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新潟記念~勝負を分けた0.01秒~

札幌記念、キーンランドカップとパトロールビデオを使いながら解説してきたが、今回は第3弾、新潟記念を取り上げる。

先月半ばの開催でだいぶ芝が荒れてしまったことで内が悪くなり、直線内が終わって外差しが決まる馬場での一戦。

一見外伸びで外からきた馬たちだけで決まったように見えるが、実はこのレース、奥が深い。コース取りの意識、そしてジョッキーの一瞬の動きが勝負を左右したレースでもあった。

また今回もパトロールビデオを使いながら、かなり深い部分で新潟記念を振り返る。パトロールビデオを見ながら読むことをオススメしたい。

●新潟記念

1着17番 ブラヴァス 9-9 32.6
2着5番 ジナンボー 1-1 33.1
3着16番 サンレイポケット 11-11 32.4
4着8番 サトノガーネット 18-18 31.9
5着4番 サトノダムゼル 3-3 33.3

12.8-11.5-12.5-12.4-12.7-13.0-11.9-10.8-10.7-11.6

『上がりが34秒台になる→馬場が荒れ気味or天候が微妙、上がりが33秒台になる→天気がいいor外差し馬場という感じで、上位の上がり3Fが34秒台になると前に行った馬が有利となり、上位の上がり3Fが33秒台となれば今度は差し競馬になるのが新潟記念というレース』と予想に書いたのだが、今回の新潟記念は後者。上位が上がり3F33秒台を切ってくるレベルのタイムが出る差し競馬だった。

しかしただの差し競馬ではない。ここから解説していこう。

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黒矢印→サトノダムゼル
赤矢印→ジナンボー
黄矢印→ウインガナドル
青矢印→ブラヴァス

スタートしてからウインガナドルがずっと枠なりのまま直進している。土曜から向正面も3、4コーナーも直線も内が悪い状態だから、ガナドルが直進して内を開けることは予想できた。

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ポイントはここからで、200m過ぎからジナンボーが誰もいないラチ沿いに入っていくのである。馬場の内は悪い。色も変色していて見た目に悪いのだが、よく見てほしい。黒い線を引いた部分より右側は色が変わっていないことに気づくだろうか。

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一般的に最内を走ると言っても、磁石のように内ラチとぴったりくっついて走るわけではない。事故防止もかねて1頭分開けて回ることがほとんどだ。だから今日の新潟芝のように、『内は悪いがラチ沿い1頭分だけはいい』という状況が生まれるのだ。

ならみんなロスなく回れるラチ沿いを狙いに行くのではないか、という話になるのだが、そう甘い話ではない。ラチ沿いといっても1頭分未満。ちょっとでも外れると馬場は悪いわけだから体力をロスする。本当にラチ沿いを1頭分きれいに回れる技術力、そしてラチ沿いに飛び込む勇気がないとこの作戦は成立しない。

余談になるが、今日の8Rで3着だったブレッシングレインもこれに近いことをやっている。乗っていたのはルメール。外国人ジョッキーがたまにやるのがこの戦法だ。日本人ジョッキーだと、場は違うが小倉9R別府特別のラミエル松山弘平もこれをやっている。

話を戻そう。向正面でジナンボーがラチ沿いに入った後、ウインガナドルがペースを上げなかったのがこのレースのポイントだろう。前述したように上がりが掛からないと前は残らない。つまりガナドルはもっとテンから飛ばしていく必要があるのだが、一切ペースを上げず、内からジナンボーに交わされてハナを切られ、2番手になってしまった。

前走の関越Sも2番手からレースを運んで2着。あくまで推測だが、乗っていたコーセイは前走関越SのVTRを見て、ハナに立たずとも2番手からでも競馬ができると思ってしまったのではないか。

ところが関越Sは前半3F34.0-後半3F36.1という新潟外回りとしてはかなり珍しい前傾ラップ。直線横一線からの上がり勝負にならなかったから粘りこめているわけで、本来スローペースの場合はハナに立って、自分からペースを上げていかなければ好走できていない。確認不足という他なく、騎乗ミスとすら思えるレースメイクだった。これではジナンボーをアシストするだけである。

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3、4コーナーを見てみよう。ジナンボーがハナのままコーナーに入っていくのだが、パトロールを見て分かるように、ここでジナンボーはラチ沿いを開け始める。デムーロは最初から直線は外目に行こうと思っていたのだろう。コーナーもラチ沿いを回るとどうしても遠心力も掛かってラチ沿いぴったりは回れないし、直線入口で外から締められてしまう。早めにコーナーで内を開けることによって、外に出しやすい状況を作っている。

