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京都記念を振り返る~内がいい馬場であえて内を開ける思考~

京都記念の振り返りだ。

マスクの予想を見てくれていれば分かると思うが、マスクの日曜の勝負レースは9Rのこぶし賞、ビップランバンだったんだ。掛かる馬で今回は待ち望んだ距離短縮。

こぶし賞は先行馬も手薄だからまず勝ち負けできると思っていたんだが、スタート直後の不利などもあって5着に敗れてしまった。結構落ち込んだ。

ビップランバンに騎乗していた川田は、その前の8Rでオーマイダーリンに騎乗し、内有利の馬場で後方から大外を回して6着だった。ランバンが負けたあたりで、租界でも「川田は調子が悪いのでは」という意見がチラホラ見えたんだよね。

俺はそれでも川田が調子を崩しているとは一切思わなかったし、京都記念でラヴズオンリーユーから買う方針は崩れることはなかったよ。確かに8R、9Rは結果が出なかったが、川田の意識はブレていないのが、レースから伝わってきたからだ。

今回の京都記念は、川田の日曜の他の騎乗馬の話から進めていこうと思う。

●日曜の川田 芝
5R⑤ヘアケイリー 5着
7R②ミッキーメテオ 1着
8R②オーマイダーリン 6着
9R⑨ビップランバン 5着
11R④ラヴズオンリーユー 1着

5鞍に騎乗して2勝という結果だった。京都記念までに4Rで騎乗したのだが、改めて、パトロールで位置取りを振り返ろう。

●阪神5R ヘアケイリー5着

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●阪神8R オーマイダーリン6着

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ヘアケイリーもオーマイダーリンも、スタートから馬が進んでいかず内ラチ沿いを取れなかった。

ただ改めてレースを見ても分かるが、直線では大外を通ってはいるものの、3、4コーナーでは内から2、3頭目を走っているんだ。決してコーナーで大外、大外を回っているわけではない。阪神のラチ沿いがいいことは川田も重々承知していたのだろう。

●阪神9Rビップランバン 5着

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スタートでヴィアルークスに弾き飛ばされる形になってしまったビップランバン。向正面であえて馬群から離して折り合わせ、3コーナーまでにラチ沿いを確保している。負けはしたが、向正面や直線で外にいようが、川田はコーナーでなるべくロスなく運ぼうとしている意識は変わっていない

結果が出ずに調子が悪いと見る向きもあるが、スタートから弾き飛ばされたりしては誰が乗っても来れないからね。よく見ると方針はブレていない。レースはよく見ないといけないと改めて思うよ。

以上のことを頭に入れた上で、京都記念を見ていこう。

●京都記念出走馬
白 ハッピーグリン 北村友
黒 ステイフーリッシュ 和田竜
青 ラヴズオンリーユー 川田
黄 ワグネリアン 武豊
緑 レイエンダ 団野
橙 ダンビュライト 松若
桃 ジナンボー 岩田康

12.3-10.8-11.8-12.3-12.1-11.9-12.0-12.2-11.3-11.5-12.2

逃げたハッピーグリンの前半1000mは59.3。ゆったりした流れになりそうなメンバーだっただけに、一周目直線、最初の上り坂で10.8、前半1000m59.3は結構ペースは流れたほうだったと思う。

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スタートしてから青ラヴズオンリーユーがラチ沿いに入れていないのだ。川田が内ラチ沿いを選ばなかった理由は複数考えられる。もちろんラヴズオンリーユーはこれまでの好走レースを見ても、ラチ沿いにいるわけではないことは挙げられるだろう。

他に考えられるのは、スタートが良かったのが内の白ハッピーグリンと黒ステイフーリッシュだったこと。客観的に見てハッピーグリンは9カ月半の休み明け。伸びる確率より下がっていく可能性のほうが高い。

ステイフーリッシュは伸びはするが、早くに手応えが悪くなって、そこからジリジリ伸びていくタイプ。いくら内ラチ沿いが良くても、この2頭の後ろのポジションには入りたくない

