「彼岸より聞こえくる」第2話
第2話
生きて生きる事と死んで生きることの違いが
俺にはわからなかった―――。
◼️霊感か?0感か?
俺の名前は山田丞(たすく)。
英明館高等学校の一年生だ。
神田の、ある神社の次男に生まれ、兄は0感なのに対して俺は、完全に霊感体質。
兄貴が陽なら俺は陰。
兄貴が光なら俺は影。
それを当たり前に育ってきた。
赤ん坊のころから見えざるものが見えるのが当たり前だったので、
生きてるお友達と生きていないお友達の区別がわからず、
困ることもたびたびだったが、
実家が神職のため親達が理解を持って関わってくれたのが、
せめてもの救いだった。
小学校入学の時にある事件があり、そこから『見る』『見ない』のスイッチのオンオフをプロの陰陽師から伝授され、オフした途端の世界の広さに、驚きと、さみしさで号泣したのはすでに思い出の領域だが、今ではそのオフされたスペースですらも狭く感じる事がある。
慣れっていうのは恐ろしいもんだ。
まぁ、今では、個体ごとに見る見ないもコントロールできるので、霊に困らされるようなことはほぼなくなり、時々舞い込んでくる心霊関係の事件にかかわるとき以外は平穏な毎日を過ごしている。
そして、その、時々舞い込んでくる心霊関係の仕事が、まさに今、
舞い込んできたようだ…。
「たすくぅ~助けてほしいのだ~。」
バイトから帰ってきたのを見計らったように、二つ歳上の兄貴の誠志朗が変な声を出しながら俺の部屋に入ってきた。
それから聞きもしないのにペラペラと何か説明し始めた。
「英明館高校の唯一無二と言われた、
僕の心の姫君、『如月卑弥呼』が、
この僕、山田誠志朗監修の心霊スポット巡りをしてから
なんかおかしいのだよ…。
如月卑弥呼と言えば、
身長170cm、
細くて長くて美しい手足と
腰まである黒髪、
涼やかな目元と
少ない口数の中でたま~に聞ける
少し低めで力みの全くない鈴のような声!
まさに全校生徒が憧れる、
クールな、
わが校の自慢の生徒会長じゃないか!
それが…、それが…。」
そこまで話したとき急に兄貴は何かに気づいたようで、自分の周りをきょろきょろしてから、こう叫んだ。
「あぁ!?
僕の大切なうちわをどこかに置き忘れてきてしまったようだ!!」
ストーカーと言われても返す言葉もないくらい
兄貴は熱心な如月卑弥呼ファンで、自慢は手描きの『卑弥呼うちわ』だった。
それを、どこかに置き忘れるくらい気が動転しているということなのか?
「兄貴、落ち着けって。何があったんだよ?」
「あぁ、そうだった。
それが…、今朝、新学期で登校するみんなに…」
「みんなに?」
「卑弥呼様が、一人一人の顔を…
こうやって、下から覗きこむようにしながら…。」
兄貴はなにかおぞましいものを見たような顔で、
自分を抱きしめるようにしてこう言った。
「『おっはよ~(はぁと♪)
きょうもあついねっ☆』
…って、
…アニメ声で、
満面の笑顔で…言っていたのです…!」
!?
なんじゃそりゃ。
「…挨拶だろ、それ、ただの。」
俺は呆れてそう言った。
しかし兄貴は、必死に、
「違うのだ!おかしいのだ!
卑弥呼様は絶対そんなキャラじゃないのだ!」
そう声を荒げ続ける兄貴。
「キャラ変えたかっただけだろ、それ。」
俺が呆れている事にも気づかず、
兄貴はぶつぶつと、
「あの、アヒル声…。
卑弥呼様は、あそこの廃ホテルで何か変なものに
取りつかれたに違いないのだ…。
オカルト研究会会長の名にかけて3-Bのみんなに、忘れられない思い出を提供するはずだったのに、なにゆえこんなことに…!」
そう言って、涙を流しながら畳を何度も何度も殴りつける兄貴…。
ちょっと変だけど、いつも明るくて元気で、怖いもの大好きの兄貴のこんな姿を見たのは初めてだった。
「わかったよ、とりあえず明日、如月卑弥呼を見てみるよ。」
俺が承諾すると兄貴は嬉しそうに、
「おぉ~、さすがは僕の弟よ!
それじゃ早速、明日の放課後、オカ研の部室に来てくれなのだ!
頼んだぞ!」
と言って、元気に部屋を出て行った。
…騙された?と、思うくらいの変貌ぶり。
まぁ、それが兄貴の良いところなんだろうけど、けっこうな頻度で取り残された気分にはなる。
こんな経緯で俺は、明日の放課後、オカ研の部室にいく事になった。
だが、のちに、この約束をしたことであんな事件に巻き込まれるとは、この時の俺は想像だにせず、のんきにいつも見ていたドラマの見逃し配信を見ながら気持ちよく寝落ちていくのだった。
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