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やさしいポケット、作ったよ ー SMAPのノブレス・オブリージュ

SMAPが力を持つ多くの人たちと違ったのは、自分たちがそのような力を持ってしまうことに、彼らがどこかで抗おうとしていたように思えることだ。
それは彼らの人としての良識だったのか、力に溺れて沈んでいった多くの反面教師たちの姿から学んだことだったのかはわからない。
けれども私には、自分たちがいつのまにか明らかに力を持ってしまったことを知りながら、彼らがどこかでそれを拒み、もて余しているように見えた。
しかし、どんなに彼らがそれを否定しようと、彼らの力は増し、影響力は大きくなった。
それで、ある時から彼らは覚悟を決めたように思える。
どんなに抗っても持たされてしまう力なら、それを他者を輝かせるために使おうと。
そしてその覚悟が、彼らを益々輝かせていったように見えた。                       『力とSMAP』より

ノブレス・オブリージュ。
元々の意味はフランス語のnobility obligatesで「高貴なるものは義務を負う」。貴族や上流階級など社会的地位があるものは、社会に対して果たすべき責任が重くなるという格言だそうだ。

SMAPはもちろん貴族ではない。
しかし彼らの「力」の用い方は、まさしくノブレス・オブリージュを連想させる。
いや、彼らのそれは「義務」というよりも、そうせずにはいられない「生き方」に近いようにも思える。

今私たちは、新型コロナウイルスの感染拡大で未曾有の事態を経験している。

その中で、
中居正広さんは、自身がMCを務める情報番組『ニュースな会』で、関連情報の発信を続けている。それは、連日のようにあらゆるニュース番組、ワイドショーで取り上げる仕方とは随分趣きが違う。
2020年4月25日の放送回では、実際にウイルスに罹患した人の経験から、その症状、検査までの経過、治療、入院生活、回復までを具体的に紹介した。
いずれも医学的には「軽症」のケースだ。しかし、その実態は一般に想像される「軽症」とは大きく違い、「これで軽症なのか?」と驚き、嘆息するものだった。

私たちは再三、「PCR検査をして陽性だとしても、軽症なら自宅で様子を見るのだから、受けても受けなくても変わらない」「感染しても、ほとんどの人は軽症」という専門家の言葉を聞いている。その時私たちは、当然のように自分のモノサシの「軽症」を思い浮かべる。
だからこそ、今まで経験したことのない高熱、気管支の痛みを、これは自宅で様子を見るべき「軽症」だとは判断しない。一刻も早い検査を求めるし、少しでも救いを求めてドクターショッピングを繰り返してしまう。
あるいは、「感染してもどうせ軽症だ」と安易に「不要不急」の外出を自粛しなくても良いと判断する。
そのいずれもが、感染拡大防止の大きな妨げになっている。

『ニュースな会』は、専門家と一般の人たちの間にある見落とされがちなミスコミュニケーションを丁寧に埋める。
そして、私たちが感じている素朴な疑問を軽んじることなく、その上で今一番考えるべき重要なトピックをさりげなく掬い上げる。
この日は他にも、
・民間企業が提供を始めた検査キットのこと。(自力で検体を取る難しさを示すことで、検査利用についての判断材料を提示)
・世帯ごとに給付される10万円のこと。(「辞退」を促すような一部の風潮とは違う選択も肯定)
・陽性が判明した順番が、感染した順番とは限らないこと。(陽性者に対する差別や偏見が広がっている現状への問題提起)
・人と距離を取ること。(感染しないためであると同時に、自分自身が感染させないためという両義性の提示)
を誰かを批判したり、不安を煽ったりすることとは無縁の空気の中で的確に伝えていた。
番組の構成に、中居さんがどれ程関わっているのかはわからない。
しかし、この番組の情報の伝え方の一貫した「芯」のようなものに、中居さんの姿勢や想いが反映されているのは間違いないだろう。
それはSMAPがそうであった、テレビの向こう側の人を置いてけぼりにしないあり方そのものだから。

木村拓哉さんは、熊本・大分地震をきっかけに自身がリードして所属事務所内で立ち上げたSmileUpProjectの一貫として、手洗い動画の配信、医療現場への防護服や防護マスクの寄附などに取り組んできた。
最新の活動では、2017年の主演ドラマ『A LIFE~愛しき人』の監修で携わった医師らとのつながりの中で、医療従事者から受け取った手紙を朗読することを通して、少なからぬギャップのある、一般の感覚と医療現場の過酷な現状との間を繋げようとしている。

「僕自身改めて色々なことを考えるきっかけにもなったので、ここで紹介させていただきました。ありのままの医療現場を皆さまにも知っていただきたいなと思い、伝えさせていただきました」
という木村さんの言葉は、彼らしい率直さ、自分にとって大切なこの気づきは、きっと多くの人にとっても大切だというまっすぐな信念、自身に託されたメッセージを「伝える役割」への強い使命感を感じさせるものだ。

そして、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんは、
「やさしいポケット、作ったよ」のメッセージと共に、LOVE POCKET FUND(愛のポケット基金)を立ち上げた。
元々この基金は、「生きにくさ」を抱えている女性や子ども、高齢者や地方創生の支援を目的に創設が目指されていたが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、まずは「新型コロナプロジェクト」をスタートすることになったそうだ。

プロジェクトでは、医療関係者とそのお子さんを含めたご家族への支援に並んで、両親・ひとり親感染家庭の児童の預かり支援への協力が目指される。
特に感染家庭の子どもたちのケアの視点は、私が知る限り、あまり注目されていない部分であり、そんな取り残されてしまったかのように見える部分の一つに、こうして光を当てる意味は大きいと思う。

残念ながら、今、この社会は目に見える形としてのSMAPを失ったままだ。
しかし、SMAPとしての「生き方」は、今日も変わることなく彼らの元にあり、私たちはその「生き方」にまたもや支えられている。
でも、彼らはきっと軽やかに笑うだろう。
ちょうど3人の基金のテーマにこうあるように。
「for youだけど、for meでもある」
「誰かにやさしくすることで、自分も幸せになれる」
「みんなの支えとやさしさが力を与えてくれて自分たちが存在している」
だから、これはキャッチボールなのだと。

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中居さんの番組での視聴者に寄り添う情報提供も、
木村さんの様々な支援活動も
稲垣さん、草彅さん、香取さんの基金も、本当に素晴らしい。

だからこそ思うのだ。

きっと彼らは、その本業であるエンタメで、
例えば彼らの歌で、彼らの番組で、
もっともっとみんなを助けたいだろうし、笑顔にしたいことだろう。

いつでもそこにあったはずの「当たり前」が失われた毎日の中で、
ほんの少し前まで当たり前だった、
テレビをつければいつでも「彼らがいる世界」が戻るなら、
どれだけ多くの人が、たとえ一瞬でも、ホッと安心して息をつけることだろう。

そろそろテレビ局は、腹をくくる時なんじゃないか?

この先の見えない閉塞感の中で、SMAPの歌を聴き、SMAPの姿を見ることで、俯いていた顔を上げられる人がいるのなら、それを可能にする「力」を、今こそ正しく使うべきだ。


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