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呑んで忘れたい4

       呑んで忘れたい4

目が覚めたのは14:07

口と目の乾きを覚えながらも

つい先ほど自分が異空間で酒を飲んでいたこと

自覚する、ずいぶんと昔のことのように感じる。

充電を忘れたスマホは青く光っている

通知が6件きている。

「今日も来てねぇ」と店長からである

そうか自分は歌舞伎町で働くのかと改めて

認識してしまう。

歯を磨き少し伸びた髭を剃って家を出た。

昨日から何も食べてないと胃袋が教えてくれる

少し早いが新宿へと向かう

こってりとしたラーメンが食べたいと

何度か行ったことのあるラーメン屋へ行く途中

ちまたで問題になっている立ちんぼと呼ばれる

女性が均等に並ぶ公園を横切る

そこには公園を囲う柵に同じように均等な

距離を保った二人組達がいる。

「なに言ってんだよ!お前がやれよ!」

少し声量を考えたほうがいいと思うほど

全力でネタの練習をする世に出ていない

お笑い芸人達がいる。

いや、まて・・俺もそうだったじゃないかと

自分は現在お笑い養成所に通う人間である

二人組達を自分とは遠い存在の人間と

見ていたが自分もその一部だと

少しの焦りを覚える瞬間であった。

「木南くんやんなぁ」

柵越しに関西なまりの男が自分の名前を呼ぶ

「そうだけど・・」

「同じクラスの高見やでぇ、最近授業来んやん」

あぁ思い出した高見は養成所4クラスあるうちの

同じ3組である同期だ。

高見は今年上京してきたという24歳だ


関西弁を使うということもあり

養成所でも目立っていた方だという記憶がある

「いま、何しててん?」

「ラーメン食べに行こうと思って」

「ちょうどネタ合わせ終わってんから

 一緒にいこや金ないけど!」

高見とラーメンに行くことになったが

そこまで仲がいいわけでもないので

少し気まずさはあった。

「いや、木南くん授業は最初のほうしか来てへんか らもう辞めたんかって思うてたけど良かったわ」

「そうなの」

「せやで、友達なんていくらおってもええから

 って友達作りに来てへんわって尖った同期に

 怒られてまうわな」

高見はすごく喋る。関西人だなぁって思う。

「でや、さっき相方と喧嘩してんもう解散やって」

「急になに?そうなんだ」

養成所で解散は珍しい話しではない

「でやここで会ったのも何かの縁やと思うねん

 一回組んでやってみいひん?」

「えぇ急すぎだって」

「ええやん、木南くんも今相方おらんやろ」

「じゃあ決まりや明日からネタ作りしよ、ほな」

「おぉい・・」

高見はそう言い残し去って行った

ラーメンは食べなくていいのか。

高見という人間を考えながら

こってりしたラーメンを食べていた

いつもより味が濃く感じあっという間に

バイトの時間になる。

バイト先のドアの前に立つ

中に人がいることが分かる

「いや、アイツが大丈夫って言ったから」

恐る恐る店に入る、そこには店長と西蓮寺がいる

「エレンくんおはよう、気にせず座っててよ」

「いや、被害者はこっちっすよイチカさん」

すごい剣幕で西蓮寺は店長に訴える

「いや、でもできちゃったのはお前の仕業だろ」

できちゃった?

「いや、エレンくんさぁこいつ客と関係もって

 その客から妊娠したって連絡きちゃって

 で、その客の親がさ歌舞伎町で力持ってる

 怖い人たちなのよぉ・・」

「最悪・・指飛んじゃうわぁ」

俺は、今すぐ辞めたいと思った出勤2日目だった。

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