【都内医大生が考える】武蔵野日赤が学生に断トツ人気なワケ
つい先日、2021年度の初期臨床研修病院のマッチング中間発表がありました。中間発表は「ある病院を第一希望にしている学生の数」が公表される唯一の機会であり、研修病院の人気を表すパロメーターとして注目を集めます。
この中間発表において昨年、数・倍率の両方で圧倒的一位に君臨したのが武蔵野赤十字病院です。それまでも上位でしたが、2020年度は数の上で負けていた虎の門や亀田総合なども圧倒。10人の定員に第一希望人数97人と、一つの大学の定員ほどの人数が押し寄せ大きな話題になりました(マッチング希望を出したのは160人)。
「今年はどうなるのか」と注目されていましたが、なんと昨年を上回る第一希望人数101人となり、昨年度が偶然でないことを証明してみせました。
※参考 プログラム別 第一希望倍率
Twitterを見ていると「なんでこんなに人気なのか分からない」という声が多かったので、本気でマッチングに取り組んでいる都内医学部5年生の立場から、武蔵野赤十字病院がなぜ人気なのか解説したいと思います。
【注意】
2022年は川崎市立川崎病院に敗れましたが、川崎病院が人気な理由も殆ど同じです。
スペックの確認
【待遇】
・基本給301,020円+手当(時間外、当直、住宅手当など)
1年次の月額見込:額面46万円(公式サイト)
(まわりの話だと、実際はもう少し高そう)
・寮あり
【立地】
・武蔵野市。中央線武蔵境駅から徒歩10分
・ジブリの森などがある三鷹・吉祥寺エリア。大学や高校が多い地域。
・病院周囲はただの住宅街。患者層は良好。
・病院から新宿までは30分程度。
【環境】
・24時間営業のコンビニとタリーズが入っている。
・職員食堂はレベル高い。コロナ前はブュッフェスタイルだった。
【教育】
・週3-4程度の勉強会
・救外は1年目と2年目でファーストタッチ
・上級医はかなり教育熱心
【忙しさ】
・当直は当直・宵直(23時まで)・日直(土日)をそれぞれ月2~3回ずつ
・当直明けは午前終わり
・総診救急は朝6時前から。それ以外は8時くらいでOK
【選考】
・提出物は履歴書と自己PR文のみ。CBTどころか成績証明書もない。
・面倒な小論文もなし。
・選考日当日は面接のみ。
【同期】
・上述の通りほぼ面接一発勝負で、倍率10倍から選ばれる。
・清潔感があり、コミュニケーション能力に優れた人しかいない。
人気理由① 欠点がない
正直、これに尽きます。上で挙げたスペックは高水準ですが、特別なものはありません。もっと高給な病院も、都心にある病院も、教育熱心な病院もあります。より忙しい病院も、暇な病院もあります。そのせいであまり初期研修について調べていない人は「なぜこんなに人気なんだ?もっといい病院あるのに」となります。
しかし私が知る限り、東京のあらゆる病院で、武蔵野日赤より良い面がある病院はそれを帳消しにするデメリットがあります。たとえばより高給で都心にあり、教育にも熱心な病院として虎の門病院が挙げられますが、かなりハードです。とても「プライベートと両立」という雰囲気ではありません。
もし武蔵野赤十字の上位互換があれば、DMからご連絡ください笑
人気理由② 価値観の変化
昔は「忙しくても勉強になればいい。初期研修中のQOLや給料は些事」という価値観の人が多かったようですが、今は違います。非常に熱心で情熱がある学生であっても「生活に困らない収入と十分な睡眠、たまに飲みに行く位の余暇」は譲れない要素だと考えているように感じます。
ちょっと皮肉っぽい書き方をしましたが、同級生を見ていて一番多いのはこんな考えの人です。「初期研修なんてどこでも同じ。楽がしたい」という無気力層まで現れる始末ですが、それもマジョリティではありません。武蔵野日赤の条件は、プライドとQOLの両立を目指すイマドキの医大生に一番刺さる、絶妙なバランスだと思います。
人気理由③ 見学者が多い
周囲を見渡すと、武蔵野日赤に見学に行った医大生は結構います。彼らは募集要項を読み込んで、選考に応募するつもりで見学に行くのではありません。むしろあまり研修病院を調べていない人が多いです。
こんな感じで、今の武蔵野日赤は、人気が人気を呼ぶ状況にあります。マッチングにさほど熱心でない学生でも、医学部6年生で武蔵野日赤を知らない学生はほとんどいません。そして私の印象では、武蔵野日赤は割と見学を受け入れてもらいやすいです。例えば聖路加国際病院も名うてのブランド病院ですが、ここは「見学は2日以上。曜日も指定。見学中の態度も審査」という感じで、思いつきで行くにはかなりハードルが高いです(それでも長期休暇中の定員は即埋まりますけど)。武蔵野日赤はそういった条件が殆ど無いですし、コロナ禍でも比較的見学できていた印象です。そして大量に見学者がいるせいで、見学時の態度が選考に絡むこともないという噂です。
こうして気軽に見学にいくと、美味い食堂とコミュ力の高い研修医のおかげで好印象が残るという流れになります。
人気理由④ 選考に応募しやすい
例え武蔵野日赤に惹かれたとしても、簡単に人気病院にマッチ出来ると思うほど医大生は楽観的ではありません。ただ上述したように、武蔵野日赤は殆ど面接一発勝負になります。履歴書や自己PRは普通のマッチング対策をしていればカバー出来る一般的な内容ですし、選考試験のために勉強する必要もないので、ダメもとで受けるとしてもコストは少なめです。初期研修マッチングは第1希望でも第2希望でもマッチ率は変わらないので、「万が一マッチしたら武蔵野日赤、駄目でも本命の第2希望病院に挑戦」という運試し感覚で選考に参加する人もかなりいる気がします。
また何だかんだ言っても、医大生は自己肯定感が高い集団です。面接と履歴書のみという武蔵野日赤の選考は、「有名大学だから」「成績優秀だから」「一芸があるから」「コミュニケーションに自信があるから」と、自分の中に勝算を見つけてチャレンジしやすい内容だと思います。
あれこれ理由を挙げましたが、一番はやはり欠点がないことだと思います。揚げ足をとろうとしても「やや忙しい」「選択期間が短い」くらいしか思い浮かびませんし、これも人によっては欠点にならないでしょう。ハイパー薄給気味のブランド病院の労働条件が改善しない限り、暫く武蔵野赤十字病院の人気が揺らぐことはないように思います。
【追記】川崎市立川崎病院と比べて
2022年は倍率を落とし、川崎市立川崎病院に一位の座を明け渡しました。
川崎病院の条件は武蔵野日赤に近く、人気理由の①~④が全て当てはまります。
昨年の武蔵野日赤があまりに高倍率だったため、競争を避けた人達が殺到した形かと思います。
一方で有名ハイパー病院ほどではないものの、武蔵野日赤はそこそこハイパーな病院です。川崎病院は休日がきちんと休みで、選択期間も長く、よりメリハリがハッキリしています。
『私生活を大事にしながら研修をしたい』という、悪く言えば「ハイポ志向」の高まりが倍率の変化に反映されているように思います。
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