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「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆第1話

「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆
あらすじ

500万人のフォロワーと事業家の顔を持つ高校生YouTuber修哉は、突然、主人公・京香の通う高校で「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」の開催を発表。
漫画が発祥ではないかと言われている「いっけな~い!遅刻遅刻!」とパンを咥えて走る少女の起源は実は修哉の祖母のトミエであった。
祖父と通学路でぶつかり恋に堕ち結婚したトミエ。
お婆ちゃん子の修哉は、トミエのような女性と出会う為には同じ状況を再現するしかない、トミエの母校に転校した初日に通学路でぶつかった女子高生と結婚する!と宣言。
京香は彼氏の和樹に別れを告げ大会出場を表明。
京香の同級生も次々と参加を表明する。
選手権の結末は?
そして京香の大会出場の真の目的は?

補足
●「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆
人物表(4話以降に登場する人物も含む)

望海京香(のぞみ きょうか)(17) 高校二年生 ゼッケン0005

相澤修哉(あいざわ しゅうや)(18) 高校三年生YouTuber

新田菜緒(あらた なお)(17) 高校二年生TikToker ゼッケン0070

望海希子(のぞみ のりこ)(15) 京香の妹。中学三年生

宝生みのり(ほうじょう みのり)(5) 京香の幼少期の親友

能岡和樹(よしおか かずき)(16) 高校二年生 京香の彼氏

街義瑞稀(まちよし みずき)(17) 高校二年生 ゼッケン0144

中井香織(なかい かおり)(16) 高校二年生 ゼッケン0115

道衣渚(どうい なぎさ)(17) 高校二年生 ゼッケン0173

茂手木宣子(もてぎ のぶこ)(17) 高校二年生

鳥越琴李(とりごえ ことり) (16) 高校一年生 ゼッケン1050

巻島麻希(まきしま まき)(16) 高校一年生 ゼッケン0905

相澤爽太(あいざわ そうた)(44) 修哉の父

相澤トミエ(72) 修哉の祖母

相澤大五郎(72) 修哉の祖父

トミエの担任教師(30)

幼少期の京香(5)

幼少期の修哉(6)

相澤トミエ(高校時代)(16) 旧姓:大原

相澤大五郎(高校時代)(16)

池田内蔵(いけだ ないぞう)(44) ICCC研究家

12年前・京香の母(30)

12年前・みのりの母(31)

京香の担任(30)

校長先生(58)

サンホ(19) アイドルユニットCUTメンバー

チャンス(19) アイドルユニットCUTメンバー

飛田登美雄(50)鳶使い

修哉のYouTubeスタッフ

情報番組女性キャスター

女性レポーター

審判員A、B、C


第1話

○公園
T・202×年5月中旬(土)〈和樹がフラれた日〉
ボーイッシュなショートヘア、黒髪の望海京香(17)がモジモジしながら歩いてくる。
公園でソワソワしながら待っている能岡和樹(17)。
京香が和樹の少し手前で立ち止まる。
和樹「おう、京香。どうした急に。こんなところに呼び出して」
京香「カズ君…あの…」
和樹「何々?どうした?」
京香「話があるんだけど」
和樹「な、何?改まって」
京香「あの」
和樹「はい」
京香「私と…」
和樹「はい」
京香「私と…別れてください」
和樹「え、え?!なんで?!理由は??」
京香「それは…」