しかし前述したように川田は今の阪神のラチ沿いがいいことを重々承知している。だから外から橙ダンビュライトが進路をふさぐように先行してきても、川田は内から4、5頭目のコースをキープしている。

これ以上外を回ると開幕週で内がいい馬場ではロスが大きくなる。川田の外を回る馬はロスが生まれるから、この時点で更に外を回っているワグネリアンは難しい競馬となる。

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しかも黄ワグネリアンが厳しかった点は、前を走っていたのが緑レイエンダだったこと。マイルなどを中心に入っていたレイエンダが、前半からある程度流れている2200mで自分から上がっていくことは、ほぼほぼないと言っていいだろう。

レイエンダの斜め前には青ラヴズオンリーユーがまるでブロックするように鎮座している。川田のポジショニングは内過ぎず外過ぎず、絶妙なものだったんだ。

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さて、ここまでの画像を見て気づいた方もいるかもしれない。桃ジナンボーの(岩田)ヤスナリが、スタートしてから割とすぐ、内目、内目に寄ってきているのが分かるだろうか。

ヤスナリはこの京都記念の3つ前、8Rのオールザワールドでも外枠から好位のラチ沿いを確保しに行って、直線も内ラチ沿いを突いている。内を突きやすいタイプのジョッキーではあるのだが、今週は芝、ダート共に内が良かった阪神において、非常に内ラチへの意識が高かった

この京都記念でも前にいるのが長期休養明けのハッピーグリンにも関わらず、向正面までにラチ沿いを確保し、向正面でラチ沿いから進出していくんだ。いくら11頭立てとはいえ8枠だからね。さすがの進路取りだよ。

外に目を向けると、相変わらず青ラヴズオンリーユーが邪魔で進出できない緑レイエンダが壁になり、黄ワグネリアンが動けなくなっている。ワグネリアンとジナンボーはすでにこの時点で差ができていると言っていい。

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これは3コーナー。青ラヴズオンリーユーの川田は一瞬迷ったと思う。考えられるパターンは2つ。

1.内を締めて回る
2.橙ダンビュライトの外を回る

開幕週で内ラチ沿いがいいことを考えると、なるべくロスなく回りたい。つまり1を選びたくなるところだ。2を選ぶと、よりいい内ラチ沿いをジナンボーヤスナリに使われてしまう

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今回川田が最も上手かったと思われるのはここだ。川田が選択したのは選択肢2だった。内を締めずに橙ダンビュライトの外から進出しようとしているのがこの画像から分かる。

見ている限り、選択肢1も取れたと思うんだよな。それでも開幕週なのにあえて少しロスの大きくなる外を回したのは、内ラチ沿いから進出してきたのがジナンボーであることが理由だと思われる。

ジナンボーはここまでキャリア13戦中、上がり最速が2度。ディープインパクト産駒はキレる脚を使えるというイメージを秘めた人間も多いだろうが、そう考えるとジナンボーの最速2度は少ない。

上がり3F33秒台自体は使えているのだが、東京や新潟外回りでの話。この馬自身準オープンを突破したジューンSは不良馬場だった。一瞬のキレより、パワー、持続力で勝負するタイプであることが推測できる。

川田はジナンボーに騎乗した経験はない。ただ全弟のラインベックに騎乗したことはある。ラインベックもここまでキャリア11戦、上がり3Fメンバー中最速だったのは2回だけ。ダートも走っているくらいだから、キレ<持続力なのは間違いない。

もちろんジナンボーの過去のレースを見れば分かることだし、これは本人に聞いてみないと分からないことだが、川田はジナンボーであれば馬群の小さなスペースに一瞬で入る脚はないと踏んだのだと思う。だからこそ外を回す選択肢を選んだのではないか。

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川田の推測は当たった。直線、黒ステイフーリッシュと橙ダンビュライトの間にスペースが出来た。キレのある馬だったら余裕で突けるほど大きなスペースだ。