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ここでポジショニングが上手いのは黒矢印、4番のサトノダムゼル。乗っていたヤスナリは好発を決めた後、内枠から前に行って内の悪い部分を回避。外の前目というベストポジションを取り切り、そこを譲らなかった。コーナーでも内の悪い部分と、まともな部分の真ん中の部分を丁寧に回ってきた。

ヤスナリは昨日の長岡Sをワンダープチュックで勝っているのだが、パトロールビデオを見ると分かる、ワンダープチュックでも同じところを回ってきている。あのコーナーのぎりぎりのラインをヤスナリは分かっているんだろうな、さすがの勝負勘だった。

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直線に入って内を思い切り開けて回ったジナンボー。その外にウインガナドル。更に外にサトノダムゼル。先行馬、内にいた馬がみんなラチ沿いを外してまわったことで、後ろにいた馬たちが更に外を回らされることになる。完全な外差し馬場になるとこうやって先行馬に進路の優先権が与えられる形になってしまう。外の差し馬だけで決まらなくなってしまう可能性が出てきてしまうのだ。外差し馬場だからといって単純には決まらない。

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残り600m過ぎで一旦先頭に立ちかけたのがサトノダムゼルだった。馬は草食動物、群れで暮らす生き物だ。直線で早めに先頭に立ってしまうと気を抜いたり、集中力を欠いてしまうもの。直線で誰かと併せたほうが伸びる。

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残り400m付近でダムゼルが外に逃げる素振りを見せる。この時点でヤスナリから見えるのは内を走っている赤矢印のジナンボー。右からムチを叩いて内のジナンボーに馬体を併せに行った。この状況を考えると至極妥当な判断だろう。

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これ幸いと思ったのはその後ろにいたブラヴァスだろうね。進路がきれいに開いてくれた。思いかえせばブラヴァスは3コーナーからリープフラウミルヒの後ろで、いつでも外に出せるよう脚を溜めていた。福永のポジションに対する意識が高いからこそ、直線でサトノダムゼルの真後ろにいたと言える。

直線で右からムチを入れて内にいたジナンボーに併せに行ったヤスナリだが、叩き合い始めた残り200m付近で、開けてしまった進路から伸びてきたブラヴァス、サンレイポケットの存在に気づく。勢いはジナンボーより明らかにいい。たぶんヤスナリは『しまった』と思っただろうね。

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最初から勢いのあるブラヴァスらと併せていれば、最後まで競り合う形が生まれる。ヤスナリも存在に気づいてからムチを左手に持ち替えて外ラチの方面に誘導しようとしていたが、時すでに遅し。ブラヴァスに完全に抜け出されてしまった。

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仮に最初からブラヴァスに併せに行っていたとして、勝てていたかは分からない。最後、ダムゼルの脚は上がっていたかもしれない。ただヤスナリはスタートから3、4コーナー、直線半ばまでの進路取りが完璧だった。完璧だったからこそ、最後ジナンボーに併せに行ったことを悔いている可能性はある。

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ブラヴァスにとって幸運だったのは、外からサンレイポケットが伸びてきたこと。通常これだけ外を走っていれば、更に外に馬はいないもの。しかし更に外からサンレイポケットが伸びてきたことで外に膨らむ可能性が少なくなり、外からまっすぐ伸びることができた。力をつけているのも事実だが、今回は福永の誘導の上手さ、直線の並びも良かった。

サンレイポケットは4コーナーで内の馬が外に張りだしたことで更に外を回されることになったが、それでも直線よく伸びて上がり3Fメンバー中3位の32.4。骨折で出世は延びたものの、さすがに力がある。中日新聞杯などを使ってもらいたいね。チャンスがあると思う。

たぶんジナンボーが勝っていたらデムーロの歴史的名騎乗になっていた可能性がある。向正面でラチ沿いのいい部分だけ使って、直線外に出す、やっていることは相当高度。上がり33.1を使っているようによく走っているのだが、最後の最後に切れ負けてしまう形になってしまった。これ以上があったかは疑問も、もう少しペースが速く縦長になっていれば残せていた可能性はある。大きなアタマ差だった。

4着サトノガーネットは上がり3F31.9。直線競馬でも出ないような信じがたい上がりだ。外ラチ沿いを使えたことが要因。地力強化というよりその部分が大きい。7着ピースワンパラディは外枠だったらもっと上位はあっただろう。内枠の分の7着とも言える。

10着ワーケアは予想に一切書かなかったように、今回は完消し。左回りがいい馬とはいえ、新潟の上がり33秒台後傾ラップは向いていないと思っていて、実際最後は切れ負けてしまった。休み明けでなければもう少し動いた気もするが、今回は適性からずれた舞台だったと思う。右回りの平坦3000mの菊花賞が合うようにも思えず、狙えるレースが少ないタイプの可能性が高い。

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