『外伸び馬場』を攻略する
30年くらい前の有馬記念なんかを見てくれると分かるんだけど、緑色の字はなんていうのはもう存在しなくて、冬枯れした芝がまるで古戦場みたいな雰囲気を醸し出しているんだ。
JRAだってバカじゃないから、つくばに研究施設を作って、芝について研究している。そこで開発されたエクイターフは競馬の流れを変えてしまった。昔はそれこそ開幕週は内、使い込んでいって外という流れができていた。ところがエクイターフは根っこがなかなか掘れないから、最終週でも内が走れてしまう。以前に比べて外差しが入らなくなってきたんだ。
あくまでこれは『通常例』であって、例外は存在する。それが今週だった。
今週の小倉はコース変わり最初の週だった。通常であれば内が有利になる。今週の札幌はコース変わり2週目。先週はまだ内が良かった。通常であれば内が有利だっただろう。
ところが小倉は先週雨の中で開催してしまった。小倉は1、2月に6週間、ほとんど道悪で競馬したことでかなり馬場にダメージが残っていた。開幕週にとんでもない時計が出ていたのに、1日経って時計が1秒遅くなってしまったから少々心配はしていたのだが、コース変わり週だった今週、いきなり外伸び馬場が出現した。
しかも変則的な外伸び馬場だ。写真を見てもらいながら解説していきたい。
●今週の小倉芝
1、2コーナー→フラット
向正面→フラット
3、4コーナー→内3、4頭分×
直線→内から7、8頭分×
各レースのパトロールビデオを見ると分かるが、インが悪いのは3コーナー手前から。これがスタートから内が悪ければ、ずっと内を走らされる内枠は大いに不利で外枠、外差しばかり決まる。ところが今週の小倉のように向正面まではインがまだ走れる馬場は、内枠の馬たちに大きなマイナスがなく、内を走る馬が3コーナーから内を開けて回ることで、外枠の馬が更に外を走らされてしまう現象が生まれてしまうんだ。『外伸びなのに内枠が来る』という馬場。だから今週は難しかった。
・ひまわり賞の場合
『完全な外差しではない外伸び馬場』
ひまわり賞が好例。白矢印が勝ったヨカヨカ、赤矢印が2着テイエムサツマドン。
ヨカヨカの力が抜けていたのは周知の事実なのだが、ヨカヨカ福永は3コーナー前から内を開けて回っている。内枠だから通常内ラチ沿いを回ってくるものだが。福永は毎朝欠かさず馬場を歩いて、良し悪しを把握している。さすがの動きだよ。
ヨカヨカが内を開けたことで困ったのはテイエムサツマドンだ。ヨカヨカが内を開けてしまっているから、その外にいた馬たちも外を回ることになる。進路は内しかない。しかし内が悪い。
和田は腹をくくってあえてラチ沿いへ向かった。コーナーの距離ロスを最小限に抑えることでスタミナロスを防ぐと共に、コーナーはラチギリギリを回る馬が少ないから、ラチ沿いのほんのわずかな部分だけ、まだ芝が生えている場合がある。それも意識しての動きだろう。
とはいえハナを切って馬場の一番いいところを走れたヨカヨカとの差は大きい。直線で外に持ち出したものの、時すでに遅し。前の馬とは決定的な差がついていた。福永の頭脳プレーが光った一戦で、人気馬でもこのような『インアウト』の意識を持ってくれるジョッキーは貴重。
人気馬で強いからといって雑に回るジョッキーもいる。馬場をなめ過ぎていると言っていい。通るラインが少し違うだけで0.2、3秒は変わってくる。0.1秒を争う競馬において、このロスは大きい。
話を戻すと、このタイプの馬場は『外伸び』であっても外枠だけ買うと痛い目に遭う。どこで馬群が内を開けているかを確認することが大事になってくる。
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・キーンランドCの場合
『完全なる外差し馬場』
さて、ここまで『3コーナーから内が悪い外伸び馬場』の話を書いた。日曜の札幌芝は上記の小倉とは違うタイプの外伸び馬場だった。『道中ずっと内が悪い外伸び馬場』である。
キーンランドカップを見ると分かる。白矢印が1番人気だったダイアトニック武さんだ。武さんもラチ沿いが悪いことをよく知っている。最内に入ってしまったから、このレースの武さんのテーマは『いかに最内から外に出すか』だったはずだ。
パトロールビデオを見ると分かるが、武さんがスタートしてから外に出そうと頑張っている。ところが他の内枠の馬もそんな簡単に1番人気を外には出さないんだよな。
この黒い線を意識してみてほしい。黒い線より内と外の馬場の色が違うのが分かるだろうか。外に行きたいのに、他馬に押されて武さんがこの線より外に行けないのが分かる。ビリーバーは馬場悪い部分も走れるから外に行く必要がない。ビリーバーが内のイベリスを押し込み、イベリスが邪魔でダイアトニックが外に出せず、黒い線をまたぎ、馬場が悪い部分を走っていることが分かる。かなり苦しい。
ダイアトニックの運が悪かったのは、その後3コーナーまでにかけて、ノリさんが馬場の悪い部分とマシな部分を分ける線の真上を走ったメイショウショウブに騎乗していたこと。そのライン上から簡単に離れてくれないから、なかなか外にいけず、3コーナー前でマスクはもうダイアトニックはないと思った。
対して外の馬たちはまだ馬場の掘れていない部分を走れている。この時点で勝負の7割は決したと言っていい。人間だってそうさ、悪路を走るよりアスファルトの上を走ったほうが有利だし、スタミナを浪費しないだろ?
