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【前編】最初から完璧を求めない。陶芸家:吉川仁さんのお話

京都で作陶する陶芸家、吉川仁(よしかわじん)さん。
私が彼の作品に出会ったのは今から約2年前。まだうつわを買い始めて間もない頃に吉川さんの作品をみて、シンプルだけど「渋かっこいい」テイストにひとめ惚れ。最初にマグカップを買って、その次に飯碗を、さらにどんぶり碗を買って、この3つのうつわは今ではほぼ毎日私の生活に寄り添ってくれている。

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たくさんあるうつわの中で、吉川さんのうつわは主張が強くないのに存在感が大きい。厚みなのか、色味なのか、食卓にうつわを並べるときに1つ加えるだけで中和してくれるようだ。柄ものにもモノトーンにも合う振り幅が大きくて、理想的なポジションにいるなぁと使うたびにいつも思う。
きっと多くの陶芸家さんがうつわをつくる過程で作風に悩んだりするのだろうけれど、この生活に溶け込む絶妙な立ち位置こそが目指すところなのかなと使いながらぼんやり考えている。

そんな、私にとって憧れの吉川さん。
先日、京都高島屋でやっていた個展へ行ったときに「インタビューさせてください!」と思い切って言ってみたら、なんとOKをもらえて。今回、京都の自宅にお邪魔してたっぷり話を聞かせてもらいました。

うつわの世界を飛び越えて

ー今日はありがとうございます。まさか、ご自宅に伺えるなんて..。ここはキッチン兼リビングなんですね。吉川さんの作品って、どこにあるんですか?

(吉川仁さん ※以下、吉川)私の作品は普通に生活で使っているので、この引き出しに収納していますね。


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ーわぁ、すごい。他の作家さんのものもたくさんある。

(吉川)そうですね、けっこう他の作家さんのうつわも使っています。奈良の作家さんのもありますよ。

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ーわぁ、本当だ。たくさん、ある..。(興奮気味)

(吉川)自分の作品だと、こういう平皿や角皿をよく使いますね。

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最近だと、袋もの(一輪挿し、徳利、壷など、胴より口が狭くなったもの)をつくるのにハマっています。とくに花器は食器より自由で好きなんですよね。

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ー食器より自由って..。うつわの枠を飛び出すということですか?

(吉川)そうそう。食器って、盛る料理はうつわの中にたいていおさまるし、内容もだいたい想像できるじゃないですか。想像できるっていうのは、「あ、これは肉じゃがだ」とか、料理は食材や味を見ればだいたい分かるということ。
それに対して花器は、植物を活けますよね。植物って私にとってはまだまだ知らないものばかりなんです。「こんな草があったんだ」とか活けるたびに勉強になることばかりで。また、活ける花によって雰囲気がガラッと変わりますよね。そういう意味で私にとって花器は、想像を飛び越えた豊かな表情でおもしろがらせてくれる存在なんです。

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ーへぇ!なんだか聞いているだけでワクワクしてきます。

自然の灰がつくる難しさとおもしろさ。

ーこの花器、表面がゴツゴツしていて。なんだかかっこいい。

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(吉川)これは「焼き締め」と言って、釉薬(ゆうやく ※うわぐすりのこと)を使わずに窯の火だけでうつわの表情を出すやり方なんです。表面に少しだけテカっている部分があるでしょ?これは灰の成分と土の成分が溶けて、ガラス質になるんですよ。

ーえぇ、ガラスになるんですか!自然の灰だけで、ゴツゴツしたりテカったりするなんてなんだか不思議..。これは焼きの時間がかかりそうですね。

(吉川)実際にこの作品は2日弱、窯で焼き続けましたね。土にもよるのですが、私が使っている土は比較的扱いやすいので出来上がりは早いほうなんですよ。3日以上かけて焼く人もいますし、窯の中でも置く場所や条件によって風合いが変わるのでなんども実験を重ねてつくっているんです。

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ーそうなんですね。なんだか気が遠くなりそうな工程..。

(吉川)窯は、登り窯が別の場所にあるのですが、焼き締めのときはここに籠もって火の温度や窯のなかの状況をみています。

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(吉川)最近はこの焼き締めはやっていなくて、釉薬の上から植物の灰をかけて焼き締めのような風合いを出しています。そうするとこんな表情が生まれるんですよ。

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ーうわ、また違った感じ。ゴツゴツ感はないけど、雰囲気は似ていますね。

(吉川)そう。これは松の灰がかぶっているのですが、自然な表情が出るので気に入っているんです。これも焼き締めと同じく条件によって色が変わるので均一に出すのが難しい。でもそこがまた、おもしろいんですよ。

ゆるゆるな性格で

ー吉川さんの作品って、すべてが均一ではないというか、形や色が微妙に違っていてそのわずかな「ゆらぎ」がまた面白いなぁと思うんです。なにか意識してつくっていたりしますか?

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(吉川)性格なのかもしれないですが、昔から隙のある作品が好きなんですよ。

ーえ、隙がある性格なんですか?

(吉川)はい..こう見えて、ゆるゆるな性格ですよ(笑)一夜漬けタイプで個展の準備も直前にやることが多くて..毎回綱渡りな感じです。

ーわっ!私もそんな感じなので、めちゃくちゃシンパシーを感じます(笑)

(吉川)だから作風も完璧なものを求めないというか。昔から唐津焼や李朝が好きでよく見ていたのですが、やっぱり共通しているのは「隙がある」ということなんですね。柔らかさというか、形が少しイビツだったりと「ゆるさ」があって。それが自分の性格にもマッチしているんでしょうね。

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(吉川)よく言えば、「未完の美」みたいな..。たわんでいてもゆらいでいても傷があっても全然良くて、作品の風合いに合っていればいい。究極を言えばうつわって、均一でなくても機能すればいいと思っているんです。茶器なら、どんなかたちでもお茶が飲めればいい。そこに少しだけ作家の特徴が出ているだけで話のネタにもなるし、共通の知識にもなる。そんな程度かなぁ、と。

ーその考え方はおもしろいですね。最初から「きれいにつくろう」と思い過ぎないところがいいなぁと。だから、実際に使っていてもホッとするのかなと思いました。そういうことだと吉川さんは誰かを意識して作品づくりをしていたりしますか?

(吉川)まずは自分が使いやすいことですね。持ちやすさとか、食べる量とかは自分に合わせてつくっています。飯碗だって、初期は大きなサイズでつくっていたのに食が細くなるのと同時にだんだん小さくなってきて(笑)
私って、「万人受けするものをつくろう!」っていう器用さを持ってないんですよ。できる範囲でやりたいことをやっていきたいなって。

ー最初から「無理しすぎない」という、良い意味でゆるい姿勢が作品にあらわれているのかなって思いますね。

(後編へ続きます)

★プレゼント企画★
2回にわたってお届けするインタビュー記事ですが、読んでくれた方にぜひ吉川さんのうつわを使ってほしいと私は勝手に思うのです。
そこで、このnoteを見てくださりnoteやtwitterで何らかのリアクションをしてくださった1名の方に吉川さんのうつわをプレゼントします。プレゼントの内容は後編でご紹介しますのでどうぞお楽しみに。

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〈吉川仁さんのウェブサイトとインスタを紹介します〉

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