見出し画像

「やさしい日本語」を学んで、英語学習について考える

最近登録した地域の災害通訳ボランティアの研修で、「やさしい日本語」を学んできました。「やさしい日本語」とは、「日本で生活している外国人の方が公文書などを『易しく』理解できるように、『優しい』気持ちで書き換えた日本語のこと」だそうです。

ボランティアの仕事は、災害時に避難所などに駆けつけて、役所などが発信する情報を外国人に伝えたり、外国人のニーズを聞き取ったりすること。私の登録言語は英語ですが、現場で英語が機能するとは限りません。今回いただいた資料によると、私の住む地域にいちばん多いのは中国語圏の出身者で、アメリカやフィリピンなど、いわゆる英語圏の出身者は10人に1人以下。第二言語として英語を話す人をあわせても、外国人全体のうち英語でコミュニケーションできる人は多くなさそうです。

一方、日本に住む外国人のうち、日本語で日常会話までできる人は64%。単語レベルまで含めると85%の人が、日本語でコミュニケーションできるそうです。つまり通訳は英語を含む外国語を使うより、「ネイティブ向け日本語」を「外国人にもわかる日本語」に“訳す”方がお役に立てるというわけです。

「やさしい日本語」を学ぶ意欲がわきました。こんなふうに序盤で学ぶ意味をしっかり確認させてくれる研修は、だいたいアタリです。期待がふくらみます。

「やさしい日本語」といっても、何が「やさしい」かは相手によって異なります。「正解はないので、相手のことを考えて、いろいろ試す」という心構えがいいなと思いました。これは言語に関わらず異文化コミュニケーション全般に、ひょっとしたら人間関係全般にも言えることです。

研修のメインである実践部分は、4人グループで行われました。zoom の小部屋で仲間たちとアイディアを出しあいながら、練習問題に取り組みます。

ちなみに私は日本語教育をちょっぴりかじっています。子どもや外国人、高齢者と話す機会もちょこちょこあります。また、アメリカの移民に英語を教えていたこともあります。こうした経験から、ネイティブの大人が気づきにくい、学習者にとって難しいと思われる表現や話し方について、ある程度は知っているつもりです。

でも練習をやってみると、「やさしい日本語」に訳すのは易しくないことに気づきました。語や表現を見て「ここは訳す必要があるな」とわかっても、じゃあどうするとよいのか、すぐには思いつかないのです。たとえば、これ。

立入禁止。建物崩壊の恐れがあります。

私は最初、「入ってはいけません」と訳しました。そのときは気づきませんでしたが、これは間違いなく英語の「DO NOT ENTER」の影響ですね。どうも私の「やさしい日本語」は英語に頼ってつくられる傾向があるようです。

グループの仲間が「『禁止』だから『絶対』があった方がいいんじゃない?」と提案してくれました。なるほど。それで「絶対に入ってはいけません」に修正。さらに「短い方がいいかも」ということで「絶対入っちゃダメ」に。後半は「建物が壊れるからです」から「ビルが壊れます」に。

絶対入っちゃダメ。ビルが壊れます。

この回答は後に、ゲスト講師の在日外国人に褒めていただきました。特に子育て世代の外国人は、子どもに「xxしちゃダメ」と毎日言っているので、とても伝わりやすいと高評価でした。

次の例では、別の発見がありました。

本日、炊き出しが午後6時からあります。

私はこれを「ごはんがもらえます。夕方の6時からです。」と訳しました。すると、仲間の一人が「『集まってください』を足したらどうか」と。これには目からウロコが落ちました。日本語ネイティブにとっては言うまでもないことですし、“みなまで言わない”ところに美的なものも感じられますが、確かに外国人には言ってあげた方がよさそうです。同じような発想で「お金は要りません」も出てきました。「やさしく」って、こういうことかぁ。

仲間に助けられながら練習を進めるうちに、足したり引いたりするコツがつかめてきました。この研修で学んだ「やさしい日本語」のポイントは以下のとおりです。

・余分な情報はカットして、相手にとって必要な情報を残す。
・いちばん伝えたいことを先に言う。
・一文を短くする。
・主語と述語を明確にする。
・知っておいた方がいい用語(例:避難所、処方箋)はそのまま使用する。
・外来語は通じにくいものが多いので注意。
・難しい語は「やさしい」ものに言い換える。

あら。これ、日本人が英語を使うときのポイントとぴったり重なるじゃないですか。

英語の会話中、学習者の頭の中にすでに日本語の表現が浮かんでいて、それに見合う英語を探しているなとわかることがあります。そんなとき、私は「日本語からいきなり英語に訳すのではなく、いったん『英訳しやすい日本語』に」と言ってきましたが、考え方は「やさしい日本語」と同じだったんだなと思いました。

話しながら「日本語→英語」の作業をするというのは、脳に大きな負荷がかかります。しーんとした間があいて焦ったり、相手を待たせるのが申し訳なくて発話をあきらめたりしてしまう学習者もいます。「日本語では言えるのに、英語だと言えない…」と落ち込む原因にもなります。

今まさにそれを経験している人は、ぜひ「日本語→やさしい日本語→英語」を試してみてください。コツがわかれば、より速く、より英語らしい表現ができるようになると思います。いちばんのメリットは、難所が「日本語→やさしい日本語」にあるという点。ここを超えれば「→英語」の工程がラクになって、「日本語では言えるのに…じゃなかった!」という気づきにつながります。

Photo by Kyle Glenn on Unsplash

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?