有機金属化学と触媒

前回の記事では代表的な化学の分野として有機化学と無機化学があり、有機物を扱うのが有機化学、無機物を扱うのが無機化学であると紹介しました。ところで、化学の分野の1つに有機金属化学というものがあります。よく見ると有機に対して対義の無機物であるはずの金属が名前に入っており、1つの語に相反する語のペアが含まれています。その有機金属化学とはどのような分野なのでしょうか?

有機金属化学を簡潔に表すと、有機物と金属の両者で構成された物質を扱う分野になります。有機物の中には金属と結合して化合物を作ることができるものがあります。(詳しく知りたい方は”錯体”や”配位子”といった言葉を調べてみてください。) また、金属と結合している有機物は我々の服やアクセサリーのように脱着ができます。この性質は触媒として利用され、効率良く化学反応を促進することに応用されています。(金属の中でも周期表の中程にある遷移金属(せんいきんぞく)”が有機物の衣”¹⁾を脱着できる性質を持ちます。)

触媒とは化学反応を促進する物質のことです。触媒は、自身は消費されることなく何回も化学反応に参加し反応を促進します²⁾。過去にノーベル賞を受賞した鈴木・宮浦カップリングは触媒反応の良い例で、パラジウム(Pd)という金属が触媒として採用されており、このパラジウムが2つの分子を1つの分子に結合させる役割を担っています³⁾。

少し難しい話になりましたが、例を用いると次のように表されるかもしれません。「A君はBさんと仲良くなりたいが、どう話しかければよいか分からない。でも、2人の共通の友人であるC君がその場に現れたことで、C君を介してA君とBさんが仲良くなることができた。」という話では、C君が触媒の役割に相当すると言えるでしょう。

※一般向けの解説なので厳密性を欠いた表現があります。ご了承ください。補うために注釈を付けました。

1) 配位子を”有機物の衣”と表現しましたが、実際の配位子は有機物だけに
 限りません。水素、塩素や一酸化炭素などの無機物も配位子になり得ま
 す。
2) あくまでも理想的な場合です。実際は失活します。触媒回転数
 (TON, Turnover number)という言葉を調べてみてください。
3) カップリング反応は単に「2つの分子が1つに結合する」と表現するより、
  「触媒が酸化的付加を受けて生成した中間体がトランスメタル化を起こし
    た後、還元的脱離が起こり新たな結合が生成する」と表現した方が厳密
    です。前者のみでは広範囲の反応が該当してしまいます。