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白き夢の跡

 一枚の原稿用紙。
 使い古された万年筆ひとつ。
 机の上にあるのはただそれだけ。

 紙の上でなら、何にでもなれる。
 空を飛べる。海を自在に泳ぐことが出来る。
 望むまま何処にだって行ける。誰だってヒーローになれる。
 犯罪ですら、裁かれることなく思いのまま。

 夢を綴る。
 筆を走らせて、自らの望みを写し取る。

 そこに紡がれるのは決して綺麗ではない自分の字。
 けれど、切実さの滲む己の世界。此処にしかない居心地のいい場所。
 眠りの端に引っかかった、奥底に広がる世界の断片。

 それにうずまって目を閉じる。
 想像にまみれて物語の続きを探す。

 夢の端で、ことん、と何かが落ちる音を聞いた。

 後に残るは机の下、転がる万年筆ひとつ。
 そして、未だなにも語らない原稿用紙一枚。


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りをくさま主宰
【この指止まれ】Deep Silense【オムニバス】
( https://note.mu/melcm/n/n63a648d3ba1f )

締切ギリギリになりましたが、ずっと気になっていたのでひっそりと掌編で以て参加……

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