見出し画像

自分と向き合い、それぞれのつながり方で。でも確かにつながっていく。三浦しをん「風が強く吹いている」

運動は得意ではない。
こどものころから、決して機敏ではない自分を自覚していた。
でも、だからこそ、なのだろうか。
学生時代、果敢に運動部を選択したのは。

小学生の時は、運動部を選んで、夏はミニバスケットボール、冬は陸上。
ゲーム中、ボールを持つと固まるため、試合は出られず。
100m走はいつもビリ。
中学生の時は、ソフトボール部。
びっくりするくらい球を取れず、球を打てず。万年補欠。
高校生の時は、半分帰宅部な水泳部。
子どもの頃、スイミングスクールに通って、溺れない程度に泳げるので。
マイペースに、夏の時期だけじゃぶじゃぶ泳いだ。

そんな変遷を経て、自覚したのは。
球技はとにかく無理。
(物体との距離感を掴む感覚がずれている)
団体競技及び行動が、とっても苦手。
(周囲の状況を暗黙の内に読み取る力や、言葉を介さない多人数とのコミュニケーション力が低め)
瞬発力よりは、持久力の方が、まだしもある。
(短距離より長距離の方がビリにならないし、黙々なマイペースが好き)

そんなわけで、運動と言えば、ひとりで、マイペースに泳ぐか走るか。
大人になって、得意ではないなりに、身体を動かすって、わりと楽しいと思えるようになった。

団体競技では、勝つために、連帯感が求められる。
しかし、みんなが同じ方向に向かっていると、本能的に不安を感じて立ちすくむ性質なので、この点でも団体競技には向いていない。
とはいえ、「団結」とか「連帯感」とか。それに伴う高揚感への憧れは、そこはかとなくある。

団体競技が無言の内に求める「連帯感」の強要に後ずさりしつつ、ゆるやかな連帯感への憧れが捨てられない私は、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』がずっと気になりつつも手に取ったことがなかった。
お正月名物である箱根駅伝を題材にした小説で、2006年初版(新潮社)。
これまでに、漫画化、ラジオドラマ化、舞台化、実写映画化、テレビアニメ化され、2010年第1回ブクログ大賞文庫本部門大賞を受賞している。

「速く」ではなく「強く」なれ、と選手兼監督が言う。
走るのは自分、走っている時もひとり、という点では、ひたすらに自分と向き合う。
しかし、たすきをつなぐ、という点で、誰かとつながる。つながらざるを得なくなる。
物語の中で、箱根駅伝を目指して走ることになった10人は、それぞれが自分と向き合い、それぞれのつながり方で、でも確かにつながっていく。
そして、描かれてはいないが、きっとまた離れていく。
つながったという過去を共有して。

人生のようだな、と思う。
生まれるときもひとり、死ぬときもひとり。
どんなに親しく大事に想う人がいても、どうしようもなく、自分の人生は自分だけのものだ。
でも誰かとつながらずには、生きられない。
「速く」ではなく「強く」。
少しでも楽しく上手に、自分なりのやり方で、誰かとつながって生きていきたい。明るい前向きな気持ちで思う。