コーナーでもダイアトニックは苦しかった。
白矢印→ダイアトニック
黄矢印→ダイメイフジ
緑矢印→ライトオンキュー
橙矢印→エイティーンガール
桃矢印→ディメンシオン
コーナーでダイアトニックは外にダイメイフジがいて外に出らない。その奥のライトオンキューが膨れず、締めて回っているからダイメイフジも外にいけない。1頭なら軽くプッシュしてみたりとやりようはある。2頭いてはやりようがない。ここでダイアトニックは完全に終わった。
さてここから。
4コーナーの写真を見てほしい。ダイアトニックは前にいるショウナンアンセムの手応えが悪過ぎて進路がなく、外にエイティーンガールがいるため外にも出せず、これはもうどうしようもない。
問題は緑矢印のライトオンキューだ。フルキチが内を見ているのが分かる。馬場の色やそれまでのレースを見ている限り、ヤマカツマーメイドやショウナンアンセムが通っているラインが馬場のマシなギリギリのラインで、ライトオンキューは本来ヤマカツマーメイドのあたりを回りたかったんだと思う。
ところがフィアーノロマーノがいて、2、3頭分ほど外を回されているんだ。ロスを最小限に抑えようと丁寧にやっているが、さすがにこれは外過ぎる。フィアーノロマーノはずっとノメっていてかなり苦しそうだったが、チャンスのある実力馬であること、ライトオンキューより1つ内枠だったことでポジションを譲ろうとしない。
ここでフィアーノロマーノの後ろにいたのが桃矢印ディメンシオンだ。その更に後ろに橙矢印エイティーンガールがいる。たぶんこのラインをライトオンキューが通れていたら、結果は少しは変わったと思う。ライトオンキューのロスはもっと抑えられただろうし、下手したら勝っていたかもしれない。
一番いいところを通れたのは、4コーナーでフィアーノロマーノ→ディメンシオンラインの上に乗っていて、4コーナー出口でスムーズに外を走れた橙矢印のエイティーンガールだ。
●準オープン昇級後のエイティーンガール
桂川S 15番→2着
浜松S 8番→8着
ファイナルS 11番→1着
シルクロードS 6番→2着
鞍馬S 11番→3着
函館スプリントS 3番→7着
UHB賞 6番→7着
キーンランドC 14番→1着
外枠で、外を回したほうがパフォーマンスが上がっている。ここ2走は外をしっかり回せず負けていたようなもので、外伸び馬場になって、外枠から外を回せばチャンスだと思っていた。
ただ土曜はまだ内ラチ沿いが生きていたし、前日のマスクも『たぶん外差しになるだろう』という感覚。もしかすると内ラチ沿いが生き残る可能性もあったから、前日に書く予想で断言できなかったのはある。
実際日曜も序盤は内が生きていた。午後になってから内ラチ沿いが一気に悪化し、キーンランドCの頃には道中、直線全て悪い馬場となってしまった。1日のうちに馬場が変わり続けていたのである。どこまで外差しが嵌まるのか、難しい判断が迫られる馬場だった。
マスクは9Rの小樽特別を『仮想キーンランドカップ』としていたんだ。このレースで本命は外差しの8番人気ドクターデューン。この馬が届けば、当初出した買い目を更に外に傾けたものを買うつもりだった。
実際ドクターデューンは最後差してきて3着。ここでマスクは租界に『エイティーンガールまで足りる馬場』と書いた。レース1つ1つを見ながら馬場を注視していくと、より的中率が上がる、いい例となったと思う。ここまで外差しだと、短距離はもう外枠中心に買うだけでいい。ディメンシオンまで買い目に入れていたのは、このレベルの馬場の登場まで想定していたから。
当然ここまで極端な外伸び馬場となれば、次評価すべきは今回内枠だった馬。まったく外に出せなかったダイアトニックはもちろん、イベリスあたりも苦しい競馬。道中ノメっとずっと重心が上に上に行っていたフィアーノロマーノも、次走以降見直しが必要だろうね。
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