T・「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆

○スタジオのような場所
池田内蔵(44)がスクリーンの前に立っている。
第四の壁を越えて読み手に話しかけてくる池田。
池田「どうも。私、『いっけなーい!遅刻遅刻!』研究家の池田内蔵と申します」
T・「いっけなーい!遅刻遅刻!」研究家 池田内蔵
深くお辞儀する池田。
池田「これから皆さんに『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』について簡単に説明をさせて頂きます。まずはこちらのスライドをご覧ください」
スライド画面に「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』とは?」の表示。
池田「まず『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』の主催者は…」
スライドに「相澤修哉(18)の写真と「高校生YouTuber相澤修哉(通称・シュウチン)」の文字。
池田「高校生人気YouTuber、シュウチンこと相澤修哉君でございます」
スライドに修哉のYouTubeの配信画面を切り取った画像が映る。
池田「修哉君は今年18歳の高校三年生。13歳で始めたYouTubeチャンネルに今では500万人の登録者がいる超人気YouTuberでございます」
スライドに修哉が外国人実業家らしき人物と握手している写真。
池田「配信で稼いだお金で始めた事業も次々と大成功。高校生ながらも巨万の富とカリスマ的人気を持つ超有名人。その彼が主催するイベントが『いけなーい!遅刻遅刻!選手権』なのです。さて…」
スライドに「そもそも『いっけなーい!遅刻遅刻!』って何?」の表示。
池田「そもそも『いっけなーい!遅刻遅刻!』とは何なのか」
スライドにパンを咥えて走る女子高校生のイラスト。
池田「皆さんもこちらの、少女が遅刻ギリギリで朝食のパンを咥えて走るシチュエーションを漫画やアニメ、ドラマ等で何となく見たことがあると思います。この『いっけな~い!遅刻遅刻!』とパンを咥えて走る少女の起源は、漫画が発祥ではないかと言われています。しかーし!」
スライドに「食パン」「遅刻というシチュエーション」「男性とぶつかって恋に落ちる」の文字。
池田「過去に出版された漫画作品の中で、"食パン""遅刻というシチュエーション"、その後、"男性とぶつかって恋に落ちる"のすべてを満たしている作品は未だ発見されていないのです」
池田、辺りを見渡し咳払いする。
池田「だがしかーし!マンガでの創作だと思われたパンを咥えて慌てて家を出る少女に、実在するモデルがいたとしたら?」
(B.O)

◯セピア色のフィルム映像
●トミエの家・ダイニング(朝)
T・196×年・初夏
昭和レトロなポップアップトースター。
その横には白黒テレビ。
トースターがカシャッ!とトーストを吐き出す。
高校の制服姿の相澤トミエ(16)が素早く食パンのトーストを手に掴む。

●同・玄関前(朝)
「大原」の表札。
食パンを咥えたまま家を飛び出すトミエ。
T・相澤トミエ(16)(当時)(旧姓:大原)

●通学路(朝)
トミエ、走りながら食パンを一口食べる。
トミエ「いっけなーい!遅刻遅刻!」
食パンを咥え、スピードを緩めず角を曲がるトミエ。
曲がった瞬間、激しい衝撃と共に道路に倒れ込むトミエ。
宙に飛ぶ食パン。
その瞬間、トミエとぶつかったと思われる何者かが、空中の食パンを素手でキャッチし反対側に倒れ込む。
トミエ「(上半身を起こしながら)いったーい!…ちょっとあんた!どこ見て歩いてんのよ!」
学生服の埃を左手ではたきながら、涼しい顔で立ち上がる男子高校生ーー相澤晴太郎(16)。
T・相澤晴太郎(16)
晴太郎「そっちこそ。人が多い時間帯に歩道を走るのは感心しないな」
晴太郎、右手の食パンをトミエに差し出す。
晴太郎「安心しろ。地面に落ちる前にキャッチした」
トミエ「あ…(恥ずかしい)」
トミエの顔が見る見るうちに真っ赤になる。
晴太郎と目を合わせず、ひったくる様に食パンを受け取るトミエ。
晴太郎「たいした怪我も無いようだな。それじゃあ」
晴太郎が立ち去っていく。
トミエ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!…何なのアイツ。腹立つわ〜!!」

●高校・校門前(朝)
「私立 合陣(ごっちん)高等学校」の銘板。
走ってくるトミエ、校門に辿り着く。
トミエ「(息が荒い)はぁ、はぁ…」

●同・校門内(朝)
校門を入ったところに植樹したての背丈ぐらいの大きさの欅の木。
その横のベニヤ板で出来たほったて小屋に「管理人室」と書かれている。
その隣を駆け抜け、校舎に向かうトミエ。

