2/16 トラさん、すごい映画なんですが…何…?

北山宏光くん主演のファミリー映画「トラさん」をみました。嘘だろ?って感じなんですが、すごくおもしろかった!この映画、予告編だけみたらすごくふざけているようにみえるかもしれない(大人たちが猫の着ぐるみをきて走り回っているので…)けど、めちゃくちゃ真面目。まともで真っ当、実直、これぞファミリー映画の王道!という感じ。シュールで笑ってハートウォーミングで泣けるいい映画でした。

◇あらすじ

パチンカス&競輪狂い&無職というクズ多重苦の描かない漫画家・スズオはある日突然死んでしまう。あの世の関所でお前生前クズすぎたからちょっと挽回してこいと言い渡され1か月間だけ現生に戻される、何故か猫の姿で…。

北山くんは死ぬまでの冒頭の体感10分くらい?のあとはほとんど猫の姿になる。猫の姿といっても実写猫にアテレコするわけではない。猫の着ぐるみをきて、北山くんが猫として演技をする。いや…これがほんまに、ほんまにこれがすごい。わざわざ人間が猫の着ぐるみを着て猫になる意味とは…ビジュアルが強すぎて映画に集中できないのでは…北山くんが映っていればうれしいファン以外は置いてけぼりなのでは…つまりとんでもないクソ映画なのでは…とお思いでしょう未鑑賞の皆さん!ところがどっこい、大の大人が着ぐるみを着て猫を演じることでこの作品の魅力が増幅されている。

◇大胆な擬人化表現がすごい

猫の着ぐるみを着て人間が猫を演じる。つまり擬人化映画です。「綿の国星」方式ね。人間視点と猫視点でカメラが切り替わったりしないで、人間も擬人化した猫を同じ空間で映す。普通ならわかりにくくなるじゃん、でも混乱しないんだ…なぜなら、着ぐるみを着ているから……!!すげえよマジで冗談抜きですげえですこれは。大胆すぎて逆に自然にみえてしまっているのですげえ。

しかも猫の擬人化だからといってわざとらしく猫っぽくふるまったりもしない。普通に人間の頃のスズオみたいに歩くし、しゃべるし、食べる。着ぐるみだから開き直ってるな…故にナチュラルで、より猫らしさを感じるのかも。もともとスズオは猫っぽい(北山くんの顔もにゃんこって感じがする)でも猫だから手は人間みたいに使えないし、言葉も通じない。

劇中に「お前やさしいじゃん」「!ねえ『飼って~』っていってる~~!」「いってねーけどな」という掛け合いがあるけど、私たちに聞こえているスズオの台詞は劇中の人たちには猫の鳴き声にしか聞こえてないので会話に齟齬が生じていく。スズオがしゃべっていても言葉を言いきらないうちに被せるようにセリフが返ってくる。この会話のテンポが地味に面白い。

私たちには着ぐるみを着た人間にしかみえないけど劇中では猫の姿にみえているので、着ぐるみをきた人間といえど扱いは猫。徹底的に猫。猫になりたてでくっせえねこまんまを食べられなかったスズオがコンビニに入ってピザまんを注文するシーンがあるけど「猫ちゃんダメですよ~~」と丁寧に抱きかかえられて外に出される。葬儀に乱入すればこらこらどっから入ってきたのかな~と要潤(一方的にライバル視していた漫画家)に追い出され、大暴れして抵抗するけど顎回りを超絶テクで撫でまわされおとなしくなる。高畑家に飼われることになったシーンではオスメスチェックのために寝っ転がらされてM字開脚で局部をみられる。まぁなんかそこに人間としての尊厳はないというか、めちゃくちゃ猫。そしてこの世界の人間はスズオ以外全員猫を愛らしい存在だと思っていて、めちゃくちゃかわいがってくれる!!幸福!

というわけで徹底的に猫として描写されるわけだけど、元は人間、そして演じているのも人間、というのがこの映画の良さだなぁ~。前述した場面はシュールギャグとして笑えるけど、シリアスな場面でも着ぐるみの良さが活きる。喪失した家族の空気や、猫故に力になれない、傍にいるけど傍にいられない無力感がすごく鮮明に演出されてる。予告に入ってる北山くんが着ぐるみをきて救急車を追いかける場面あるじゃん、なんも知らんでみたら「なんだこれは…」「コントかな?」って思うじゃん……でも私あの場面で泣いたからね!?この映画をみて泣くつもりがなかったので「え・・・うそ・・・私・・泣いてる・・・?」と頬を触って確認してしまったよ!!ちなみにここで泣いたらあと3回泣ける。

◇トラさん、実は漫画家映画だった

嘘みたいなほんとの話なんですが、トラさんって漫画家映画でした。劇中でスズオが描いてる「ネコマン」って作品のタイトルもバクマンのオマージュなのかな?って思うくらい漫画家の描写が熱い!この作品は家族愛を描いた作品だけど、漫画家映画としても一本筋が通っていると思う。ここから先の話は重要なネタバレを含みまくるので、自己責任で読んでくださ~い。

主人公・スズオの職業は漫画家だ。原作では「売れない漫画家」という肩書だったけど、映画のほうでは10巻で127万部売り上げてアニメ化までした作品を連載していた過去をもつ元売れっ子漫画家、という設定になっている。「ウケそうだから描いてみたらほんとにウケちゃったけど猫嫌いだからもう描きたくない」というこれまたバクマンっぽい理由(コラー!)で連載を自主的に休止して、今は新しい作品の構想を練っている。

