日本語のことを知らなすぎてタジタジになった
現在受講中の言語コーチ・プロフェッショナル講座。体験記の第3回です。
引き続き、知識を整理し、自分の言葉で説明する練習をしています。テーマは、バイリンガルの脳、文化の定義、言語コーチングにまつわる誤解など。そのなかに「自分の話せる言語について質問に答える」というトレーニングがありました。
言語コーチの仲間はヨーロッパ人が多いので、1人でいくつもの言語を話すポリグロットがごろごろいます。ちなみに師匠のレイチェルは、普通に使える言語がドイツ語など6つで、さらにアラビア語など3言語を学習中。学校で習ったうろ覚えのラテン語と片言の中国語をあわせると、計11言語を学んだ経験があるそうです。
他の人たちが「自分の話せる言語かぁ。どれにしよう?」と言っているなか、共通言語の英語をはずすと、私には日本語しかありません。「じゃ、えみから行こっか」となりました。うぎゃ、トップバッター。ま、しょうがないですね。
トレーニングは、レイチェルを含むメンバーたちが投げてくる質問にどんどん答えていくというものです。メンバーの中に日本語を話す人はゼロ。アジア言語にまで広げても、インドネシア語を少し知っている人が1人という状況です。
「じゃあ始めましょ。テンス(時制)はいくつあるの?」
いきなりそこかよと思いました。玄人っぽさもありそうですが、言語を横断するように学んだ人たちが真っ先に思いつくのはこんな質問なんですね。
「テ、テンス。えーと、過去と… 現在。未来はないから2個、かな。たぶん」
「ふーん、英語と同じね」というような反応。その時点では、この反応の意味すらわかっていませんでした。あとでポルトガル語の番になり、テンスの区分の細かさにみんなが盛り上がっている様子を見てようやく「おぉ、テンスが少ないってそういうことか」と気づきました。とほほ。
続く質問は「動詞の活用」や「未来の表現の仕方」「現在進行」「助動詞」「語順の重要性」「格」など。やはり中心は文法ですが、ほかにもランゲージ・ファミリー(語族)や歴史的な変化など、日本語そのものに関する質問もありました。
「えーと、それは…。こうだと思うけど、ううーんと、ちょっと待って。たとえば…(たとえが出てこない)」
もちろんたまには「男性・女性・中性の区別はある?」「人称の影響で動詞が変化する?」「疑問文は倒置する?」など、私でもすぐ答えられるものもありましたが、それ以外は終始タジタジ、ヨロヨロの頼りない回答ばかり。
がっくり。でも、まあ当たり前といえば当たり前です。
かつては日本語教育を志し、日本語文法をひととおり学んだ私ですが、もう長いこと英語にしか携わっていません。日本語についての専門知識はすっかり錆びてしまい、今の私はただのネイティブなのです。
このトレーニングの目的は、自分の話せる言語についての知識を洗い出すこと。言語の特徴を整理し、言語間の距離を測り、共通点、相違点を探ります。こうした情報は、コーチング・セッションで学習者の興味を刺激したり、学習者が簡単または難しいと感じる理由を分析したりするときの道具になります。
言語教育にはいろいろな考え方があります。「英語を学ぶならオールイングリッシュで」のように目標言語だけに絞って学ぶ方法もありますが、言語コーチングでは学習者の母語をとても大切にしています。特に大人の場合、L1(第一言語、母語)と結びつけてL2(第二言語)を学ぶ方が負担が少なく、効率がよく、記憶に残りやすいと考えています。
このことを、レイチェルは「学習者が知っている言語と、新しく学ぶ言語の間に橋を架ける」と表現します。だとすると、日本語と英語は遠い言語ですから、橋は長く頑丈でなければなりません。一方で、多言語を扱うコーチと違い、日本人の英語学習に特化している私は「日本語L1+英語L2」の橋1本に全力を注ぐことができますから、ラッキーだとも言えます。
これを機に、日本語について学びなおしてみようと思いました。何人かで集まって日本語と英語の文法を教え合ったり、両言語の“難所”を語ったりしてみたらおもしろいかも。なにか企画しようかなという気分になってきました。
Photo by Alex Azabache on Unsplash
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?