普段の作家さんのイメージと違う?作風にギャップのある小説
この小説家はこういう作品を書くんだな、というようなイメージというのは、デビュー作もしくはヒット作によって決まる事が多いです。
本格ミステリー作家、SF作家、ホラー作家など、ジャンルは多岐に渡りますが、ある程度有名な作家さんには作風のイメージが定着しています。
ですがたまに、「あれ?この人ってこういう作品も書くんだ」と感じる機会があります。全く異なるテイスト、ストーリー展開、キャラクターなど、普段とのギャップに驚きつつも、結局楽しく読めてしまうものです。
ではそのような「普段とのギャップを感じた小説」を2本紹介します!
①「片思い探偵 追掛日菜子」(辻堂ゆめ)
辻堂ゆめさんといえば、デビュー作「いなくなった私へ」や「僕と彼女の左手」「今、死ぬ夢を見ましたか」などの、切ないけれど心温まる作風が特徴です。日常の中に非現実的な要素が入り混じるSF的展開もありつつ、登場人物たちを身近に感じる事の出来る物語が私は大好きです。
また、「悪女の品格」などの生臭いサスペンス作品も魅力的ですね。
では「片思い探偵 追掛日菜子」はどういう作品か?
簡単にいえば、推しを血眼になって追いかける女子高生の話です。
しかも推しがすぐにコロコロ変わり、時には舞台のスタントマン、そして時には総理大臣にまで愛が及んだりと、守備範囲が広すぎる。
そして日菜子の推しは必ず何らかの事件に巻き込まれたり、容疑をかけられたりと散々な目に遭ってしまい、それを日菜子が持ち前の推理力で解決するという展開の連作です。
毎回物語の最後には、自分を窮地から救ってくれた推しが日菜子に好意を持ってくれるのですが、理想と現実のギャップに打ちひしがれた彼女は推しへの熱量を失って泣き崩れるというパターンです。
普通は好きな相手から好意を寄せられるなんて嬉しい事この上ないはずですが、日菜子にとって推しは「自分だけのものになってはいけない」存在。
この理念に反する事態に毎回陥ってしまうことから、その都度推しを変更する様子が非常に今どきの子らしくて面白いです。
続編も出ていますが、そちらでも同じように、
推し活→事件発生→解決→推しに絶望、という展開が続きます。
②「きつねのはなし」(森見登美彦)
森見登美彦さんは風変りな作家さんですよね。
「太陽の塔」「四畳半神話大系」などの、冴えない男子学生のボヤキを綴ったような物語や、狸の一家を中心に描かれる京都の妖怪物語「有頂天家族」
黒髪の乙女が不可思議な夜の世界へ迷い込む「夜は短し歩けよ乙女」など、
京都を舞台にしたファンタジー作品を数多く出版されています。
まるで落語みたいな語り口調が、混沌とした森見登美彦ワールドに読者を誘ってくれる、そんな特殊な読書体験ができます。
私はちょうど作品の舞台になっている京都市に住んでいるので、いつもの散歩コースが全て物語に登場した場面と重なってしまいます。
ですが森見登美彦ワールドには、愉快なだけではない、暗く恐ろしい側面も存在します。
それが「きつねのはなし」
4作からなる短編集となっており、それぞれの話がいつもの森見登美彦さんらしからぬ、おどろおどろしく、いつ恐ろしい何かが起こるか分からない不安を掻き立てる、そんなストーリーです。
なんだか読んでいる間、深夜に田舎町の霊園を一人で歩いているような気分にさせられました。
以上2作、普段とのギャップを感じる小説の紹介でした。
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