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英語学習のゴールは、ぼんやりで大丈夫

「英語コーチングに興味はあるけど、まだ自分なりのゴールや目的がわからないので、それを見つけてからにします」と言う人が時々います。コーチングとは?が伝わっていない証拠なので責任を感じます。もちろん英語もコーチングも必要ない人には必要ないので、やらない選択をすること自体は全然オッケーです。

ただ、もし本気で「ゴールや目的がはっきりするまでコーチングはおあずけ」とお考えなら、それは時間やエネルギーがもったいない。「そんなときこそ、コーチを使ってよ」と思うのです。

そもそも、なぜ「ゴール設定」なのか

ゴールの有効性は、1960年代にアメリカの心理学者エドウィン・ロックが提唱しはじめました。が、学会ではなかなか理解されませんでした。当時の心理学は行動主義が優勢で、やる気などメンタルの違いが行動を変えるという考えは「古い」と却下されていたのです。いやいや「古い」って。笑 

2020年の私たちは、学者じゃなくても「気の持ちようによって結果が変わることがある」と知っています。なにかに取り組む時にあらかじめゴールを立てておくと、やる気を支え、初心を思い出させ、背中を押してくれます。たとえば英語を使って何がしたいのか。どんなことができたら「自分は英語が使える」と言えるか。ゴールを達成すれば、それこそ達成感が得られます。達成感が得られればまたやる気になって、がんばり続けられます。

ただ、自分に “効く” ゴールを設定することは簡単ではありません。コーチの私がそう思うのですから、これからコーチングを受けようとする人にとってはなおさらです。ひとりでゴール設定を試みてもいいのですが、私がもったいないなーと思うところを3つ挙げてみます。

1. せっかくやる気になったのに、もったいない

ゴールを設定するとよいとはいえ、どんなゴールでも同じではありません。ロックは初期の頃から「具体的で難度の高いゴール (specific hard goals)」が大切だと言っています。これはコーチングでよく使われる SMART モデルの "S (specific)" や EXACT モデルの "C (challenging)" につながってきます。

「具体的で難度の高いゴール」と聞いて、英語学習者ならどんなゴールを考えるでしょうか。「立派なスピーチをする」「ネイティブと丁々発止をやる」などは、難度は高いけど具体性に欠けるかな。となると資格系…?

さらに、ゴールには「いまの自分に関係があり、現実的である」という要素(relevant, realistic) や「いつまでに達成するか」という時間的な枠組み (timely, time-framed) があるとがんばりやすくなります。

スピーチの予定なんてない。別に急いでない。今のままでも特に困ってない。うーん…。

ぐるぐる考えているうちに脳が疲れてきます。そうこうするうちに、なぜ英語を学ぼうと思ったかわからなくなり、気分が落ち込みます。“効く” ゴールは考えただけでワクワクするものですから、これとは対照的です。

2. せっかくがんばったのに、もったいない

あれこれ考えてイヤになるくらいなら、もう適当にゴールを設定して動きはじめてしまったほうがいいような気もします。

たとえば「半年後に TOEIC で満点を取る」と強引に決めてしまえば、とりあえずゴール設定のプロセスはやり過ごすことができます。その後は学校に通ったり問題集をやったり。試験の予定が立ち、スケジュールが埋まります。見事に満点が取れれば、ゴール達成となります。

こうした経験は短期間に集中・没頭できるので、その中にいる間はけっこう楽しかったりします。ハイテンションで興奮している場合もあります。燃えているような部分もあります。でも、ゴールにたどりついたとき、達成感ではなく虚無感を覚えたり、いわゆる燃え尽き症候群になったりすることがあります。

同じようなことは、ゴール設定に「べき」を持ち込んだ場合にも起きやすくなります。周りの目が気になる人、自らを脅して鼓舞する癖がついている人は、自分が本当にしたいことから遠ざかってしまいやすい傾向があります。

最初に「ま、いっか」と端折ったことが、気づいたら大きなズレの原因に…なんてことにならないよう、スタートで自分の気持ちとしっかり向き合ってください。“効く” ゴールは達成したらうれしいものです。

3. もっとできる可能性があるのに、もったいない

ゴール設定は、まだ見ぬ自分に近づくための手段です。自分が変わっていくというのは楽しみですが、どう変わるかは想像しにくい。未知の世界に対する恐れは誰にでもあります。

「ゴールを立てても達成できないかもしれないし、あんまり高い理想を掲げるのは恥ずかしい」というタイプの人は、ゴール設定でついハードルを下げたくなります。すぐ手が届きそうなゴールなら怖くないからです。でも、簡単すぎるゴールは成長を制限してしまいます。“効く” ゴールは達成した時にスタート前との変化がはっきりわかって、じんわり感動できるものです。

逆に壮大な理想を掲げるタイプの人は、非現実的なゴールを立てて期限内に達成できず、焦ったり落ちこんだりします。「やっぱり自分はダメなんだ」などと決めつけてしまうこともあります。できない証拠はできる証拠より集めやすいので、負のループにはまらないようにしてください。


じゃ、どうしたらいいか

ゴールがよくわからない、ぼんやりした状態のうちに信頼できる人に相談してみてください。いまの自分が本当にしたいことを一緒に探し、自分によく “効く” ゴールを見つけるお手伝いをしてもらうのです。自分の想像できないことを具体的にイメージさせてくれる人がいいです。スタートを切ったら、ゴールに向けて途中で軌道修正したり、ペースを整えたりしてもらいましょう。

また、必要に応じてゴールの見直しをするのがオススメです。どんなにうまく設定したゴールでも、実際に学習をはじめてみると意外とあっさり達成できてしまったり、難しすぎることがわかって途方に暮れたりする場合があります。「でも、まだ期限が残っているから」などと執着するのではなく、修正が必要なら直し、役目を終えたゴールは撤去して新しいものと差し替えましょう。大切なのは、自分の可能性を解き放ち、存分に伸ばしてあげること。すでにある知識やスキル、限られた時間やエネルギーなどをしっかり使って、英語学習を実り豊かなものにしてほしいと思います。


Locke, E. A. (1968). Toward a theory of task motivation and incentives. Organizational Behavior and Human Performance, 3(2), 157-189. 

Locke, E. A. (1982). Citation classic - Toward a theory of task motivation and incentives. Citation Classic Commentaries, 16, 16-16. Retrieved from http://garfield.library.upenn.edu/classics1982/A1982NJ34100001.pdf

Photo by Soroush Alavi on Unsplash

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