●同・「2年1組」教室前(朝)
出入り口の引き戸の上の「2年1組」のクラス札。

●同・「2年1組」教室内(朝)
入ってくるトミエ。
トミエ「はぁ…間に合った」
× × ×
朝礼の光景。
教壇に担任教師(30)。
担任「今日からこのクラスに転校生がやってきた。紹介しよう。相澤晴太郎君だ」
ドアを開けて入ってきた転校生――晴太郎を見て、トミエ、思わず立ち上がる。
トミエ「えーっ!嘘でしょ!」
担任「なんだ知り合いなのか。じゃあ、相澤、大原の隣に座りなさい」
トミエ「(顔を真っ赤にして)違います!違います!知り合いじゃないです!違うんですって!」
池田の声「という訳で『いっけなーい!遅刻遅刻!』の食パンを咥えた少女のモデルはなんと…相澤修哉の祖母の相澤トミエだったのです」
(B・O)

◯スタジオのような場所
再びスクリーン前の池田。
池田、スタジオ内を歩きながら、
池田「トミエと晴太郎の二人は最初は些細なことで喧嘩を繰り返すも、やがてどちらともなくお互いを意識し、夏休み明けから付き合い始め、卒業後に結婚。暫くしてトミエは修哉の父親である息子・爽太を出産。成人した爽太は修哉の母の逸美と結婚。そして2人の間に修哉が産まれました。さて改めまして…」
スライド画面に「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』とは?」の表示。
池田「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』とは?これについてはーー」
スライド画面に再度「相澤修哉(18)の写真と「高校生YouTuber相澤修哉(通称・シュウチン)」の文字。
池田「ーーここは改めて主催者本人に語って貰いましょうか。それでは続きをどうぞ」

◯京香の家・外観(夕)
二階建ての木造の日本家屋。
強めの雨が降っている。

◯同・二階・京香の部屋(夕)
T・202×年5月上旬(土)〈和樹がフラれる1週間前〉
窓から外の雨の様子が見えている。
こざっぱりとした部屋。
京香のベッドの隣のサイドテーブルに幼稚園時代の京香(5)と新城みのり(5)の写真。
園児服にそれぞれ「のぞみ きょうか」と「しんじょう みのり」の名札。
みのりは明るい髪色でボーイッシュなショートカット、緑色の瞳が印象的な美少女である。
快活な印象のみのり。
京香は肩まで伸びた黒髪のセミロング。
おとなしそうな印象の京香。
望海希子(15)の声「ねえねえ、お姉ちゃん」

◯同・二階・希子の部屋(夕)
京香の部屋の隣りの女の子らしい内装の部屋である。
大きなモニターに映るゲーム画面。
ゲームコントローラーを握った京香と和樹の熱いカーレースが繰り広げられている。
プレイヤー名「きょうか」と「かずき」。
「きょうか」が勝利し、「かずき」敗れる。
京香「ウォーッ!!(雄叫びとガッツポーズ)」
