上ないポジションだったね。
仮にスローだったとしても、そうなればイクイノックスが上がっていって、その後ろについていけばいい。そういう意味ではイクイノックスの隣という枠をもらったことが何より大きかった。
凱旋門賞はまだ出否未定。今の充実度でも正直分が悪いと思うが、道悪をこなせて、なおかつ持続戦に強いとなれば、エリザベス女王杯や有馬記念といった下半期の非根幹GIでも楽しめそうだよ。
買いどころはサラキアに近くなりそう。もう引退まであと半年ちょっと。どれだけタイトルを積めるか楽しみ。
3着ジャスティンパレスに関しては道中だいぶ触れたから、これ以上ほぼ触れることがない。短縮ということでそこまで行けないとは思っていたが、それでもいつもより後ろのポジションからよく差している。
阪神の長距離GIでも好走しているように、阪神内回りの持続戦になると強い。それだけにここは乗り方一つだったところがあり、ややもったいなさも残る。ムチを落としたこと以上にね。
トモが強くなって完全に本格化したから、以前より狙いやすくなった。天皇賞秋は適性外と見ているし、たぶん陣営も使ってこないだろう。京都大賞典→ジャパンC→有馬記念の3つを使う方向になると見ているが、今なら有馬で楽しみだね。
ジャパンCは過度な高速馬場にならなければ。京都大賞典はそれ以降のレースを見据えて作るだろうから、仕上がりによる。
4着ジェラルディーナに関しても道中だいぶ触れたから、他に書くことも特になし。乗り難しい馬だということを再認識した。
試しに札幌記念を使ってもらいたい。2000mは今少し短くなっているが、この条件だけはいいと思う。まー、オールカマーからエリザベス、有馬かな。非根幹2200以上は基本いいから、どのレースでもある程度の評価はしたい。
ただオールカマーは馬場を見ておきたいね。エリザベスはこれまでの京都開催、イン残りも結構あるレースだったが、4コーナーの改修で外の不利が消えつつあるから今年も警戒。とりあえず札幌記念を…
5着ディープボンドも道中あらかた書いたが、やはり1列後ろになったのが痛い。もちろんハイペースだった分、1列前でも苦しかったとは思うが、より持ち味を生かせる形にはなったと思う。
で、ならなんで1列後ろになったかって、跳びが大きい分の加速力が足りないことにもよる。
週中Twitterで阪神2200が根本的に合わない可能性があるみたいなことを書いたんだけれど、もう少しゆったりした流れで、前で形を作れるレースのほうが良さそう。
昨年の宝塚はここ10年で一番速いペースだったんだが、それを3番手で追いかけて4着。今年は速いペースで列を下げて5着。大阪杯から延長ならもう少しついていけるのかもしれないけれど、すると天皇賞春が使えない。
好走可能性があるとしたら客観的に見て大阪杯<天皇賞春だろうから、延長で使える状況がない。来年になれば7歳、そろそろ能力も下がることを考えると、国内で獲れるGIは現状思いつかないのが正直なところだ。
跳びが大きい分器用に内も捌けず、有馬も展開任せだろう。かといってジャパンCのような舞台で上がりを問われるのも苦しい。
海外に行くのがベストだと思っていて、可能性があるとすると1コーナーが遠く少頭数になりやすい香港ヴァーズだと思うのだが、もし使う場合はジョッキーを変えてみてほしい。
たぶん和田で夢を見たいという人間がかなりの割合を占めている以上言いにくいところだが、本当にこの馬は道中あれだけ追わせるほどズブいのか?という疑問があるのだ。
もちろんあたりが柔らかいタイプが向く馬とは思えないし、武さんとか、そういうタイプの馬ではないと思う。ただ以前クリスチャンが乗った時にやけにいい反応を見せていた。
そんな点を加味すれば、もしGIを勝たせにいくなら、違うジョッキーを試してみてほしいんだよね。もちろんロマンがあるというご意見も分かるが、ロマンだけで勝てる世界でもない。より可能性を高める選択をしていかないといけない時だと思う。残された現役生活の時間はそんなに長くない。