しかも馬場はいい。内をロスなく回ってある程度脚も溜まっていた馬ならこのスペースを突いて一気に伸びてきただろう。しかしそこはジナンボーだ。

ヤスナリは道中完璧な誘導を見せていたし、直線伸びるだけという状況だった。ところがこれまでのレース通り、一瞬でキレるわけではなく、エンジンが掛かるのに時間が掛かっていた。もしこれがキレる馬だったらこのスペースを突かれることでラヴズオンリーユーは負けていたと思う。

それこそ全盛期のワグネリアンだったらどうだったか。もし仮にだよ、ワグネリアンが全盛期の力を維持したまま京都記念に出て、ジナンボーと同じ競馬をしたらどうだったか。たぶん突き抜けられていたと思う。

川田は内から来たのがジナンボーだったから、あえてそのまま行かせた可能性は結構高いと思うんだよな。仮に内に進路を取ってジナンボーの通るポジションを奪いに行ったとしても、前にいるのはハッピーグリンとステイフーリッシュ。外に出そうにもダンビュライトは切れず、スムーズに外に出せなくなるかもしれない。

3コーナーで一瞬川田はこれについて迷ったと思うのだが、ジナンボーだからあえて入れて、結果上手くいった。上手いジョッキーは2、3秒後の世界を見ているとよく言う。今回の川田は15秒くらい後の光景を見ていたと思うんだよ。

そしてこうして川田の意志通り馬が動けたのも、ここ3週連続で川田が騎乗して、ハミを交換する進言を行ったことによる影響も大きいと思うのだ。ここ2走より相手が弱かったとはいえ、ラヴズオンリーユーがこれほど上手く立ち回れたのは久しぶり。調教で馬を感じ取り進言し、実際勝利に導いた内容は矢作師の信頼を大いに勝ち取ったはずだ。

まー、仮にこのスペースをもっと強い馬が突いていたらラヴズオンリーユーは危うかったのは間違いないし、今回のデキはまだ9割行ってないくらいだったと思うから、完全復活と言ってしまうのはちょっと違う。まだ脚に不安は残されているから、上のステージで戦うとなると今後更なる回復が求められてくると思う。

2着は同厩、矢作厩舎のステイフーリッシュ。非の打ち所がない完璧な競馬だった。前走より明らかに反応も良化していたし、叩いて状態が良くなっていたのが分かる内容。

騎乗した和田が「もう少し早くに行っても良かったかなと思うけど、後ろも早めに来ていた」と言うように、ダンビュライトが早めにプレッシャーを掛けてこなければ勝っていたかもしれない。レースだから仕方ない。

ダンビュライトもジナンボーもほぼノーミス。ジナンボーは最初から内枠だったら3着もあったかもしれないが、この流れ、馬場、乗り方で出したこの結果が現状の力なのだと思う。

5着だったのがワグネリアン。この馬場で外を回って5着だから決して悪い内容ではないのだが、ダービー馬だ。全盛期の数字の出方を思い返すと、この結果は明らかに物足りない。根幹距離に戻ったり、今回ここを叩いたことで次以降はもう少し数字が上向いてくると思うが、トップクラス相手に力勝負になった場合は現状見劣るというのが正直なところ。

今回ワグネリアンはノドの手術を施したこと、そしてダービーの時にすでにノドが鳴っていたことを公表した。通常GI馬は、ノドは鳴っていても公表されない場合のほうが圧倒的に多い。ダイワメジャーやハーツクライは珍しい例だ。

というのも、ノドの弱さは遺伝するとされている。先々種牡馬入りするであろう馬が『ノドの疾患を抱えてます』なんて看板背負っていたら、種付け頭数に影響するからね。だから普通は内内で処理したりする。GI馬の公表は珍しいし、ましてダービー馬のノド鳴りの公表はレアケース

種牡馬として価値を落とす発表をした理由が、この先まだまだ現役をやるからなのか、もう引退が近いからなのかは分からないが、この先の現役生活でノドのことが気にならないレベルの実績を残し、種牡馬価値を再向上させてほしい。

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