ガクッと項垂れる和樹。
和樹「ちょっとは手加減しろよ。初心者なんだから…」
京香、少し離れた机でスマホを弄ってる希子に向かって、
京香「ん?何、希子。呼んだ?」
希子、スマホを置いて京香に、
希子「お姉ちゃん、知ってた?今日の18時からシュウチンが緊急生配信やるって」
京香「18時からなんて?」
希子、壁の時計を見る。
時計の針が17:50を指している。
希子「シュウチンの生配信。そろそろ始まるんだけど…」
京香「あー…そう、そうなんだ」
京香、ゲームコントローラーを床に置く。
京香「(床を見つめて物想いに耽る)…」
京香の様子に気付かない和樹と希子。
和樹「シュウチンって…YouTuberの?」
希子「そう…アレ?和樹さんよく知ってるね」
和樹「あれ?バカにしてる?知ってるよ、超有名人だし…のりちゃん、そういう態度は良くないよ。君は将来、僕のことをお兄さんと呼ぶことになるかも知れないんだから」
希子「お姉ちゃん、和樹さんが何か言ってる。私に『お兄さんと呼べ』だって」
京香、我に返り、
京香「え?はい?どゆこと?」
和樹「ど、どゆことって…つまり…僕と京香は付き合ってる訳だから、つまりその…将来的には、け、結婚してもおかしくはない訳で…」
京香、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、
京香「付き合ってるとは?…」
和樹「ちょ!…付き合ってるっしょ?!こうやって家に招かれて妹さんとも一緒に和気あいあいとTVゲームしてる訳だし。ま、まだ付き合いたてだから、何も恋人らしいことはしてないけど。」
希子「え?もう三ヶ月ぐらい経つよね?和樹さんまだお姉ちゃんに手出してないの?」
和樹「そ、それは…機会とタイミングが合えば…」
京香「(和樹に)ちょいちょい!中学生の妹の前で!ちょっと自嘲して!(希子に)希子、手を出すとか出さないとかお前にはまだ早い」
希子「今どきの中学生なめんなよ。私だってお姉ちゃんには言わないけど色々と…」
和樹「(遮るように)わー!言わなくていい!言わなくていい!…彼女の妹の赤裸々な告白なんか聞かされてもこっちもリアクションに困るわ」
京香「ところで希子、緊急生配信ってどんな?」
和樹「切り替え早っ」
希子「あ、うん、えーっとそれが…とにかく緊急生配信とだけしか分からなくて…」
京香「ふーん…そうなんだ」
希子「どうせならお姉ちゃんも和樹さんも一緒に観ようよ。今からモニターとパソコン繋ぐね」
和樹「手伝おうか」
希子「ありがとう和樹さん。あ、お兄ちゃんって呼んだ方がよかった?」
和樹「(嬉しそうに)やめてよのりちゃん…よし、今度のりちゃんの好きなベルギーワッフル買ってきてあげよう」
希子「わーい!やった!」
京香「…(苦笑)」
パソコンとモニターを繋いでいる希子と和樹。
微笑ましく見つめている京香。

