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『ベストヒット歌謡祭2023』ーそれは奇跡か、正常化か

上記のまとめは、長く民放音楽番組への出演が叶わなかった香取慎吾さんが、2023年11月16日放映の大型音楽番組『ベストヒット歌謡祭2023』(読売テレビ)に出演した後のX上のポストの一端だ。
一つ一つを丹念に見ていくとわかるように、そのほとんどが特別に香取さんファンというわけではない一般視聴者の声であり、この出演がファンのみならず幅広い層に大きなインパクトを与えたことがよくわかる。
それは多くの人が口にしているように、彼が長年にわたる実績によって「国民的アイドル」「スター」と呼ばれてきた存在であること、そしてこの日のパフォーマンスで自らそれを証明したからに他ならない。

しかし、このような「現象」は何もこれが初めてではない。
2017年の前事務所退所以降、これまで当たり前のように出演していた地上波テレビ番組への出演が激減した彼が、それでも少ない露出機会を得るたびにSNSでは同じように大きな反響が起こったし、それを裏付けるような数字も残してきた。音楽に関連した露出だけに限定しても、ここでも何度もそれを紹介している。

誰もが知っているテレビスター、長年にわたって地上波音楽番組の常連だった彼が前事務所を退所して以来出演した音楽番組は2022年まで『SONGS』(NHK、2020年)、『うたコン』(NHK、2022年)、『明石家紅白』(NHK、2022年)と全てNHK、それも年に1、2回という、以前では考えられない少なさだ。
民放では、松平健さんの楽曲の「ゲスト」的な存在として「カツケン」というキャラクターで生出演した『第53回 年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京、2020年)はあったものの、香取慎吾としては『まつもtoなかい』(2023、フジテレビ)の歌コーナー出演まで、実に7年間もの長い間楽曲披露をする機会がなかった。それ以後は、『バズリズム』(2023、日本テレビ)の出演がある。

先のnoteでも書いたことだが、香取さんのことをあえて「まだ実績のない小さな事務所からデビューした新人ソロ歌手」と見做すとしたら、そう簡単にテレビで歌えないというのも当たり前なのかもしれない。
しかし、それはあくまでも「あえて」のことで、30年のキャリアがあり、グループでもソロ名義でもミリオンセラーの記録を持つ歌手の設定として、それは、どう考えても無理がある。
しかしその無理が、なぜだかこれほど長い間押し通されてきたことを多くの人が知っている。彼に対して数多くの「おかえりなさい」の言葉が寄せられたのは、「ここ」が彼が本来いるべき場所であり、彼が本来そこにいるべき存在であることの証なのだろう。
そしてさらなる問題は、そのような「証明」が彼自身の地力によってもう何度もなされてきているのに、状況が一向に
「久しぶりの楽曲披露→大きな反響」
から大きく前に進んでいるようには見えないことだ。

ところで、今回の『ベストヒット歌謡祭2023』では香取さんの出演だけではなく、旧ジャニーズ事務所のタレントとライバル関係にある他事務所のボーイズグループとのコラボレーションも大きな目玉とされた。
これを、これまでも実現しようと思えばそうできたはずの番組側が、何の反省も問題意識もないままに自ら「一夜限りの奇跡」として喧伝することにも大きな違和感を覚える。
なぜ「奇跡」なのか、なぜ今までは叶わなかったのか。
これについてのきちんとした検証と、このような企画を「一夜限り」にしない姿勢を持続しなければならないはずのテレビ局に、その当事者意識がどれほどあるのか、この数年間の経緯を見続けてきた私は甚だ懐疑的だ。

私は、2023年5月時点でこう書いた。

番組内でも当然のように語られた「ジャニーズ事務所を退所をするとテレビに出られない」「民放音楽番組に呼んでもらえない」ということ。
業界内のみならず、いつのまにか視聴者の私たちにとってでさえ、長年「常識」のように受け入れられたきたそれこそが、むしろ変えられるべき「非常識」であることに私たちはもう気づいている。
間違いなくテレビでの実績は彼らが積み上げてきた主要なキャリアの一つなのに、解散後、それと何かのどちらかを選ばなければならない選択を迫られたということ。 どう考えても、その選択肢の設定自体が理不尽で非常識だと思う。
中居さんの言葉を借りるならば、もはや「(業界の)非常識を(一般社会のルールに沿って)常識化」することが求められている。

二人の共演を、まるで一般視聴者のように無邪気に喜んでいるテレビマン諸氏は、果たして自分たちに課せられている課題にどれだけ真剣に向き合っているのか。
二人から、そしてこの再会を心から喜ぶ多くの視聴者から、6年あるいは7年という長い時間を奪い取って来たその「罪」をいかに償うのか。

今回の『まつもtoなかい』に現われたテレビの「変化」の兆しの真価が問われるのは、むしろこれからだ。

1%と99%の間の可能性が実現した夜 ー『まつもtoなかい』中居正広・香取慎吾共演を見て

あれから既に半年が過ぎたが、果たしてここで投げかけたテレビの「変化」は本当に訪れているのだろうか。
今回の事例がまたもや単発の「奇跡」に終わるのか、それとも曲がりなりにも始まった地上波テレビの「正常化」の現れなのか、また半年や一年先にここで同じことを書くことにならなければ良いが、と思うばかりだ。

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