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呑んで忘れたい2

「名前どうする?」店長から問われる

「別にこだわりないです本名でもいいです」

それを聞いて顎に手を当て何かを考える店長

なぜか指を折りながら数えている。

「好きなものとかないの?」

「え、音楽とかアニメは好きですかね」

「好きなアーティストは?」

「OasisとかQUEENとか」

「あ、知らないな俺、椎名林檎しか聞かないし」

・・・マジで知らんし。

「アニメは何が好き?」

「進撃の巨人とかですかね」

「いいじゃん、おっけー決めた!

 今日からエレン君でいこう!」

俺はこの日より「エレン」という源氏名を

命名された。

19:09、ここの従業員と思われる3人の男が

おそらく酒を飲んだ状態で店に入ってきた

「イチカさんうぃっすー!」

「おいお前ら遅刻してるぞ」

いや、酒飲んでる方怒りましょうよ?

「新人さんですか!」

「あぁ今日から仲良くしてくれエレンだ」

「エレンですお願いします」

「西蓮寺タクトですおなしゃす」

「桐生星雅です、分からないことあったら聞いて」

「東雲廉夜、よろ」

おい、待てよエレンってなんだよ

一人だけちょけてるみたになってんじゃん

てっきりみんなアニメからとってるみたいかと

思ったらちゃんとそれっぽい名前付いてるし。

「じゃあ廉夜、エレンの面倒見てやって」

店長はそう言葉をかけるとセカンドバックと

スマホを持って外へ出て行った

「俺らも行くか」西蓮寺と桐生も同じように

スマホでこまめに連絡をとりながら

そとへ出て行く。

「エレンくんだっけ?何歳?」

「23です」

「あぁそうなんだ俺より1コ上なんだ

 全然タメ口でいいから」

「あ、うん・・分かった・・うん」

「あ、ごめん電話だ

 もしもしお疲れ、今日会えるの?

 3日も会ってないじゃん・・

 いや無理だってそろそろ会わないと

 俺、孤独死しちゃうから、お願いきてよ

 まじで!ありがと!待ってる!じゃ!・・・

 ふぅいっちょあがっり」

「廉夜さん誰っすか?」

「え、俺のお客だよ」

「お客さんの前では違うんですね」

「みんなそうでしょ、相手の求める自分を

 提供するのが仕事じゃない?

 まぁたまに素で愛される奴いるけど

 俺ってそっちじゃないしね・・」

「勉強になります」

「敬語やめてよ、じゃあ行こうか」

「行くってどこに?」

「姫を迎えに」

映画館の前にショートカットにミニスカートの

女性が手鏡を見ながら前髪に触れている

「おまたせぇ」

「廉夜ーー久しぶり!って言っても3日前に

 会ったよね!」

「俺からすれば3日は長いから毎日会いたいし

 こいつは今日から翔に入ったエレン」

「どうもエレンです」

「はーいどうも」

この女、俺を一切見ない失礼なやつだ

女ってのはそうだ私はアナタにしか興味ないって

意中の相手にアピールしたいのだろうが

男としては誰にでも等しく丁寧に接する方が

よっぽど印象はいい、なぜ気付かない女。

「風強いし早いけど店行こう智美」

「えぇお腹空いたし焼き肉食べたいー」

「そっか、じゃあエレン店戻ってて、これ鍵」

「あぁうす」

二人は人混みの中に消えていく

何故か俺は何かの勝負に負けたような気持ちでいた

何かを争ったわけでもないが

無性に切なさを覚え店へと戻った。

店の扉の前に行くと人数人の声が聞こえる

鍵は開いてる

「おおエレンお前も飲めよ」

店長が40代ほどの女性二人を相手に

テーブルの上にすでに3本のシャンパンを

空けている、店にはきつい香水の匂い。

「アナタモノミナサイヨ!」

「社長からもう一本いただきます!シェイシェイ

 エレン、早く飲めって!」

俺の人生初のお客は中国人社長であった。

                  (続く)

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