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
スタジオ内の時計が17:57の表示。
iPhoneカメラ、マイク、照明の前で生配信前にメイク担当にドーランを塗られている修哉。
修哉「(リラックスした表情)…」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
希子、壁時計の針が18:00になったのを見て、
希子「そろそろかな」
モニターのYouTubeの画面には「『シュウチンちゃんねる緊急生放送 しばらくお待ちください』の文字。

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、iPhoneの画面内の配信開始のボタンを押す。
修哉「はい、お待たせしました〜!始まりました!『シュウチンちゃんねる緊急生放送』〜」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
モニターのYouTubeの画面に「配信中」の文字と共に生配信中の修哉の姿が映し出されている。
希子、和樹と京香を振り向き、
希子「始まったよ!」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
喋っている修哉。
修哉「スタジオの周りは雨が降ってます。前回の生配信は…1ヶ月前。間が空いちゃいましたね。四月の僕の誕生日スペシャルでした」
修哉、画面のコメント欄を見ながら、
修哉「(コメントを読み上げる)『誕生日四月なんだね。遅れたけどおめでとう』。お祝い遅っ!(笑)。いやいやありがとう。これを機会に覚えてね(笑)。ということで僕も四月で18歳になったんですよ。成人ですよ、成人(笑)。というわけで、さっそく本題に入りたいんですが…」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
モニターを観ている希子、和樹、京香。
和樹「勿体ぶらないで早く言えし」
希子「和樹さんうるさい」
京香「ちょっと希子(笑)」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、フリップを取り出す。
修哉「それでは発表します!」
ドラムロールのSE。
SEが鳴り終わると共にフリップをひっくり返す修哉。
「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』開催決定!」の文字。
修哉「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』を開催します!」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
希子、和樹、京香、モニターに映る「『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』開催決定!」の文字を見ながら、
希子「なになに?」
和樹「なんじゃそりゃ」
モニターの中の修哉「夏か秋頃に僕は郊外のある町に引っ越します」
希子「郊外。どこだろ」
和樹「田舎に引っ込んでスローライフってやつか?」
京香「…(少し眉間に皺を寄せる)」
モニターの中の修哉「そして、その町のとある高校に転校しようと思ってます」
和樹「シュウチンって俺らの一個上の高三だろ?この時期に転校なんて珍しい…」
京香「…」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、喋っている。
修哉「そして転校初日の朝、最寄り駅から学校までの通学路で曲がり角でぶつかった同じ高校の女子高生と、僕は…結婚します!」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
和樹、希子、京香。
和樹「は?!シュウチン、トチ狂ったか」
希子「シュウチンと結婚出来るの?ヤバ!ヤバいじゃん!」
京香「…」
修哉の真意が分からず、次の言葉を待っている京香。
和樹「18で結婚って…ていうか相手も自分も高校生じゃん」
希子「18歳から法的には結婚出来る。相手が18歳未満なら18まで待たないと駄目だけど」
和樹「てかシュウチンって結構遊んでるよね。あのアイドルの子との噂どうなった?」
京香、修哉の配信画面をまじまじと見る。
モニターの中の修哉「実は転校先は僕のおばあちゃんの出身高なんです。祖母は卒業後もずっとその近くに住んでいて…言っちゃなんだけど、かなりの高齢で…今のところ元気だけど、遠くない将来、いつ先にぽっくり言ってもおかしくないわけで…」
希子「おばあちゃん孝行で引っ越すんだ」
京香「…」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、喋っている。
修哉「そんなおばあちゃんが元気なうちにせめて、僕の花婿姿を見せてあげたいと思って」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
希子、修哉、京香。
和樹「女が花嫁姿見せたいとは言うけど、男が花婿姿見せたいとか言う?普通」
希子「シュウチンステキ!」
モニターの中の修哉「相手が18歳未満ならもちろん18になるまで待ちます。その場合は婚約したいと思います」
希子「ちなみに婚約出来る年齢に法的制限はないみたい」
和樹「そうなの?」
モニターの中の修哉「ところで…僕は運命という言葉が好きです」
和樹「運命?!はい?彼、大丈夫?悪い宗教にでも入った?」
モニターの中の修哉「僕の祖母は高校時代、朝、食パンを咥えて学校に行く途中で転校初日の男子高校生と曲がり角でぶつかり、そこから恋が始まり、そして結婚しました」
希子「うそ!?マジで!?」
和樹「そんなマンガみたいな話があるかよ」
モニターの中の修哉「実は祖母がこの話を知り合いの漫画編集者に打ち明け、後日このエピソードはその人の担当する漫画家の漫画に採用されたそうです。つまりーー」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、喋っている。
修哉「『いっけなーい遅刻遅刻』の食パン少女のモデルは僕の祖母なのです」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
希子、修哉、京香。
和樹「そのマンガどこにあるんだ持って来いよ」
モニターの中の修哉「そのマンガが掲載された漫画雑誌は、出版直前に出版社がつぶれ、廃刊となりました。雑誌は本屋に並ぶ前に全て出版社に回収されたとのことです」
希子「ねえ和樹さんとシュウチン会話してる?これ今、生放送中だよね。シュウチン、和樹さんの声聞こえるの?」
モニターの中の修哉「とにかく…僕は祖母のように優しくてステキな女性と運命的に出逢いたいのです」
和樹「通学路でぶつかって?メンヘラかおまいわ!狂ってる」
モニターの中の修哉「なので僕は祖母が通った同じ高校に転校し、初日に通学路でぶつかった女性と是非結婚したいのです」
和樹「こいつYouTuberじゃなかったら単なる社会不適合者だろ。良く今まで事業成功させたり、モデルやアイドルと付き合ってこれたな」