ここから先は作中で言及されていない私の妄想ですが、バクマン的に(少年マンガ的に)考えると、たぶんスズオがネコマンを描かなくなったのはネコマンでは同期のライバル漫画家・浦上栄剛(要潤)に勝てないと思ったからだと思う。浦上はタイムスリップ歴史モノの少年漫画で大ヒットを飛ばしていて、ネコマンのような動物キャラモノでは人気や発行部数で勝てそうにない。猫嫌いなスズオがネコマンを描いたのはウケるためだけど、そのウケって、売れる/売れない、食う/食えないと関係なく浦上に勝つためのウケだったんじゃないかと思う。

ネコマンでは浦上に勝てない。そう思ったスズオはネコマンを自ら打ち切る。といっても最後まで描かずに、「体調不良」という建前で未完のまま連載を終了してしまう。マンガのファンとしてこんなにひどい話はないけど、たぶんスズオはネコマンを終わらせることが怖かったんだと思う。終わっちゃうと評価が定まっちゃうもんね。アニメ化もして人気も安定したときに体調不良で休載、って一番ファンから惜しまれるし格好もつくもんな。そして編集部にとっても終わらせることが惜しいくらいの作品だったんだろう。めっちゃタイアップできそうだしグッズ化もできそうだし子供向けでファミリー層に売っていける金の匂いしまくりの作品だもんな(コラー!!!)

結局スズオはネコマンの最終回もかかず、新作の発表もできないまま死んでしまう。そして猫の姿になって父親と夫を失った家族と一緒にすごしていく中で、ネコマンの最終回を描くことを決める。トラさんは、スズオが「浦上栄剛に勝てるマンガ」ではなく、「家族を養うための売れるマンガ」を描くことを選択するまでの物語なんですよ!!!!!

スズオが一晩だけ人間の姿に戻ってネコマンの最終回を描く描写がめちゃめちゃ熱くてかっこいい!夜10時くらいだったかな?から明け方の6~8時間程度で、24ページのマンガの下書き~完成までやる、って無理ゲーじゃん!!!無理、無理ですそれは、勘弁してください、想像するだけで死にそう。でもやる。こっから本気の作画モードに入るんだけど、この描写が全部かっこいい。まず利き手に手袋をはめる。この手袋は原稿がこすれたり汗がついたりしないようにするためのもので、アナログ描きなら結構やってる人多いと思うんだけど、手袋をはめる動作そのものがそもそもかっこいいですね。そして下書き、迷い線もなく一発で絵をキメていく様子はプロを感じさせて超超かっこいい。あと新品のペン先についてる油を飛ばすためにライターで炙る動作、超かっこよくない?アナログ描き、かっこいいという理由でどんどんペン先を炙ってほしい。どんどん作画が進んでいって、気づけば明け方、タイムリミット。完成とはいえないけどなんとか形になった原稿をチェックして、肩をなでおろすスズオ…スズオすごい、すごいよ~~~~・・・・!!!

スズオはそれまでクズ多重苦の糞野郎として描かれてるから、クライマックスの漫画を描くシーンのかっこよさが際立ってる。このスズオをみると、ミユの将来の夢が「漫画家」なのも、ナツコがマンガ以外の仕事をしようとせずふらふらしていたスズオを応援していたのも納得できる。かっこいいもん、マンガ描いてるスズオ!

起きてきたミユとナツコがネコマンの最終回を読むシーンもいい。読み進めていくと、途中からなんでもないシーンで見開きが多用されているのとか笑える。「これって手抜き?」「でもすーちゃんらしい」というやり取りも、すごくいい。読み終わったあと「塗り残しがあったね」って二人で最終回の原稿を完成させていくシーンなんてもう~~~よすぎる!ミユは劇中でマンガを描いてるし、過去回想のシーンでナツコがネコマンのアシスタントをしていた描写があるので当然のように修正・仕上げをしていく。ミユはスズオの机で、ナツコはミユの机で、ネコマンを二人で描いていたときのように背中合わせで作画してて、エモいってこういうときにいうんだろうな。漫画家家族、熱い…!!

これは本当に細かいうえめちゃくちゃどうでもいい話なんだけど、スズオの仕事机とミユの学習机がおいてある部屋の本棚にマンガが並んでいるんですね。タイトルまではわからないけど、ほとんどが少女マンガだからきっとミユの本棚なんだと思う。なんで少女マンガレーベルかわかるかというと、背表紙をみればわかる。ひと昔前の少女マンガはほとんど同じ背表紙のデザインで統一されていたから。でもこの統一された背表紙って一部を除いて10年くらい前からなくなってきてて、今の少女マンガってほとんど各作品にあわせたデザインになってるんですよ。だからミユって今連載してる作品じゃなくて少し古い作品を読んでるんだな~と思いながらみていた。それでラストの展開をみてア!!と、あの意外な本棚の意味ってそういうことだったのか!とハッとさせられる。私が注視してないだけでもっとわかりやすい形で提示されていたOR勘違いの可能性もあるけど、芸がすごく細かい~~~!!!と感嘆しちゃった。

◇だまされたと思ってトラさんをみて

この作品がイロモノと認識されて終わってしまうのは本当に悲しいので、だまされたと思ってみてほしいよ~~!!休日に子供をどこかに連れていきたい親子連れの皆さんとか、「ドラえもん」が始まる前に「トラさん」をみよう…。笑いの取り方とかはちゃんと大人向けだけど見た目があほみたいでかわいいし重くなりすぎず楽しく優しい作品なので…。あと制作会社がロボットというところなんだけど、この会社の過去のファミリー向け代表作が好きな人は楽しめるんじゃないかなぁ。っていうか「トラ泣き」ってプロモーションが「STANDBYMEドラえもん」のときの「ドラ泣き」とほとんど一緒じゃねえか!流用すんな!あとは漫画家映画というジャンルが好きな人も見逃すな!熱いぞ!全人類北山さんに恋をしろ!

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