あまり書くと色々言われるんだけれど、客観的に見て、どう勝たせるかを考慮すると、違うパターンが見たいのが正直なところだ。
6着プラダリアはこれが天井。道中内目で立ち回って、ペースを考えるとポジションも悪くなく、それでいて外の差し馬たちにやられてしまった。
正直、ならこれ以上どうやって乗れば3着以内に入れたのが分からないくらい、無難で、9割方は出している騎乗だったと思う。
少し間隔が開くと良くないのは目黒記念で学んだ。オールカマーなんか合いそうな馬だけど、休み明けで出てきそうだし何とも。GII以下ならもう1つ、2つほど重賞を勝てる馬だと思う。
7着の黒ボッケリーニは4コーナーで1枠の馬が『2頭』、前にいたのが最大の敗因。直線で最後は灰ユニコーンライオンに詰まってしまった。
「ミルコの位置が理想だった」とレース後浜中が言っているが、その通りだと思う。するとまだ内か外かの選択肢があった。それより後ろになったことで、内一択になってしまったのが痛い。
これがもう少し緩いペースだと、イン後方ではそもそも届かなかったし、今回は4番枠から道中イン選択した時点でレースが終わっていたのかもしれない。もう少し外に出せる隊列なら状況は違ったかな。
なら最初から外に行けば良かったかというと、浜中が足らせるために内に行ったわけで、ここで勝ち負けできるくらいの力があればもっと外に出している。そういう意味ではGIだと地力不足なのかもしれない。
ただプラダリア同様、GII以下ならまだまだ大きい顔ができる。今回だいぶ仕上げた分次以降仕上げがどうかだが、京都大賞典は普通にいいんじゃないかな。
8着ヴェラアズールは文中触れたように、根本的に阪神内回り向きではないということなのだろう。このレベルの力のいる馬場は合うんだろうけどね。
パドックを見てもまだ8割5分くらい。ジャパンC以降、どう考えても合わない舞台しか使っておらず、まだ諦められない馬。広いコースの芝2400以上で見直し。
9着ジオグリフは望来が「2000mくらいで改めて」と言っているように、2200が根本的に長い。これはもう予想で触れたから特に深く書かないが、2000より1800でもっといい馬。中山記念を待つ。だいぶ先だなあ。
毎日王冠を使ってきそうなんだけどね。コーナー4つある1800のほうが信頼性は高そう。ノドが更に悪くならなければもっと走る。
10着ドゥラエレーデは多少行きたがっていたが、現状の力は出し切っているのでは。ペース、展開不向きとはいえ、まだ色々な面で子ども。
神戸新聞は道悪になったりそういう変わった条件にならないと難しそう。現状芝でそこまで数字があるわけでもなく、セントライトならまだ買うかなという感じ。まだマスクの評価はあまり高くない。もう少し力をつけてから。まだまだこれから。
11着アスクビクターモアは難しくなったな。武史がレース後「逃げることも考えたが、行く馬も多く、想像以上に速くなって行き切れませんでした。結果的にハイペースになったので、控えても良かったですが、控えていい馬でもない」と話している通りだ。
ペース考えたらなるべく構えたいが、末脚に味があるわけでもないし、行くしかない。行けば今度はペース次第。難しいよな。それでいてスタートが難しいと来た。乗り難しい。
いやいや昨年秋まで問題なくどこでも好走してるじゃんと言われるかもしれないが、あれは同世代相手。古馬はその筋の専門家の方が出てくるから、能力だけでどうにもならない場面が出てくる。
滞在の札幌記念は合うと思う。ただメンバー次第だろう。楽に先行できるメンバーならあり。今のこの馬に2500以上は長くなっている。
12着ブレークアップは見直したい。展開不利、ペース不利。構えればもう少しいい結果になったろうが、事前の想定ではユニコーンライオンくらいしか逃げ馬がいないのだから、先行策も納得。今日はノーカン。