◯修哉の個人スタジオ内(夕)
修哉、喋っている。
修哉「僕も今まで色々な女性と付き合ってきました。しかし、どの人もおばあちゃんには敵わなかった」

◯京香の家・二階・希子の部屋(夕)
希子、修哉、京香。
和樹「とんでもないグランマザコンだな」
希子「グランマザコン」
モニターの中の修哉「僕には女性を見る目が無いのかもしれない。なので逆に…運命に身を任せて見ることにしました」
モニターの中の修哉が喋り続けている。
和樹「いかん、こいつ頭おかしい」
京香「…(何かを考えている)」
希子「(和樹に)さっきからちょっと!…和樹さん言い過ぎだよ。シュウチンの考え方ステキじゃん」
和樹「えっ、のりちゃんマジ!?」
希子「私が参加資格あったら絶対応募してる!だってシュウチンだよ?!超絶お金持ち!未来安泰!その人のお嫁さんになれるんだよ?!こんなチャンス二度と無いよ」
和樹「そうかな…納得いかねえ」
希子「あ…もちろん和樹さんもお姉ちゃんの素敵な彼氏だと思うけど」
和樹「(皮肉っぽく)取ってつけたようなフォローどうも」
希子「いや、取ってつけてなくて本当に…」
和樹、ため息。
京香「…」
一点を見つめ、何か考えてる京香。
和樹、京香の様子には気付かず、
和樹「ちょっと外の空気吸いたくなってきた。ていうか帰ろうかな」
希子「帰っちゃうの?まだ雨降ってるよ」
和樹「今夜はずっと雨だって天気予報で言ってた」
希子「それにまだ配信続いてるし」
和樹「どうせうちの高校じゃないっしょ。それに俺は男だから関係ないし。興味ない。帰る」
和樹、部屋の外へ。
希子「和樹さんゴメン…お姉ちゃん」
京香、我に返る。
京香「あ、うん」
京香、立ち上がる。
京香「送ってくる」
希子「ゴメン、なんか…和樹さんに謝っといて」
京香「うん。でもカズちゃんは優しいから大丈夫」
希子「そうだよね…生配信、最後まで観れなくなっちゃったね。」
京香「どうせアーカイブ残るでしょ」
希子「確かに」
京香「最後まで観たら…アーカイブのURLをコピって私のスマホに送っといて」
希子「りょ」
京香「じゃ宜しく」
京香、部屋を出ていく。
× × ×
部屋の時計が21:00を指してる。
ベッドでスマホを弄ってる希子。
ノックの音。
京香の声「希子、今大丈夫?」
希子「お姉ちゃん、帰ってたんだ。どうぞ」
部屋着に着替えた京香が入ってくる。
京香「カズちゃん、別に怒ってなかった。大丈夫」
希子「そっか。良かった…」
京香「配信のやつ、どこの高校で実施するかは後日発表だってね」
希子「アーカイブのチェック早っ!そうらしいね。どこなんだろ」
京香「希子、あのさあ…」
希子「何?」
京香「…なんでもない。おやすみ」
京香、部屋を出ていく。
希子「おやすみ…ってまだ9時だけど?」

◯同・京香の部屋(夜)
入ってくる京香。
京香、サイドテーブルの幼稚園時代のみのりと京香の写真スタンドを手に取る。
写真の中のみのりの顔を見つめている京香。
京香「…」
部屋の外は雨が降りつけている。

◯照りつける太陽(朝)

◯合陣高校・体育館・外観(朝)
T・二日後 202×年5月中旬(金)
爽やかな晴れ模様。

◯同・体育館・内(朝)
全校生徒が集められている。
ざわついてる場内。
やってくる京香。
街義瑞稀(17)が京香に、
瑞稀「京香、おはよう」
京香「あ、瑞稀、おはよう」
道衣渚(17)と中井香織(16)が現れ、
渚「何だよ、臨時の全校朝礼って。聞いたことないんだけど」
香織「確かに…」
渚「あ、京香、瑞稀、おはよう」
京香「渚、香織、おはよう」
次々と挨拶を交わす京香、瑞稀、渚、香織の四人。
× × ×
少し離れたところ後方に和樹の姿。
和樹、壇上を見ている。
壇上にスクリーンが準備されている。
和樹「(独り言)スクリーンが降りてるな…」
× × ×
そんな和樹の顔を盗み見ている瑞稀。
和樹がこちらを見た瞬間、目を逸らす瑞稀。
京香、そんな瑞稀の様子を見て、
京香「?」
× × ×
壇上に校長先生(58)が現れる。
校長先生「どうもどうも。いやー、皆さん、急に集まって貰ってすいませんね。とりあえずまずはスクリーンを見てください。どうぞ」
場内が薄暗くなり、スクリーンに映像が映る。
生徒たちから「え?!」「嘘でしょ?」「マジか?」という声が飛び交う。
スクリーンに映る男性はーー修哉だった。
スクリーンの中の修哉「突然すいません。合陣高校の皆さん、こんにちは!」
生徒たちどよめく。
渚「シュウチンだ」
香織「ウソでしょ?!」
京香、瑞稀「!!」
× × ×
離れた場所の和樹。
和樹「シュウチン!マジか!」

