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自分の中にいる二人の自分

大の苦手な母親と京都まで出かける。
朝から一緒に出かけたことを後悔して
電車の中でヘッドホンをつけた。
隣に座る母が上機嫌に話しかけてきても
目をつむって話を聞こえないふりをして、世界を切り離していた。

今日の京都は暑かった。
太陽は今日を真夏だと勘違いしたのか。
背中が大きくあいた真っ白なブラウスが輝く。

兄と、兄の彼女と一緒に花見をする予定だった。
京都の街中で満開の日を待ちわびた桜たちが咲き乱れる。
この世界にわたしが存在することを祝福してくれているような気分になる。

阪急の地下で、母と選んだおにぎりをみんなの前で広げる。
10個のおにぎりがまとめられる姿をみるのはなかなかない。
兄が小学生の頃に使っていたミッキーマウスのブルーシートは、思ったよりちいさかった。
小さなブルーシートの真ん中に並んだおにぎりたちは
ちょっとだけ誇らしげに輝いて見えた。

コーヒーが欲しいと
母がわがままをいう。
せっかくだしおいしいコーヒーを飲んでほしい。
近くのスターバックスは混んでいたので、少し遠くのセブンイレブンに行き先を変える。
ようやくひとりの時間がとれたことに少しホッとする。
兄がくれた千円札を握りしめて鳥居の先までお散歩をする。

帰ってからは
もう私は兄たちと会話する気力もほとんどなくなって
ずっとぼーっと空を見上げていた。

今日の会は早めに切り上げることにして、
兄たちと解散する。

正直早く自分の世界にこもりたかったが、
母が是非私に見てほしい。と桜が咲き乱れる庭園を覗いて帰ることにした。

帰り道、人ごみに疲れてどうしようもなくなっていた。
気づいたら母の体にくっついていたくなる自分がいた。
甘えていた。
そんな事実に少し胸がざわざわしたが、
それでもいっか。
母を嫌いな私と
母を必要とする私。
矛盾したふたりが私の身体に入っていた。


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