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言語コーチング カンファレンス参加メモ

2017年から毎年春に開かれているカンファレンス。世界中に散らばっている国際コーチ連盟認定 言語コーチが集まって学ぶ機会です。第4回となる今年は4月にロンドンで開催される予定でしたが、ヨーロッパ各地でロックダウンが続く中、急遽オンラインに変更となりました。

言語コーチ向けの勉強会なのに、登壇者はバイリンガリズムなどごく一部を除いて、心理、脳科学、心臓、スポーツなど言語以外の専門家ばかり。これは、言語コーチングの創始者レイチェル・ペイリングが holistic なアプローチを大切にしていることの表れです。

holistic は「全人的、心身一体の」などと訳されます。コーチ(または指導者、教育者など)が学習者を “人” としてまるごと視野に入れることで、学びの効果が高まるという考え方です。言語コーチングの軸はもちろん目標言語(例:英語)ですが、それだけに執着していては見えてこないことがたくさんあります。逆に、一見関係なさそうなことが実は言語力を飛躍的に伸ばすカギになることも。ひとりの人の学びは必ずどこかでつながりあっているものですから、たとえば脳波や筋肉やトラウマについて知ることが言語学習の役に立つのです。

カンファレンスは2日間ノンストップ。さまざまなセッションに参加しましたが、その中でもっとも印象に残ったのはリチャード・ベントレーの「Why personal change is so difficult(変わることはなぜ難しいのか)」というワークショップです。リチャードは私がコーチングの世界に足を踏み入れた初日の講師だった人で、尊敬する大師匠です。

以下、自分用の備忘録を兼ねて、ワークショップでの経験をシェアします。

セッションの冒頭、リチャードは1分間の静かな時間をとりました。みんなの ”Zoom疲れ” を癒やすべく、それぞれ自分の呼吸を意識したり、ほっとする対象をぼーっと見つめたりする時間です。脳を休め、心を落ち着かせて、学ぶ態勢をととのえる。分刻みのスケジュール、しかも接続トラブルなどでバタバタしがちなオンラインのカンファレンスでこういう時間の大切さをふっと思い出させてくれるのは、さすがだなと思いました。

前説的に、いくつかのモデルやエピソードをおさらい。たとえば、ダニエル・シーゲルの「手でつくる脳モデル」。

そして本題。紙とペンを用意し、「やろうやろうと思いつつ、できていないこと」を書くよう指示されました。たとえば年始に「今年こそ」と決めたはずのこと。あるいは「運動」「禁煙」「語学」などの長続きしないことや、「部屋の片づけ」など、つい後回しにしていること。

コーチは「変わりたい」「変わらなくちゃ」と思ってもなかなか変われない人に対し、ワークを通じて気づきと行動を促します。変われないことを責めるのではなく、「変われないのには、少なくとも本人にとって正当な理由があるはず」という前提に立ち、その理由をゆっくり紐といていきます。このワークのもとになっているのはキーガン&レイヒ (2001)『人が変われない本当の理由』。

ワークではじっくり時間をかけて各ステップに取り組みます。コーチの質問に答えることで考えを深め、それまで意識していなかったことや無意識に避けていたことに気づき、最終的には変えるために必要な行動を自分で見つけます。

Q&A セクションで挙がった話題も興味深かったです。たとえば「コーチングとセラピーの境界線」。セラピストでもあるリチャードは、コーチとセラピストの役割を明確に分けています。それぞれの使いどころを知ったうえで「2つを混ぜないように気をつけてほしい」と言っていました。

学習者のタイプの違い、個性を生かして伸ばすことについては、グラント (2013) の『勝つために戦う人、負けないために戦う人』。 

やめたいことをやめるためには、デュヒッグ (2012)『習慣の力』。

…などなど。盛りだくさんの内容でした。60分ではとても消化しきれません。時間をおいて読み返し、練習を重ねて、I'll keep them up my sleeve. コーチングの中でタイミングよくシュッと出せるよう準備しておきたいと思います。



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