アルゼンチンは斤量を足されるし、まだGIを勝つ数字はない。ただしオールカマーレベルならもっとやれていい馬だ。
さて、本日最後は勝ち馬のイクイノックス。ここまでで1万5500字か。おしゃれクリップが始まる頃に最後の馬にたどり着けば大体日曜中に出せるから、ペースは良かったな。
4コーナーでこれだからね。思い切り外に振られて、2200mのGIとは思えないところを通っていた。
ジャスティンパレスのコース取りについて文中で触れたが、それよりもう1頭分外を回っているわけで、改めて力が1枚、いや2枚抜けていることを証明したレースだったと思う。
もちろんハイペースでペースも噛み合ったことも良かったのだが、この馬の凄いところはTwitterで書いたように、『逃げても差しても競馬できる』ところ。
考えてみてくれ、条件戦、オープン問わず、普通は逃げ馬だったら逃げのほうがいいし、先行馬だったら先行したほうがいいし、差し馬だったら差しに回したほうがいい。
もちろん中にはどちらでも走れる馬はいるが、それはあくまでオープンレベルまでの話。それこそ4番手~10番手前後の範囲だろう。
イクイノックスはGIレベルで、ハナから16番手まで、全てのポジションで競馬できてしまう。どんな馬だよ。
このような、逃げても追い込んでも競馬できるという馬だとマスクはマヤノトップガンを思い出す。ただトップガンはポカも多かった。
イクイノックスは逃げようが追い込もうが、常にパフォーマンスが安定している。これが凄い。
例えば追い込み馬の場合、レースを覚えてくると、馬が序盤から進まず、レースの形ができちゃうんだよな。他にも序盤から押すと最後伸びないから追い込み馬になっている馬もいる。
逃げ馬はそれこそ周りに馬がいると駄目とか、マイペースでいかないと駄目とか、何らかの制約がついているからこのような作戦をとることが多い。
イクイノックスはどっちもできる。メンバー次第でハナにも行けて、単独走になっても気を抜かない。囲まれても対応できるし、有馬のように中団から自分で動いていける。
テストで全教科100点出してくるタイプだね、簡単に言えば。しかもまだ成長の余地があるから、ここから問題が難しくなっても100点が計算できる。過去何頭いたんだろうな、こんな馬が。引き出しが多すぎて、引く。
今回は栗東滞在を早めたように、ドバイの反動が残って体重を調整しながら臨んだ一戦だった。
週頭に鈴木康弘元調教師がデイリーだったかで馬体を150点としていたが、有馬や天皇賞のパドックと今回のパドックを比べてもらえれば分かるように、なんとか立て直した状況で、いいところまだ8割5分というデキ。
元々体格の割に細い馬だが、今日は全体的にシャープ過ぎたものね。全然これがMAXではない。それがルメールがレース後「反応が遅い」と呟いたことに繋がる。
着差はそこまでだし、見た目にインパクトは少ないかもしれないが、マスクからすると、この程度のデキで大外を大きく回っても勝っちゃうんだという感想だよ。
もう今後、イクイノックスは関西圏のレースを使わないとされている。MAXで宝塚を使うとどうなるかちょっと気になったね。
さて、秋だ。間隔を詰めて使いにくいところがある馬だから、秋も多くて2戦。夏立て直してくるだろうから、トラブルがなければたぶん秋、もっといい馬体で出てくるはず。
それこそ鈴木先生の言葉ではないが、今回のデキを100点とすると150点のデキで出てくると思っていて、今から楽しみでならないね。
前に師がこの馬のことを『天才』と評していたことがある。ここまで天才という言葉が似合う馬はいないかもしれないな。
この馬の底が知りたい。
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