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有里 馨
2014年5月24日 00:30
一枚の原稿用紙。 使い古された万年筆ひとつ。 机の上にあるのはただそれだけ。 紙の上でなら、何にでもなれる。 空を飛べる。海を自在に泳ぐことが出来る。 望むまま何処にだって行ける。誰だってヒーローになれる。 犯罪ですら、裁かれることなく思いのまま。 夢を綴る。 筆を走らせて、自らの望みを写し取る。 そこに紡がれるのは決して綺麗ではない自分の字。 けれど、切実さの滲む己の
2014年5月22日 11:20
声が出ない。「あー、こりゃ完全に喉腫れてんな」「あのね、ごほっ」「こら、無理に話そうとすんな」 唇から零れるのはひゅーという息の音。 声を出そうとすれば、痛みが言葉を阻害する。 今日は彼に言いたいことがあった。 だから、体育館裏に呼び出したというのに、これではなんの意味もない。 まさか緊張で寝つけなかった報いがここでくるとは……「話ならいつでも聞くからさ。今日は止めと
2014年5月20日 22:23
じりりりりり、と心の奥を掻きむしる音が響く。 音はまだ止まない。 携帯の液晶に映るのは愛しいあの人の名前。 もう何コール目だろう。 何度鳴らしても誰も出ないというのに、それはこりもせずに鳴り続ける。 じりりりり、と不快な音を響かせて、頼むから出てくれと懇願するように。 それから怯えた目を離して、彼女は震える体を一層丸め込んだ。 真夏だというのに彼女は震えている。 噛み合
2014年5月10日 23:22
ほかに命亡きその地でも、白は夜を裂いて咲く。 今日も、予言の星は咲く。 かのベツレヘムの地では、聖人の誕生を知った王が自らの権威の失墜を恐れ、その地の男児を皆殺しにしたという。 とはいえ、目当ての児は聖女とともに逃げ遂せてしまったのだが。 無関係の児を巻き込み、仇の彼は生き残ってしまう。 その夜にも、ベツレヘムの星は輝いていた。 時代が変わっても、無垢な白さで、星と例えられるその