伝焦
じりりりりり、と心の奥を掻きむしる音が響く。
音はまだ止まない。
携帯の液晶に映るのは愛しいあの人の名前。
もう何コール目だろう。
何度鳴らしても誰も出ないというのに、それはこりもせずに鳴り続ける。
じりりりり、と不快な音を響かせて、頼むから出てくれと懇願するように。
それから怯えた目を離して、彼女は震える体を一層丸め込んだ。
真夏だというのに彼女は震えている。
噛み合わない歯がかちかちと鳴った。
外でじじじじと耳障りな蝉の声。
急カーブで軋むタイヤの幻聴。
そして、あの人の骨が軋む音と、自分の甲高い悲鳴。
瞼の裏に赤が広がる。
そして、未だ鳴り続けるあの人からの発信。
音はまだ止まない。
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