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Webに文章を書くということ

「ちょっとnoteのアカウントを取るところからやってみますね」

そう、彼女と約束したのだ。連休に入る前に。

「サービスとして全然理解してなくて…」

と、往生際わるくエクスキューズしながら。

おやすみの時間は光の速さで溶けていき、そして、いまようやくキーボードをたたきはじめた。連休も終わる最終日、夜更けたこんな時間に。

***

noteというサービスは知っていた。

数年前、中村珍さんというプロの漫画家が、個人で漫画を有料公開するのにこのプラットフォームを選んだことをきっかけにこのサービスを知った。
当時、彼女の漫画やテキストを読みたいが為に課金しようとして、そのあまりの使いにくさに二度と使わん! と思ったことを覚えている。

でも、ここ一年くらい、「よいテキスト」がシェアされる時は、このプラットフォームが使われていることが俄然増えてきたなと感じていた。
会社の人の何人もが、ここをベースに情報発信することが増えているのも知っていた。

だから、私が知ったあの時に比べ、きっとサービスも見違えるように磨かれているんだろうな、ということもなんとなく想像はしていた。

でも、アカウントを登録することはなかった。noteは私にとって「読み物」であって、自分が「書くもの」じゃなかったからだ。

そんな中、#リブセンスnote100本チャレンジという企画に声をかけてもらった。

これが、社内のSlackで発表された時は、純粋に「すごいなあ」「素敵だなあ」と思った。
強い意思を持って、開かれた場所に新しい取り組みを打ち出していく姿はカッコいい。そして、そういう挑戦を肯定的に受けとめる人が圧倒的に多く、また手を挙げて支援する人もひとりふたりじゃない、というのは、私が今の会社にいてとても好きだと思うところのひとつだ。

ただ、自分が参加します! と思ったかといえば、それは全然別で。
「流石です」というアイコンをひとつぽちんと押して、私はその発言をスクロールした。

そんな私に、企画した彼女から直接「志賀さんにも1本で良いのでご参加いただけないかなあと思っておりまして、ご連絡させていただきました」と、大変に折り目正しいリクルーティングが届いたのが、連休前。

そして、冒頭のやりとりに戻る。

***

Webで文章を書く、ということは、私の中で少し面倒くさいハードルがある。

思い返せば、高校生くらいからWebのどこかしらに文章は綴ってきた。仕事ではない、部活など誰かに促されるわけでもない、自発的な活動として。

最初は、人のサイトの掲示板。次に個人で開設したサイトで。ある時期はmixiで、ある時期はブログで、ある時期はFacebookで、ある時はTwitter。20年以上どこかになにか書いていることになる。

書く時には、その場にあわせた目的がうすらぼんやりとある。そこで「誰か」に向けては書いてるからだ。それは誰という具体的な名前を持たないことが多いし、属性だって大して定まってはいないけれど、その場にあった何かを誰かに届けたい、そしてそのことによってなにかしらつながりたいと思って書いている。

だから自分の中で何らか背を押すものがないと書き出すことができない。
「この場所で、何故、書くのか」。

約束どおりアカウントを取ったその後、note、という文字どおり白いテキストを書くスペースを前に、私は予想どおり困っていた。ここに文字を記す目的が、どうしても自分の中にはなかった。

書くことを求められたから何か書くでいいじゃないかと囁く声と、内発的な動機が何もなく何かなんか書けるものかと抵抗する声の間で、一旦私は自分のスペースを閉じて、noteの中の旅に出た。

このプラットフォームでなにが繰り広げられているのか、もっと知るために。

***

ぴょんぴょんとリンクを飛んで、気持ちの赴くままに、色々な人のnoteを読んでみた。
インターネットに触れて少し経った頃爆発的に流行ったテキストサイトや、ランキングサイトを上から順にブログを読み漁っていた頃のように、知っている人や、知らない人のいくつもの文章を読むうちに、私はここを少しずつ「面白い場所かも」と思いはじめた。

ビジネスよりの記事をよくシェアされていたのでそういうことが際立つプラットフォームなのかと思いきや、多様な文章がそこにあった。好きだなあと感じる文章を書くひとも何人かみつけた。

個人のサイトでもない、ブログでもない、SNSでもない。
長くも短くも、テキストでもイラストでも動画でも置いておける。知った誰かにも見知らぬ誰かにも見てもらいやすいように、つながりやすいように、アレコレ仕掛けられているこの場所は、ちょっと、いや、かなり面白いかもしれない。

面白い、と感じたこの場所で、結局何を目的に私が文章を書くのかは、全然ちゃんとは定まってない。でも他の人の文章をいっぱい読んで「面白い!」と感じた気持ちが、今度は自分が文章を書くことの背中を押してくれて、私はここでキーボードをたたいている。
久々に、仕事でもなく、なんの制限もなく。

***

思えばどこに文章を書いていても、その場のモードをかりて書きやすくしているだけで、私の文章は自分のための文章だ。
自分が書きたいと思って書き、後で読み返す為の文章だ。

その時あったこと、感じたこと、考えたこと、読んだ本や漫画、食べたもの、誰かに言われたこと、誰かに言いたいこと、そういうことを書き留めておいて、それを一番読み、糧にしたり、娯楽にしたりするのは、未来の私だ。

だから私は未来の自分に書き残す為にnoteに文章を書いてみようと決めた。

2020年5月6日、39歳になったばかりの夜とその先で、自分がこんなことを考えていたんだよ、と。

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