◯スクリーンの映像
修哉が喋っている。
修哉「改めまして、こんにちは。ていうかおはようございます。高校生YouTuberシュウチンこと相澤修哉です」
生徒たちの悲鳴のような歓声とどよめきと拍手。
修哉「今回、校長先生に無理言って皆さんに集まって貰いました。本当にすいません(頭を下げる)」

◯同・体育館・内(朝)
和樹、スクリーンを観ながら、
和樹「校長に頼んだ?全校朝礼を?どんな力使ってんだよ」
× × ×
渚、香織、京香、瑞稀。
渚「そういえば…シュウチンがうちの学校に毎年多額の寄付してるって噂で聞いたことある。アレ、本当だったんだ」
香織「やっぱ超金持ちじゃん。すげえ」
京香「…」

◯スクリーンの映像
修哉が喋っている。
修哉「時間もないので本題に入りますね。先週土曜日の生配信を見て貰った人はご存知かと思いますが、私、『いっけなーい!遅刻遅刻!選手権』という催しを企画しております。詳しくは先日のアーカイブを観て欲しいんですが、その舞台となる学校を後日発表することになっていて、その学校とはズバリ…こちらの合陣高校でした!企画の趣旨を説明して校長からも快諾を貰いましたので、無事、開催可能となりました!ありがとうございます!」

◯同・体育館・内(朝)
女子生徒たちから悲鳴のような歓声。
スクリーンの中の修哉はまだしゃべり続けている。
渚、香織、瑞希、京香。
渚「『遅刻遅刻!選手権』結局、うちの高校かよ」
香織「マジ凄いんですけど」
瑞稀「(京香に)シュウチン、うちの学校に転校してくるんだね」
京香「…」
× × ×
和樹、スクリーンを観ながら、
和樹「それって結局、個人の嫁探しイベントだろ。それにOK出す校長どうかしてるだろ」
× × ×
興奮に包まれてる体育館内。
一番後方の扉の近辺でひっそりと佇む3人の女子高生のシルエット。
新田菜緒(17)、鳥越琴李 (16)、巻島麻希(16)。
菜緒「…(口元に笑み)」

◯公園
T・202×年5月中旬(土)〈和樹がフラれる日の続き〉
京香と和樹。
京香「ということで私と別れてくれないか」
和樹「何が『ということで』だよ!おかしいでしょ」
× × ×
京香と和樹から少し離れた茂みの陰に瑞稀がいる。
瑞稀「…(和樹の顔を真剣に見ている)」
京香も和樹も瑞稀に全く気づいていない。
× × ×
京香、プリントアウトした「いっけなーい!遅刻遅刻!選手権」の応募規定書類を取り出し、和樹の目の前に突き出す。
京香「応募規定に『現在パートナーがいる人はご遠慮ください』とある。別れないと応募出来ないのだ」
和樹「…そんなにもシュウチンが…そりゃ向こうは大金持ちだし、俺には敵う部分がない。けれども」
京香「けれども?」
ゆっくり和樹に向かって歩き出す京香。
和樹「…京香を思う気持ちは誰にも負けない」
× × ×
瑞稀、和樹の言葉を聞いて複雑な表情。
瑞稀「…」
× × ×
和樹「だから…」
京香、和樹の目の前で立ち止まる。
和樹の唇に人差し指をあてる京香。
京香「ストップ」
和樹「…!」
京香「とにかく…そういうことだから」
和樹「…」
京香、踵を返し、
京香「バイバイ。楽しかった。好きだったよ」
和樹「京香」
京香、和樹に背を向けたまま立ち止まる。
和樹「俺は…今も好きだから」
京香「…」
京香、後ろ手に手を振り、和樹の前から去っていく。
(2話に続く)

#創作大賞2023 #漫画原作部門



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